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トラベルライターによるホットな現地情報
<No.16> フランス
2001年4月号


独仏文化の融和するアルザス地方
コルマールからワイン街道へ、そしてストラスブールを訪ねる

 フランスの東、ライン川を挟みドイツのと国境に位置するアルザス地方−−町々にはドイツ文化を思わせる木組み造りの家が並び、フランスの中では独特な個性を放っている。アルザスはフランスで最も小さい地方だが、土地は肥沃で、アルザス・ワインの産地としても知られる。観光のハイライトはコルマールを拠点とするアルザス・ワイン街道巡り。度重なるアルザスの戦火の歴史や、国境を接し合う欧州文化を実感できる道でもあり、首都・ストラスブールでは戦災に翻弄されたアルザスの今を垣間見ることができる。

西尾 知子 (旅行ライター)


破壊を免れた旧市街の残る町・コルマール

コルマールの“頭の家”。17世紀の建築で
かつてはワイン交易所として使われていた
 アルザス・ワイン街道はアルザス北部のマーレンハイムから南のタンを結ぶ約170kmに及ぶ道で、街道沿いにはワイン製造を行う町や村が90カ所以上もある。

 街道上の町・コルマールやアルザスの首都・ストラスブールからは現地発着ツアーが催行されており、様々な品種のブドウ畑や摘み取り風景、ヴォージュ山脈のふもとに沿って連なるブドウ畑を眺めながら、街道沿いの歴史ある町々やワインカーブを訪ねることができる。

 コルマールという町はワイン街道のほぼ中間に位置することから、ワイン街道巡りの拠点として知られている。またこの町は三十年戦争、フランス革命、普仏戦争など度重なる戦災の被害を免れた、アルザスでは“珍しい”町の1つでもある。旧市街は「町並み保存地区」に指定され、国の歴史建造物に指定あるいは登録された建物も45ヵ所にのぼる。ゴシック建築の教会や15世紀の旧税関、外壁に絵画が描かれたルネッサンス期の商人の館、17世紀の富豪の邸宅などバラエティ豊かな建物が並び、それらを眺めながら散策するのがこの町の楽しみ方だ。

 特にウンターリンデン美術館は必見ポイント。建物は13世紀の修道院を改築したという建物もさることながら、この美術館はドイツの画家・グリューネヴァルトの筆による“イーゼルンハイムの祭壇画”で名高い。この祭壇画が描かれたのはルネッサンスと宗教改革の嵐が吹き荒れた時代。腐敗斑が浮かび無残なまでの死人と化したキリストの表情は、言葉を失うほどの迫力で見るものを圧倒する。


■個性的な町々を巡りワインを味わう
 
 さて、ひととおりコルマールを散策し、いよいよワイン街道巡りに出発である。

アルザスのワイン樽は楕円形なのが特徴。
「狭いスペースを有効に使うため」だとか
 今回私が参加したツアーは、コルマールの観光案内所で紹介してもらった半日コース。ドライバー兼ガイドのジャン・クロードさんはフランス語、英語、そして日本語を話し、米・仏・日の参加者それぞれに母国語で解説をしてくれる。

「現在アルザスで生産されているワインは8%が赤ワインで残りの92%が白ワイン。アルザス産の白ワインはフランスで生産されるワインの約3分の1で、アルザスの原産地統制がなされているワイン“AOCアルザス”は85%が普通のアルザスワイン、3%がグラン・クリュと呼ばれる特に良品質のもの。そして残りの12%が“クレマン・ダルザス”というスパークリングワイン……」と、その弁舌は実に鮮やかで分かりやすく、軽快だ。

 ツアーはコルマールを出発して街道を車で走りながらカイザースブルグ、トルクハイム、エギスハイムといった町を回り、ヴェットルスハイムにあるワインカーブを見学するというルートだ。ブドウ畑を眺めながら、あるいは途中で下車し、ブドウ畑の中の散歩道を歩きながら、中世の趣あふれる町々を巡る。

 最後に訪れるヴェットルスハイムは比較的新しい町。「戦争で壊されてしまったので、古い建物はあまり残っていない」という説明を聞きながらワインカーブへと向かう。カーブではワインの製造機具や貯蔵樽、ボトル詰めなどを見学または説明を聞くことができる。

 またお待ちかね(?)のテイスティングではアルザス唯一の赤ワインであるピノ・ノワール、白ワインのシルヴァネール、ピノ・ブラン、ミュスカ・ダルザス、トカイ・ピノ・グリ、リースリング、そしてギュベルツトラミネールと、代表的なアルザスワイン全種に加え、遅摘みのリースリングや貴腐ワインも楽しめる。


■独仏文化が融合するアルザスの明暗

カラフルな尖塔を持つトルクハイムの市庁舎
 アルザスのワイン製造はローマ人によって伝えられたという。西のヴォージュ山脈、東のライン川に挟まれたアルザス地方は、ヴォージュ山脈が海洋性気候を堰き止めるため、フランスで最も雨が少ない大陸性の日当たりのよい気候に恵まれた。また大地も花崗岩、石灰岩、砂岩など水はけのよい地質が程よく調和し、ブドウ栽培に適した土壌でもある。

 こうした自然の恵みのもと、アルザスのワイン製造はメロヴィング王朝時代にはすでに主要産業となっていた。中世には組合のもとブドウの品種や選種や製造方法に厳格な基準を設けていたので、アルザスワインは高品質のワインとしての評判も高かったという。

 アルザスはこうした豊かな大地に恵まれ、ワインのほかにもマンステールチーズといった特産品も多く、「オ・クロコディール」といったミシュランの三ツ星レストランも有する美食の国でもある。また農産物に加え、鉱山など天然資源も有する工業地域でもあり、経済的にも非常に豊かな土地だ。

 このように恵まれた土地であるが故に、幾度となく独仏間の争奪の的となってきたのかもしれない。度重なる戦災や為政者達による領土争奪戦にさらされながらもアルザス人はこのワインの伝統を守り、今に伝えてきた。現在首都・ストラスブールにはEU(欧州連合)の本部が置かれて、欧州の中心地となっている。独仏の狭間で翻弄された彼らの歴史を思うと感慨深い。


◆ストラスブール、コルマールへのアクセス
 ストラスブールへはパリ東駅からドイツ方面行きの特急で約4時間。コルマールはストラスブールから列車で約30分。

◆ワイン街道ツアー
 Les Circuits d'Alsace
 L.C.A. Top Tour, 6, pl. de la Gare, F68000, Colmar
 Tel:03 89 41 90 88(日本語:03 89 41 90 40)
 Fax:03 89 41 90 99
 URL:www.alsace-travel.com


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