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トラベルライターによるホットな現地情報
<No.17> マレーシア
2001年5月号
マレーシア・ジャングルの旅への招待
タマン・ネガラの釣り紀行
熱帯雨林の情報を集めていたときのことである。タマン・ネガラ国立公園のパンフレットを開くと、大きな魚を誇らしげに掲げている男の写真が目に入った。そこには「釣り人が恐れるクラフィッシュ」と書かれてあった。釣キチの私は1mオーバーのそれを釣り上げるシーンが脳裏に浮かんだ。
金剛寺 拳 (写真家・日本旅行作家協会会員)
■首都クアラから車で5時間
タマンネガラリゾート
2カ月ほど経ったある日、私はタハン川を遡る船の船着場を目指した。釣りの基地となるタマン・ネガラ・リゾートに行くのだ。
首都、クアラ・ルンプールから車で約5時間かけて国立公園の入り口になるクアラ・テンベリンまでやってきた。雇った車の運転手と地図を見ながら、途中の町で肉饅頭を食べたり、迷い道をしながらのんびりと田舎道を走ってきた。
公園事務所で入場料とカメラの持ち込み料16リンギット(1リンギット=約30円)を払い、船に乗り込んだ。船賃はリゾートのあるクアラ・タハンまで19リンギット。平底船は2人並びで14人乗り、75馬力のエンジンを搭載している。
ミルクティー色をしている200mほどの川幅の中を蛇行しながら上流に向かうと、ときおり岸に繁る緑の樹林の中で鳥の甲高い鳴き声が響く。川幅は徐々に狭くなり、出発してから3時間で目的のタマン・ネガラ・リゾートに到着した。
岸の石段を登ると、川に沿って100棟ほどのコテージが建てられているのが分かった。フロントで鍵を受け取り、夜に釣りガイドが打ち合わせにやってくることを確認した。夕食を済ませ、心地よい疲れを感じつつフロントに行くと、顎鬚を蓄えた小柄な男が声を掛けてきた。
「ミスター、あなたが日本からきた人ですか?」
しっかりとした英語である。どうやら、前もって頼んでおいた釣りのガイドのようである。これから、面白いところに案内するのでついてきてくれという。彼はジャングルに入り、奥のほうに進んで行くではないか。暫くすると、蟻の行列を懐中電灯で照らし、生態を解説し始めた。さらに奥の方に入ろうとするので私は待ったをかけた。
「気持はありがたいが、長旅の疲れがあるので探検は次回にしたい」と言い、明日の釣りに備える事にした。サービスなのか料金に入っているのかは定かではない。
■釣りのポイントへ
翌朝、ガイドのハムザの小船で下流に向かった。
すぐ右手から合流してくる細い川に入った。曲がりくねった川を進むうちに濁りが消え、釣り場に近づいているのが分かる。別の沢が流れ込み大きな淵が形勢された岸に舟を寄せた。
タマンネガラを行く観光船
竿は183センチ、中型のスピニングリール、ラインは大物を意識して10ポンドテストラインを用意してきた。私の釣りは、生きた餌を使わないルアー釣りである。このあたりの釣り情報は日本にはまったくと言っていいほどに伝わってこないので、様々なルアーを試すことにした。まずは、スプーン。
昔、ヨーロッパの湖で舟からスプーンを落としてしまったときのこと。ヒラヒラと深みに落ちていくスプーンに魚が噛み付いた。それ以来、スプーンというルアーが考案されたという。
そこで、まずこのルアーから始めることにした。放射状にあらゆる方向にスプーンを投げたが魚からの反応は無かった。そこで、小魚を模したミノーに付け替え再び投げこんでみるが、ルアーの風を切る音だけが空しく響き魚信は無い。
突然、背後でサイレンが鳴った。上流で放水かとガイドに訊くと、「あれはチカラという虫が鳴いているのだ」という。考えてみれば、ジャングルの奥地にダムなど在るわけはない。まさに、パワーのあるチカラだがどんな姿をしているのであろうか。
■万事休す
美味だったフローティング食堂のミソスープ
遥か遠くでエンジンの音が聞こえてきた。やがて観光客を載せた小船が次から次へとやってきて、魚場を荒らして通過して行った。
西洋人が気楽に「おはよう、釣れるかい?」と声を掛けてくるが、あんなに水の中をかき回されては釣れるわけは無い。上流の滝を見物に行くようだ。こちらも、場所を変えて上流に移動した。
私のルアーを見ていて、ハムザは興味深そうにフローティング・ラパラ(水面に浮くタイプの小魚のルアー)を摘み上げた。
「使ってみるかい?」と言うと、満面に笑みを浮かべ対岸に向かってルアーを投げ始めた。165センチの振り易い竿を彼は持ってきていた。ポイントを数多く攻めるためにボートは流れに任せドリフトをしていく。
サイド・キャストで樹木の下からポイントにハムザは投げ込んだ瞬間、彼は奇声を上げた。見ると、竿が撓っているではないか。慎重に引き寄せると、肩幅サイズの魚が現れた。彼は,魚の名を「スバラオ」と言った。顔は鯉、銀色に輝く鱗も鯉に似ているが、背びれだけはオイカワに近い。
私も負けじとばかりルアーを飛ばすと、上流から滝からの帰り客のボートがやってきて私のラインをエンジンに引っ掛け、ルアーもろとも引きちぎって行った。
万事休すである。
ハムザの釣ったスバラオの写真を撮り、もとの川に戻そうとすると、ハムザは慌てて魚に飛びついた。「せっかく釣った魚をどうして逃がすんだ?」と、目が怒っている。
「スポーツ・フィッシングではファイトをしてくれた魚に敬意を表しそのままもとに戻してやるのがルールだ」と説明すると、「なかなか釣れない魚を苦労して釣り上げたのにどうして逃がすのですか?」と逆に質問をされる始末。確かに奥地では魚は貴重なタンパク源であり、遊び半分で釣りはやるものではないという考えは頷ける。
「クラという魚は何処にいるのか?」とハムザに訊くとこの辺にもいることはいるが、どうやら生きた餌でないと釣れないと言う。頭のよい魚で、ルアーには飛びつかないらしい。それに、季節が合わないので雨期の明ける2月頃がベストだと主張する。
こうして,私のクラ探しは終わった。今回得た情報を元に、次回はさらに奥地に入りクラの大物に挑戦したいと思う。乞うご期待!
[交通]
クアラ・ルンプールからクアラ・テンベリンまではタクシーで1万円から3万円まで交渉で決められる。
[宿泊]
タマン・ネガラ・リゾート
1泊、149リンギット 森の中に点在するマレー建築のコテージで20畳ほどの寝室とシャワートイレが入り口付近についている快適な室内。船着場の対岸にはフローティング・レストランがあり、ホテル内の料金に比べて圧倒的に安く、長期滞在者にとってはありがたい。
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