旅コムTOP


DESTINATION NOW

トラベルライターによるホットな現地情報
<No.2>ノルウエー


ノルウエー・フィヨルド点描

氷河期への思いを馳せるロマンの旅−−ノルウエー点描

フィヨルドでのクルージングを楽しむ
ノルウェーの海岸線をゆくフィヨルドの旅は、遥か昔の氷河期へと思いをはせるロマンの旅でもある。
 ノルウェーは南北に細長い国で、首都オスロからヨーロッパ大陸最北端のノールカップまで、スカンジナビア山脈に沿って約2000km。西側の海岸線を地図で見るとノコギリの歯のようにギザギザしているが、これが氷河が作り上げた大自然の芸術、フィヨルドの印。今から100万年前、北欧は氷河で覆われていたが、この厚さ1000mもの氷河が浸食と後退を繰り返しながら山をU字型に削っていくその谷間に、海水が入り込んでできた地形がフィヨルドだ。

 山々から海へと流れ落ちる無数の滝。澄みきった水の色。フィヨルドはヨーロッパの自然美の極致といわれるが、規模も種類もさまざま。全長1.2キロの小さなものから150キロ以上に及ぶものまで。森林の丘に囲まれたフィヨルド、海水に削られた岩山だけのフィヨルド。岩山の谷間にあるフィヨルド。氷河が移動しながら何千年もかかって作り上げたダイナミックで繊細な技を堪能するにはフェリーなどの観光船に乗るのがベストである。

フィヨルドの深い青
 代表的なフィヨルドといえば、世界最長を誇るソグネフィヨルドと、最もフィヨルドらしい景観とされ、日本で紹介されるフィヨルドの写真でも一番多く使われるゲイランゲルフィヨルド。外海に接した海岸線から200キロも内陸の山奥まで海が入り込んだソグネフィヨルドは、奥へ進んで行くほど壁が両側から迫り、氷河や雪を頂く山岳地形が見られるのが特徴。最も深いところでは水深1000m。オスロ滞在型の旅で、手軽にフィヨルド観光を楽しむなら、オスロとベルゲン間を往復するツアーがおすすめ。ソグネフィヨルドから枝分かれした末端の支谷で、本谷よりも美しいと評判のアウランフィヨルドやネーロイフィヨルドをフェリーで観光、ツアーによっては車窓からの展望が抜群のベルゲン鉄道やフローム線での旅も含まれている。




無数の滝と出逢うゲイランゲル・フィヨルド

馬車でブリクスダール氷河へ
 ゲイランゲル・フィヨルドのフェリー観光は無数の滝との出逢いだ。ゲイランゲルからヘレシルトまで1時間の船の旅を楽しんだ。もっと複雑に入り組んだ海岸線を予想していたが、実際に見ると、氷河が作ったU字型の規模は想像した以上に大きく、改めて氷河の大きさや力を感じる。かつて国民的文学者のビヨーンソンは、「ゲイランゲルに牧師はいらない。フィヨルドが神の言葉を語るから」と讃えたという。神の声にじっと耳をすます…。

 ある山は緑に覆われ、ある山は岩肌をむきだしたまま。滝は断崖から真下の海へ静かに落ちる。「7人の姉妹」や「花嫁のベール」など有名な滝の説明はテープで案内される。日本語でも放送されるので安心だ。ふと気づいたのだが、フィヨルドは海水なのに、海、つまり塩のにおいがしない。外海から流れ込んでくるあいだに川の水や雪解け水で塩分が薄くなっているから、と聞いて納得した。

 もう一つ、最近訪れる人が増えているのがリーセフィヨルド。最大の見どころは、長方形に切り取られた、高さ600mの垂直に切り立つ崖プレーケストーン。フィヨルドに突き出した真っ平らな巨大な岩山の上に立ち、遥か600m下の海面を覗き込む時の気持ちは何ともいえない。高所恐怖症ならずとも、ちょっとは足ががくがくする。観光船での観光は、海の高さから巨岩を見上げるだけ。船着き場からバス、フェリー、徒歩と2時間ほどかけても、ぜひ岩の上まで。


白く煙る滝にくっきりと浮かぶ七色の虹

ブリクスダール氷河
 ノルウェーの旅のもう一つのハイライトが氷河観光。ゲイランゲルフィヨルドを観光するなら、ブリクスダール氷河までぜひ足をのばしてみよう。車が入れるのはブリクスダール谷までで、ここから馬車に乗り換える。馬の背に揺られ、山道を上がって行くと、ごうごうと凄まじい水しぶきをあげる大きな滝が見えてくる。いよいよ滝の前を通り過ぎる時はどう避けてもかなり水しぶきを浴びるが、それも楽しさの一つ。ここは美しい虹のかかるポイントとしても有名で、白く煙る滝の中に、くっきりと七色の虹が見えた。

 30分程で馬車を降りると氷河が見えるが、本物の感動を味わうには、さらに徒歩で岩の間を登って行く。突然視界が開けた時には、空から吊り下がったように見える急傾斜なブリクスダール氷河の目の前にいる。その大きさにも圧倒されるが、透明なブルーがかって見える色もとてもきれいで、人の手が加えられていない天然の氷の彫刻を目の前に、しばし言葉を忘れてしまう。氷河から溶けた水が流れ、周辺に小さな湖を作っている。澄んだ水にそっと手をつけ、冷んやりとしたさわやかな水の感触を思い出に持ち帰ろう。

 氷河にフィヨルド…。ノルウェーの自然は心を清々しくしてくれる。青やエメラルドグリーンに色を変えるフィヨルドの水の鏡の上をフェリーで進むと、入り江の向こうには森やのどかな村、可愛らしい家々が点在している。バスや鉄道の窓から見る山や深い森や木造の教会が、牧歌的な景観が印象的。ノルウェーには妖精トロールをはじめ、民話や伝説が多く息づいているが、妖精がふとどこからか現れそうなそんな静けさと厳かな雰囲気、それもまたノルウェーの田舎の魅力である。

杉田 結花(トラベルライター)

旅コムTOP