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トラベルライターによるホットな現地情報
<No.23> 北京
2002年3月号


北京の最新医療事情を体験す

篠田 香子 (トラベルライター/エッセイスト)

よく効く中国の風邪薬

  北京で迎えた三度目の冬、本場の流感で数日寝込んだ。本場、というのはマイナス30度、カラカラ天気、という環境だけのことではない。あまり知られていないようだが、世界をかけめぐる流感は、毎年、まず中国北部で発生するのだ。

 至近距離で飼われている豚と家鴨が、相互に流感のもととなるウィルスを移しあって、毎年新しいウィルスの流感が発生するのだという。それが、やがてアジア大陸から世界を網羅して広がってゆくらしい。


  本場の流感には本場の薬を、というわけで中国産の薬で対処した。「鼻炎片」「感冒退熱沖剤」「止端鎮咳交嚢」「雷充上」・・・薬草が主な成分で、どれも一箱200円くらいで安いが、よく効く。薬名からも察せられるように、総合薬というのは少なく、それぞれの症状にてきめんだ。

 まず咳が納まり、熱が下がり、鼻が通り、頭痛が消え、自宅療養で流感は去った。だが、結局、別件で病院に行くことになった。私は何度か地元の中国の病院に行っているが、それほど劣悪だとは思わない。欧米の水準よりも遙かに劣るが、日本の病院とは同じようなレベルだろう。


 優秀な先生は中国の方が多いかもしれない。

 日本人はなぜか日本の病院の水準は高いと信じて、薬漬けに甘んじ、お医者は神様です、と従順な患者が多いが、先進諸国の在日外国人には「病気になったらすぐ日本を出て、欧米の病院へいけ。時間がなければ、バンコクへ」といわれるほど、評判が悪いのをどれだけご存知だろうか。

 日本の病院を経験して、大抵の国の病院には驚かないから、体調が悪くなると私は比較的気楽に海外の病院に行く。海外旅行保険にも入っているので費用の心配もない。

 ところが、今回は歯の治療で、病院に行く羽目になった。


めったに雪の降らない北京で
自宅前の薄化粧を楽しむ筆者
  そもそも、中国には歯医者がほとんどない。歯は牙、と書くのだが、ごく希にその看板があるのは、まるで廃業寸前の理髪店のような店ばかり。一般の人は、総合病院で歯の治療をする。それは、もっぱら薬の痛み止めが多いらしい。「どうせ、60を過ぎると総入れ歯になるんだから」ということらしい。

 そんな考えのところで治療を受けるのは抵抗があった。となると、外国人向けの医療センターに行くしかなさそうだった。これはドル箱ビジネスなのであちこちに開業しているが、やたらと高い。おまけに、海外で歯の治療となると保険がきかない。

 と思案していたら、ある中国人の友人に、軍のやっている整形美容医院で本格的な歯の治療もやっていると教えられた。察するに、戦場などで負傷した兵士達の整形治療が行われていたのだろうか、行ってみたら北京市中心部にある立派な病院だった。

 ロビーには整形美容の案内が大きく張られていた。二重瞼、隆鼻、痩身、皺とり・・・手術前と手術後の患者の写真が沢山並べられている。いま中国では美容整形は成長産業だ。「からだこそ資本」(?)、市場経済主義の中国で、はやくも女性達はそれに気付いたということだろうか。

 歯科部門にまわると、きりりとした軍服の女性が現れ、上着を脱いで白衣に着替え、歯の治療台に案内された。設備も最新、美人女医さんは英語も話し、治療は数分で手際よく終わった。保険なしでも治療代は60元(900円ほど)。支払いを済ませながら、受付のところに張られている料金表を見て驚いた。何と「整形美容代」も、日本の五分の一という安さ。もしかすると、次回、北京から帰る時、私は楊貴妃になっているかもしれない。 


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