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トラベルライターによるホットな現地情報
<No.3>フロリダ・
ディズニーの新スポット
ディズニーの新スポット、アニマル・キングダム体験記
フロリダのディズニー・ワールドに昨年4月、新しいテーマパーク「アニマル・キングダム」がオープンした。
このエリアの最大の特徴は、恐竜から野生動物、昆虫に至るすべてのワイルド・ライフを取り上げていることだろう。しかも、単なるアトラクションとして見せるのではなく、世界中で自然破壊が行われている状況や、動物達が絶滅の危機を迎えていることなどを意味づけ、「あなたも身近な所から自然保護を考えよう」という強烈なメッセージを送っているのだ。
現在、世界各国で観光と環境保護を両立させようとするエコツーリズムが活発化しているが、「もっともエコツーリズムから遠い立場」にあると思われたディズニーが、こうした動きをしているのは興味深い。ディズニーのエコツーリズムが一体どのようなことを狙っているのか−−そのチェックため現地に飛んだ。
吉田 千春(トラベルライター)
ツアー・オブ・ライフ
一見の価値あり、ツリー・オブ・ライフ
アニマル・キングダムの中心には小高い丘があり、そこに巨大な木が一本、どーんとそびえ立っている。その大きさたるや半端ではない。高さは14階建てのビルに相当する43メートル。幅49メートルに渡って葉が生い茂り、幹の幅は15メートル、根元の直径は69メートルもある。
この木がホンモノの木なら、間違いなく世界遺産に指定されていただろうが、残念ながらこれはグラスファイバーで作られた人工の木である。とはいえ、大小8000本を超える枝には10万3000枚もの葉が手づくりでプラントされ、風が吹いた時の「揺れ」を表現するため、特殊なジョイント(継ぎ手)が組みこまれている。まさに巨大な芸術作品なのだ。
木の幹には20人のアーティストによって彫りこまれた325種類の動物の姿がある。それぞれの動物達の顔は木の表面で複雑に重なりあい、巨木をより立体的に見せている。この木は「地球上のすべての動物が互いにつながりあう自然に対し畏敬の念を抱く」というコンセプトによって作られたそうだが、大木の持つ厳かな雰囲気が、このメッセージをより強く訴えているように感じられる。
ちなみに木の幹の内側は劇場になっていて、「昆虫はつらいよ」という3D映画が上映されているのだが、これが「たまには虫の身になってみろ!」といわんばかりの内容で、虫がピンチになるたびに、観客席に「殺虫剤」が噴射されたり、突風が吹いたりとヒドイ目にあうのである。つくづく人間の身勝手さを思い知らされる映画であった。もう2度と見たくない!!。
密猟者逮捕もリアリティ十分
サファリエリア
アニマル・キングダムの目玉商品は「サファリ」である。約0.4平方キロにわたって、アフリカの草原が再現されており、大型のサファリジープに乗って動物達を見物する仕組みだ。
雑草を植える位置まで計算し尽くして造園したというだけあって、風景はアフリカのサバンナそのもの。リアルさを出すために、ジープがガタガタ道を走ったり、ぬかるみに入ったりと芸が細かい。
一応、ここにもストーリーがあって、サファリが中盤にさしかかると空を飛んでいる(という設定の)ヘリから無線連絡が入る。
「象の密猟者がいるので追跡に協力してくれ」。
ジープはスピードを上げて悪路を疾走し、ツアーはクライマックスを迎える。しばらく無線のやりとりが続いた後、「密猟者を捕らえた」との報告が入る。ゴール地点に保護された(という設定の)小象がトラックに乗せられているというオチだ。
ここではサファリの順番を待っている間にも、アフリカの動物と密猟者についてのビデオが上映されており、密猟者を取り締まろうというメッセージはよく分かるのだが、サファリそのものがよくできた動物園にすぎないという印象はぬぐえない。
なにしろ「次はキリン、こっちはカバ、今度はサイ…」と、あまりにもタイミングよく動物が見えるので、動物達が「所定の位置に立たされている」ようにしか見えないのだ。よく見ると、ここぞというポイントに、こんもりとエサが置いてあったりして、思わず唸ってしまった。
このサファリがスタートした時、動物保護団体は動物虐待であると批判したらしい。ディズニー側は「もともと動物園にいた動物達をサファリに連れて来ているから、オリの中よりは環境はよくなったはずだ」とコメントしているというのだが…。なんだか不自然な話である。
森林伐採の危機を訴える「アジア」セクション
マハラジャ・ジャングル・トレク
今年3月18日には、アニマル・キングダム内に新しいエリア「アジア」が誕生した。
同エリアはアナンダプール王国(「至福の地」という意味)と名付けられており、イメージとしてはバリやネパール、インド、タイ(いろいろな国のエッセンスが混じっているのだ)の小さな村。土産物屋や船着き場、寺院など細部にわってリアルに「アジア」を表現しており、スタッフもアジア系の人を揃えるというこだわりようである。歩いているとフロリダにいることを忘れてしまいそうな感覚に陥る。
コンセプトは「昔から人々と動物が共存してきたアジアのジャングルが今、森林伐採や山火事によって壊れつつある。この危機を人々に伝え、森林保護の意識を高めなくてはならない」ということだ。ここではアジアの動物や神秘的なジャングルを再現し、同時に森林伐採の場面も再現することで、メッセージを表現している。
例えばマハラジャ・ジャングル・トレック。規定のルートを歩いていくと、トラや獏などのコウモリ(フルーツバット)、コモドドラゴン、鹿(エルズ・ディア)などアジア特有の動物が見えるようになっている。「サファリ」ほど大掛かりではないが、観客と動物の位置に高低差をつけるなどして動物が見えやすいよう工夫されている。さらにルート上にはタイの寺やマハラジャ宮殿、ネパールの塔、ハスの池などが続いており、不思議な調和を見せる。
カリ・リバー・ラピッズは12人乗りの円型のボートに乗ってラフティングを楽しむアトラクション。スリルよりもむしろ風景に重点が置かれているのが特徴だ。スタート後に現れる竹林では霧が立ちこめ、差し込む光が竹のシルエットを浮き立たせる。ジャスミンの甘い香りが漂い、遠くでテナガザルが木にぶらさがっている様子まで見えて、リアリティたっぷりだ。
ところが突然何かが焼けているような匂いがし、ボートは殺風景な森林の伐採現場に入りこんで行く。トラックが傾き、切り倒された大木がメラメラと燃え、ボートまで火の熱さが伝わってくる。アトラクションとしては迫力十分だ。。
ディズニが考えるエコツーリズムの世界
カリ・リバー・ラビッズ
アニマル・キングダムの中には野生動物保護ステーションがある。こちらでは飼育係が実際に動物を保護しており、研究員や獣医が動物を診療したり、食事の準備をしているところを見学できる。また「インタラクティブ・バック・ステージ」では熱帯雨林に生息する動物や鳥の鳴き声をサウンドで再現したり、コンピューターで絶滅寸前の動物や生息地などが学べるようになっている。保護団体についてのインフォメーションもあり、子供達がどのように動物の保護活動に参加できるかを小劇場で伝えたりしている。
さて、こうしたディズニーのアトラクションが「エコツアー」と呼べるかどうかは判断が難しいところだろう。何しろ、もともとあるフロリダの自然をアフリカやアジアの自然に造りなおしているのだから、話がややこしい。
だが、注目すべきはウォルト・ディズニー財団が「ディズニー野生生物保護基金」を設立し、来園者から寄付金を募り、29カ国160以上ものフィールド・プロジェクトに寄付を送っている点だ。アニマル・キングダムのパンフレットには、次のような説明が書かれている。
「私達人間がどのように動物に対応し、どのような関係を築いていくかは、動物達の生活だけではなく、私達の生活そのものにも関わってきます」。「身近に野生生物が生息できる環境をつくりましょう」「寄付やボランティア活動といった形で環境保護団体を支援しましょう」などなど。
ミッキーマウスを目的に遊びにやってきた観光客がアニマル・キングダムに来て、絶滅危機に瀕している動物達の存在に気づく。自分の町に帰ってから、保護団体に寄付をしたり、ボランティア活動をするようになる。あるいはまた子供が環境問題に関心を持つようになる。これだけでも、このテーマパークは十分存在価値があるとはいえないだろうか。
世界的に環境保護活動を広めようというコンセプトがある限り、アニマル・キングダムはひとつの「媒体」として役割を果たしてゆくだろう。100%人工の世界であるディズニーがエコツアーを雄弁に語るというのは、皮肉な気がしなくもないが、これからの時代は「ディズニーも、ジャングルも」である。地球にあるすべてのものが環境問題と密接に結びついているのだ。
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