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トラベルライターによるホットな現地情報
<No.7>ネパール
廃棄処分の伝統彫刻を集めホテルづくり
ネパールの「ドワリカズ・ホテル」
人々がせわしなく行き交い、車やバイクのクラクションが絶えないネパールの首都カトマンズー。だが、そんな街の喧噪から隔絶された別世界のような空間がある。それが「ドワリカズ・ホテル」だ。時間がゆったり流れるような静謐さと優雅で洗練された雰囲気は、バリの高級リゾートホテルを連想させる。ネパール=ヒマラヤ、トレッキング天国というイメージを持って訪れた人は、ちょっとした衝撃を受けるに違いない。
井上理江 (トラベルライター)
赤レンガの壁に木彫りの窓枠をあしらった外観。
白いパラソルがよく映える
創業者の執念を凝縮した室内装飾
一歩中に入ると、赤レンガの壁の建物が並び、豊かな緑の中庭に置かれた白いパラソルが華やぎを添える。中でも目をひくのが、窓枠やドアなどを飾る精緻な木の彫刻の数々だ。伝統芸術の美しさを生かしつつ、現代的な感覚も取り入れたインテリアや外観は、まさに古くて新しいという言葉がふさわしい。だが、実はホテルを飾るこれらの彫刻は、すべて捨てられる運命にあったものなのだ。
今から約50年前、このホテルの創始者、ドワリカ・ダス・シュレスタ氏は道ばたで大工が古い木の柱にのこぎりをあてている光景を目にした。柱はネパールの伝統的な彫刻が施され、数百年前に作られた。
芸術的にも価値ある一品だった。彼が何をしているのか訊くと、大工は「新しい家を建てるので、古い家を壊して燃料にするのさ」と答えた。周囲を見回すと、既に無惨に切り刻まれた美しい木の彫刻が転がっている。
それを見た瞬間、彼は強い悲しみと怒りを感じ、新しい材木を買ってきて渡すと、半ば奪い取るようにその柱を大工から引き取ってきた。シュレスタ氏はその後も旅行会社を経営する傍ら、古い家や寺院が壊されると聞くと、飛んでいって彫刻が施された古い窓枠や柱、ドアなどを集め続けた。これらを博物館に過去の遺物として展示するのではなく、現代の生活の一部として再び蘇らせたい−−。そう考えた彼は3年の歳月と私財を費やし、1977年に自分のファーストネームを冠した全5室のゲストハウスをオープンさせ、その後も徐々に客室数を増やしていった。
スタンダードの客室。
暖かみを感じさせる雰囲気
伝統文化を守る学校も併設
現在のドワリカズ・ホテルは3つの客室棟にレストランやバー、ライブラリーなど付帯施設を持つ全74室のデラックスホテルに成長した。日本での知名度こそ低いものの、今では伝統芸術を蘇らせたユニークな宿泊施設として国際的に高い評価を得ている。窓枠やドア、柱だけでなく、客室や館内に飾られたアンティークな調度品もすべて壊された家や寺院から引き取ったもので、14〜16世紀に作られたものが大半を占める。客室の壁や外壁に使われているレンガも100年前のものだ。博物館でガラス越しに鑑賞するのでは、彫刻の美しさや精巧さをこれほど身近に感じることはできないだろう。
シュレスタ氏は92年に没したが、「彼を支えたのは、美しい伝統芸術が開発の名の下に破壊され、失われていくことへの怒りでした」と、同氏に代わって現在ホテルをとりしきるアンビカ夫人は語る。今でこそ、世界遺産を巡るツアーが人気を集めるなど、伝統文化の保護の重要性が一般的に浸透してきたが、そのはるか前から伝統文化が失われていくことに胸を痛め、自ら立ち上がってその気持ちを行動に移したシュレスタ氏の先見の明と行動力に改めて感心する。
ホテルの中には彫刻を修復、維持する職人を育成する学校も作られ、卒業生の多くがこのホテルで働いている。このホテルに滞在するゲストは間接的に古い伝統工芸を保存するだけでなく、その技術を受け継ぐ若者を育てる手助けも行っているのだ。ドワリカ氏の志は半世紀の年月を経て、見事に結晶したと言えるだろう。
ネパールのさまざまな郷土料理が味わえる
「クリシュナパン・レストラン」
[DATA]
Dwarika's Hotel
全74室 US$135〜195
P.O.Box 459 Battisputali Kathmandu,Nepal
TEL:977-1-470770
FAX:977-1-471379
E-mail:dwarika@mos.com.np
http://www.dwarikas.com
※カトマンドゥー国際空港から車で5分、街の中心まで車で10〜15分。
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