〜 ロバート・バーンズ研究会編訳  『ロバート・バーンズ詩集』 (国文社)より抜粋 〜
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ハギスのために
〜 Address to a Haggis 〜

正直なおまえの笑顔に幸いあれ!
腸詰一族の偉大な王よ、
おまえはその連中の上にどっかと腰をおろしている、
胃袋や腸や内臓の上に。
おまえはおれの長い腕くらい
長ったらしい食前の祈りにふさわしい立派な食べ物だ。

(中略)

見ろ!田舎者労働者がナイフをぬぐい、
器用におまえを切り刻んでいく。
切り込みをいれるたんびに、
鮮やかな中身がどっとあふれ出る、まるでどこかの溝のように。
そして、その時、おお、なんという神々しい姿か
もうもうと湯気が立ちのぼり、なんと豪勢なことか。

(中略)

ああ、天使様。あなたは人類を庇護したまい、
献立表を見せてくださる。
古き良きスコットランドに水っぽい食べ物など用はない、
器の中でじゃぼじゃぼ音のするような。
しかし、天使様、あなたが感謝の祈りをお望みなら、
スコットランドに、与えたまえ、ハギスを!


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遥かな遠い昔(蛍の光)
〜 Auld Lang Syne 〜

古い友達づき合いの思い出が
あっけなく消え去ってしまい、
心によみがえらぬはずがあろうか。
長い長いつき合いの思い出が。

君、長い付き合いだったね、
本当に長い年月だった。
変わらぬ間柄を祝って一杯いこう。
長く長くつき合ってきたのだから。

なあ、覚えているか、二人で丘を駆けめぐり、
きれいなヒナギクをどっさりつんだのはよかったけれど、
おかげでふらるらに疲れきり、あちこちさまよい歩いたのを。
遠い遠い昔の出来事を。

(中略)

さあ君、握手をしよう。
しっかりと握ってくれ。
そして、思いっ切り、ぐうっと飲もうよ。
われらの長いつき合いを記念して。

いいか、その大コップは干さなきゃいけない。
こっちも絶対に干すつもりだ。
こうして親しいつき合いだったことをお祝いしよう。
遠い遠い昔のために。


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シャンタのタム(お話)
〜 Tam O' Shanter 〜

露店商人どもが町を去り、
酒飲み仲間が集まるところ、
市の日はとっぷり暮れて、
人々は急いで家路を辿る。
わたしらは腰を落ち着け、酒を飲んでは、
なんともたのしい酔い心地。
わたしらは、家へ帰る途中の、
あの長くて、あぶない道のり、
沼地や池、山道や階段のことなど気にしない。
家ではむっつり、不機嫌な女房が、
吹きつのる嵐さることながら、眉をつりあげ、
怒りを暖めて待っている。
さて、この真実を、正直者のシャンタのタムは、ある晩のこと、
エアから馬を走らせ、家へ帰るときに思い知った。

(中略)

これが最後とばかり、風が吹き暴れ、
篠つく雨は風にふきまくられる。
閃く光は闇夜を呑み込む。
音高く、深く、長く、雷鳴がとどろく。
こんな夜、悪魔が仕事に励むのは、
子供だって知っていよう。

タムが乗っているのは、葦毛の牡馬、メグ。
これに勝る名馬はどこにもいない。
みずたまりも、ぬかるみも駆け抜けた。
風、雨、火だって物ともしない。
ときに、気に入りの青帽をしっかり押さえ、
ときに、古い奥にの歌を口ずさみ、
妖怪が不意に襲ってこないよう、
ときに、用心して、タムはあたりを見回す。
夜な夜な幽霊やフクロウが鳴くという
アロウェイの教会はもうそこだ。-----

(中略)

だが、マギーはびっくり仰天、立ち止まった。
かかとと手とでうながされ、ついにマギーは、
明かりを目指して、しゃにむに駈けた。
すると、おーっ、タムは見てしまった、奇っ怪な光景を!
なんと、魔法使いや魔女たちが踊っている。

(中略)

ああ、タムよ!ああ、タムよ!おまえは天罰を受けるのだ!
地獄であいつらは、鰊みたいにおまえを焼くぞ!
おまえのケイトは、いくら待っても無駄だ!
おまえのケイトはもうすぐ哀れなやもめになる!
さあ、メグ、走れ、力のかぎり走れ、
早く、あの橋の真ん中を越えろ、
そこで、あいつらに尻尾を振ってやれ。
あいつらは川の流れを渡っては来れまい。

だが、メグが橋の真ん中に着かないうちに、
なんと、振ろうにもその尻尾は無くなっていた!
なぜならナニーがいち早く、
駆け足早いマギーにぐんぐん迫り、
猛然とタムに跳びかかったからだ。
だがナニーは少しも知らなかった、マギーの勇気を。------

そのひとっ飛びが、主人を立派に救いだした。
だけども、マギーの灰色の尻尾は置きざりのまま。
魔女が尻にしがみつき、
あわれ、マギーの尻尾は付け根だけに。

さて、この実話を読む人は、
どの男、どの母親の息子も、気をつけよ。
酒を飲みたい気持ちになったとき、
短い下着が胸に浮かんできたときはいつも、
考えてみよ、楽しみの代償は高くつくのではないかと。
思い起こせ、シャンタのタムの牡馬のことを。


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ニス川の土手を思う
〜 The Banks of Nith 〜

テムズ川は誇り高く海に注ぎ、
王都は堂々とた建ちならぶ。
だがわたしの心には、あのニス川が深く優しく流れている、
そこは、かつてカミンズ卿が大権を振るった所。

(中略)

ニス川よ、いとしく実り豊かな渓谷よ、
サンザシが躍動し華やかに花咲く渓谷よ。

(中略)

今さすらうは、わたしの宿命、
だが最期の一刻はせめてそこで、
若い日の友と燃えに燃え尽きたい!


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エディンバラに寄せる言葉
〜 Address to Edinburgh 〜

イダイナよ、スコットランドの最愛の首都よ、
幸いあれ、君の宮殿たちと塔たち、
そこではかつて、一人の君主の足もとに、
立法の主権者たちがすわっていた。

(中略)

そこでは、どんなささいな警報にも注意を向けて、
君のごつごしした、荒々しい要塞が遠くに光っている。
多くの切り傷がある、
灰色に武装した古つわもののようだ。

どっしりとした城壁と重々しい鉄格子は、
ごつごしつとした岩の上にいかめしくそびえたち、
攻めたてる戦にしばしば耐え、
侵入者の衝撃をしばしばはね返してきたのだ。

(中略)

その君たちの足跡をたどり私の心は激しく打つ、
昔、その祖先たちは
敵の鮮烈や破壊された城壁の割れ目を通って、
いにしえのスコットランド王家の紋章真紅のライオンを選んだのだ。

(中略)

エア川の堤をさまようとき
咲き乱れる花を眺めることから、
また去りかねている時をひとり歌うことからはなれて、
君の尊い陰に私は身を置くのだ。


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スコットランドの酒よ
〜 Scotch Drink 〜

あんな詩人どもには大騒ぎさせてやれ、
フランスのぶどう、ぶどう酒、酔いどれバッカスども、
七面倒くさい名前、わしらを苦しめ耳をけがす戯言で、
あんな詩人どもには大騒ぎさせてやれ、
わしのほうは、グラスやジョッキを傾け、
スコットランドの大麦が造る酒をたたえよう。

(中略)

スコットランド人よ、古きスコットランドの栄光を願う者よ、
きみたち長たる者よ、哀れな文なしろくでなしのわしではあるが、
わしはおまえたちに言おう、
おまえたちには似合わんぞ、
苦しくて高いぶどう酒や異国の情婦に
手を出すなんて。

(中略)

幸運の女神よ、もしおまえがいつでも
丈夫なズボン一つと、麦粉のパンケーキ一個と、一杯の酒と、
思いっきり歓喜を歌いあげる詩を沢山くれさえすれば、
ほかの物などいらん、
そこでは、おまえの優れた技が夢想の中で自由奔放に振る舞い
おまえを最高にもって行ってくれるのだ。


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クラリンダ
〜 Clarinda, Mistress Of My Soul 〜

私が心から愛するクラリンダよ、
許された時間はもう過ぎた。
わびしい木立の下で恋に苦しむ男は、
去ってゆく自分の太陽を眺めやる。

(中略)

女性すべての美しい太陽のような彼女は、
私の日中をめくるめくほど幸せにしてくれた。
だから夜空を淡く照らす惑星「月」などは
その光で、私の愛を奪うことなどできないだろう。


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アット・ザ・グローブ・タヴァーン (原詩)
〜 At The Globe Tavern 〜

O Lord, when hunger pinches sore,
Do Thou stand us in stead,
And send us from Thy bounteous store
A tup- or wether-head.

Lord Thee we thank, and Thee alone,
For temporal gifts we little merit!
At present we will ask no more:
Let William Hislop bring the spirit.

O Lord since we have feasted thus,
Which we so little merit,
Let Meg now take the flesh away,
And Jock bring in the spirit.

O Lord, we do Thee humbly thank
For that we little merit:
Now Jean may tak the flesh away,
And Will bring in the spirit.


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