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 さて、返還にともなう不安と苛立ちは一般の香港人のみならず、どうやら、特権階級と思われていたごく限られたエリート達にも及びそうである。

 彼等は香港にとって必要な知識階級として英国政府から特別な英国パスポートが発給されていた。いざとなれば直ちに英国に移住できるパスポートなのである。                

 私の回りにも何人か、この特別英国パスポートを所持している者がいる。何処かへ移民すべくあくせくしている人達を横目で見ながら「自分達は万一の場合英国に移住するのだ」と落ち着きはらっていた。

 英国政府は、返還を前にして、香港の有能なエリート階層の海外流失を防ぐため、何とかして彼等を香港にとどめておく必要があった。下手をすると返還までに香港経済を動かすリーダーがいなくなってしまうからである。    

 その対応策が「英国居住計画」の名の下に英国移住を認める特別英国パスポートの発給であった。


 毎日新聞(H8/12/5)によると、この特別英国パスポートを発給されているエリート階層は人数にして15万人に上るという。

 英国政府は、しかしながら、無情にも、去る12月3日、「返還後、この特別英国パスポートを持つ香港人には香港を含む中国国内では英国の領事保護権は及ばない」と正式に発表したのである。

 理由は中国が、香港人が返還後もこの英国パスポートを所持しているということは、中国と英国の二重の国籍を有することになり絶対に認められないと主張しているからなのである。                   

 この英国パスポートを所持している15万人のエリート香港人は、晴天の霹靂ともいえるこの突然の決定に愕然とし、当然ながら英国不信に陥っている。

 しかし、こうなった以上、今まで香港を支えてきたエリート香港人達は、このまま香港に滞在し続け、返還と共に普通の中国の公民となるか、又は、返還前に香港(中国)を離れ英国(又は英国の領事保護権が及ぶ何処か)に移住するか、7月1日までに二者択一の決定をしなければならないことになる。

 英国植民地時代の自由な環境に決別を強いられ、不安いっぱいの未知の新体制下に入らねばならない香港の人達が今、焦り、足掻く様子を見るにつけ、私は心から同情を禁じ得ないのである。



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