さて、「台風の通り道」香港に出入りする小さな船にとっては、いざという時に避難するタイフーン・シェルター「台風避難港」は絶対に必要である。埋め立て工事によって潰される現在のタイフーン・シェルターの代替避難港として、新たにカイタック空港埋め立て地の近辺、ランタオ島の北東部に対面する新界のパールアイランド近辺、香港島の北東部、ビクトリア・ハーバーに面する漁港シャウキワン近辺、ペンチャウ島(坪州)の西岸付近、ヘイリンチャウ島(喜霊州)の西南岸付近などが予定されている。
ペンチャウ島とヘイリンチャウ島には避難海域を包みこむように防波堤が造られる。非常に興味深いのは、チュンチャウ島(長州)とラマ島(南Y島)の間に約5キロもの長大な防波堤がつくられることである。
これはビクトリア・ハーバーへの入り口を扼し、ペンチャウ島やヘイリンチャウ島の台風避難港や、ランタオ島北東部先端付近のペニーズ・ベイ近辺や新界のクワイチュン一帯の大コンテナ・ターミナルや港湾施設に台風の荒波がもろに及ぶのを防ぐことになる。
さて、以上は、『港湾・空港開発戦略』(PADS)の概略だが、特にビクトリア・ハーバーの周辺地域に関する開発計画をとりあげた。この戦略は、前にも述べたとおり、新空港の建設に加え、同時に港湾開発をも実施しようという大規模インフラ整備計画なのである。
このブループリントは英国主導で作成されたものだが、特に港湾開発は、その工事の大部分は主権が中国へ移った後に中国のイニシアテイブにより完成されるべきものである。当然、将来、各部分での計画変更は大いにありうることと思われる。
新空港はその近代的な大規模アクセスと共に間もなく完成する。すでに開港を待つばかりである。しかし、これからその完成までに長い年月を要し、しかも莫大な経費と利権が絡む港湾開発に中国がどこまで熱烈なやる気を燃やし続けるか誰もわからない。
とはいえ、香港のコンテナ陸揚げ量は現在すでに横浜、神戸を始めとする日本の港全部の陸揚げ量を遥かに越えている。ますます膨脹する中国市場のニーズ、特に珠江デルタ、華南地域の経済発展を考えると、中国の南に位置するハブ港「香港」の役割は大きい。その港湾開発は当然の帰結であると思える。
北の上海は、香港に追いつき追い越せとばかり、あらゆる分野で対抗意識を燃やしている。しかし、北の上海の開発を優先させ、南の香港の開発にブレーキをかける程中国は小さくない筈である。
どんどん狭くなるビクトリア・ハーバーの中国返還後の未来像は、その「ビクトリア」という英国名と共に気になるところではある。