|前ページ|素顔の英国|旅コム目次|
クリスマスのローストビーフ
クリスマスに友人の家に招待されたことがある。イギリスをはじめヨーロッパではクリスマスは皆家庭に帰り、お祝いをする。日本の正月のようなもので、クリスマスは年に一度家族が集まり一家団欒を楽しむ日である。電車も止まり、店も閉まり、ヨーロッパ人は皆自国に帰る。当然アジアの外国人は行き場を失う。
たまたまフラットメイトに家においでよ、と誘われ、イギリスのクリスマスはどんなものだろう、とわくわくしておじゃました。場所はキューガーデン。高級住宅街である。友人宅はセミデタッチト・ハウス(隣の家と壁一枚でくっついている)の雰囲気の良い家だった。以下そのロンドンでのクリスマス体験を記そう。
25日当日は電車もバスもなくなるため、前の晩からお邪魔した。朝は軽く食事を取り、準備を手伝うといっても友人の母親が用意してくれたものを運ぶ程度。何でもこの家では話好きの父親に誘われ友人や近所の人が毎年やってくる(まさに日本の正月)。
もう一人私の友人も加わり(日本人)、人も集まり、先ずシャンペンで乾杯。クリスプス、チョコやビスケットなどのお菓子、グリッシーニ(前菜として出てくるスティック状ブレッド)やチーズの盛り合わせなどが彩りを添え、ワインを開け、しばし歓談の後、メインのローストビーフが出てくる。
筋書通り主人が切り分けるのだが、これが恐ろしく薄かった。ちょっと厚めのハムのような形状で、むしろ日本でパーティーの時に出てくるケータリングのローストビーフの方が大きくて厚い。その家のお母さんの手作りで、ホースラディッシュをつけて食べるビーフは確かにおいしかったが、何となく物足りなさがあった。サンドイッチショップなどで注文するローストビーフは確かに薄い。でもそれはきっとサンドイッチ用で、だからこそクリスマスくらいは厚く切るのではないかと期待していたのだ。
さらにイギリスのクリスマスに欠かせないのが、クリスマスプディング。ドライフルーツとナッツとケーキをラム酒で固めたような代物で、味が濃い。10月下旬ごろからスーパーなどの店頭に並び始めるので、試しに買ってみたことがあるが、あまりおいしいものではなかった。このプディングを好んで食べる外国人はあまり聞いたことがない。ところが、これにラムの利いた温かいカスタード(これも手作りだった)をかけて食べると、いける。これは本当においしかった。濃厚な味のプディングをさらっとクリーミーなカスタードが中和し、食べやすくなる。
これで食事は終了。また歓談となる。この家のお父さんが話し好きであり、離れて暮らす子供、近所の人や友人に加え、たまたま日本人2人が加わり、話しは多いに盛り上がり、お開きとなった。私たちは十分楽しんだ。が一方、これがイギリスで一番豪華な日なのか、とちょっと驚いた。料理の内容、数ともにそれほどお金をかけているようには思えないからだ。もちろん特別なことはいろいろあった。ローストビーフ、プディングばかりでなく、小さい明りのランプが取り付けられたツリー、柊の飾り付け、その日のために開けるワイン、パーンと鳴らすクラッカー…。でも、全てが必要最小限という感じでとてもシンプルなのだ。しかし、何より家族が集まること。その時間とそこで交される会話がきっと一番のご馳走なんだろう。お金をかけることイコール豪華さとは限らない。豪華な日本の正月料理もそれを楽しむ雰囲気があってこそであるべきなのだ、と実感した。なぜならこの質素なクリスマスの日、私はとてももてなされた、という気持ちになったからだ。
| | |
セミデタッチトハウス。1軒分の土地に | | とある家庭のクリスマス料理。 |
2世帯が入る。土地の狭いロンドンでは普通。 | | |
|前ページ|素顔の英国|旅コム目次|