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真夏のケンブリッジの夢
ケンブリッジ大学の夏期コースに参加したことがある。夏の間、学生が帰郷したりで大学を離れる間、寮に泊まりながら自分が選択した分野の勉強をするというものである。生徒は世界各国から集まっており、私が選んだ美術史はアメリカ、オーストラリア、ブラジル、日本、香港、ドイツ、チェコなどから来た人で、オバさんたちが8割、あとは美術史を学ぶ学生だった。それもアメリカはニューヨークやロスなどの都会からでなく、南部など比較的田舎から来ていた人が多かった。間違ってもイギリス人はひとりもいなかった。まあ1000ポンドも払って夏の間勉強しようというイギリス人はいないことは想像に難くない。
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ちょっとした国際交流の場?休み時間のひととき。 |
何しろその寮生活の豪華なこと。朝・夕の食事付きで、それも夜はメイン・デザートとコースになっており、自分で並んで取るビュッフェ形式ではあるが、ウエイター、ウエイトレスがちゃんとお皿を下げに来て、コーヒーを入れてくれる。へやも個室でシャワー・トイレは共同だが、清潔。たまたま美術史のコースでは構内でも端に位置する新しめのカレッジだったが、英文学のコースは最も古い歴史のあるカレッジ寮だったので皆の羨望を浴びていた。
さらに驚いたのは寮のクローク係の出来の良さ。メモや伝言がきちんと行き渡るのだ。こんな当り前のことがイギリスではうまく行かないのである。日本とのやり取りがあった私は何度も助けられた。代わりにFedexを送ってくれたり、ファックスをきちんと渡してくれたり、頼れるクロークだった(しかもここはホテルでなく大学寮)。このホテルなみのサービスの理由を聞くと「生徒が勉強に集中できるようできる限りのことをする」とのお答え。外国人学生が勉強以外のことで煩わされることの何と多いことか。この恵まれた学生街に暮らしたことのない私には身に染みました。
たまたまラウンジにいた卒業生と話す機会があったのだが、何でも3年間ここで過ごすうちに、全ての生徒が独特のアクセントを身につけるのだとか。外国人であっても、他の英語圏出身であっても。確かに先生も生徒もみんなこの独特なケンブリッジ英語を話しているんだもの、移ってしまうであろうし、またケンブリッジの生徒としてきちんとした言葉を話す、という自負が何よりそうさせるのだろう。
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寮の部屋の中。簡易ビジネスホテル?でもポーターは一流。 |
授業内容も、カリキュラム、講師の話の興味深さ、課外プログラムの充実ぶり、どれも比のうちどころがなかった。さらにコーディネーターのケンブリッジの学生がまた素晴しかった。この法学部のお姉さんが美術史の参加者の世話役なのだが、難しい外国人の名前を顔と一緒に全部覚えていて、いろいろ相談には乗るし、一緒に食事したり荷物運んだり、フレンドリーで頼りになる人だった。頭の良さの人柄の良さ、やはり良い環境では良い人物が育つのだなともう感心のしどうし。
ここで知り合った人たちとはその後も交流が続き、まさに楽しい真夏の思い出となりました。それまでロンドンの大学のいい加減なところしか見ていなかったので、ケンブリッジに来なければイギリスの大学の印象はすこぶる悪いままだったでしょう。
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