巨匠ターナーの半生を描いた映画 『ターナー、光に愛を求めて』 6月20日公開

2015年05月26日 掲載

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英国が誇るロマン主義の画家、ターナーの半生を題材にした映画『ターナー、光に愛を求めて』(2014/原題:Mr. Turner/英・仏・独/英語/150分)が、2015年6月20日からBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか、全国で順次公開されます。

この公開に先駆けて先日、渋谷で行われた特別試写会とトークイベントにお招きを頂いたので、ネタバレにならない程度にそのお話をさせて頂きます。


IMG_7989

6月20日から公開される映画『ターナー、光に愛を求めて』


さて、この作品の主人公であるジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775-1851)という画家を、皆さんご存じでしょうか?

1775年4月23日、ロンドンのコヴェントガーデンで理髪店を営む一家に生まれたターナーは、後世の印象派の画家たちにも大きな影響を与えた、ロマン主義を代表する風景画の巨匠です。

学校教育をほとんど受けることなく、特異な環境で少年時代を過ごしたターナー。ですが、幼くしてその画才を開花させ、14歳という若さで英国最高峰の芸術学院であるロイヤル・アカデミーに入学。そして、若干24歳でロイヤル・アカデミーの準会員に、その3年後の27歳の時には史上最年少で同アカデミーの正会員に選出され、32歳の時にはロイヤル・アカデミーの遠近法教授に就任した人物です。

ターナーは生涯独身を貫きましたが、これは8歳の時に妹のメアリー・アンの死を機に母親が精神を病み、その大きな影響によるものと言われています。とはいえ、女性の影がまったく無かったわけではありません。気むずかしい性格でとっつきにくく、おまけに口べた。その上、お世辞にもハンサムとはいえなかったようですが、むしろ盛んだったようです。


Mr. Turner 2

(C) Channel Four Television Corporation, The British Film Institute, Diaphana,
France3 Cinéma, Untitled 13 Commissioning Ltd 2014.


スケッチブックを手放すことなく、常に自然と向き合い、その目に映ったものを貪欲なまでに描きとめるターナー。この映画の中にも、そんなターナーの姿が、英国の美しい風景と共に何度も登場します。特にターナーは海や山岳風景に傾倒し、英国内外の各地をよく旅したことから「旅の画家」と呼ばれています。作品に登場する英国の田園風景は、ターナーの生きた時代の風景が見事に再現されています。

ターナーの色彩の特徴と言えば、イエローが非常に印象的ですよね。そうしたことからターナーはまた、「光の画家」とも言われています。絵画で「光」というと、「光の魔術師」と謳われるフェルメールを連想される方も多いかと思いますが、もし私がこの「光」という言葉を用いてターナーを表現するなら、「『光の砂時計』に生きた画家」と言ったところでしょうか。
人生はよく砂時計に例えられますが、ターナーは光を追い求めながらたった76年の人生で、100年分のことをやり遂げてしまったからです。

印象派を代表する画家モネが、パリで行われた第1回印象派展に『印象 -日の出-』を出展したのは、ターナーに遅れること50年。1874年のことでした。
つまりターナーは、18世紀の写実的なスタイルから「印象派」を経て「抽象画」まで、美術界がその発展に1世紀を費やしたことを、それよりもずっと早く、しかもたった一人で成し遂げてしまったのです。天才どころか、とても人間業とは思えません!

映画のタイトルにもあるようにターナーは「光に愛を求めた」のかも知れませんが、それと同時に「光もターナーに何かを求めていた」のではないか、私はそんな気がしています。ターナーと光にしか分からない不思議な関係が・・・。


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上映の後に行われたトークショーで、メイキング映像を見ながら作品を振り返る
美術ジャーナリストの鈴木芳雄さん(左)と、テレビやラジオで活躍するDJAIKO062さん(右)


この映画『ターナー、光に愛を求めて』を手がけたのは、『秘密と嘘』や『ヴェラ・ドレイク』で知られる名匠マイク・リー監督。なんと構想に、12年の年月を費やし、映画化に至ったそうです。

今回の作品の中でマイク・リー監督は、ターナーの知られざる変人ぶりも実に巧みに描写しています。中でも印象的なのが、ターナーがロイヤル・アカデミーで自分の作品に、赤い絵の具を落とすシーンなのですが、それを見てコンスタンブルが発した言葉は、実際に居合わせた多くの人によって残されているものだそうで、そうした台詞からもターナーの時代が感じられるような作品に仕上がっています。

小耳に挟んだ話によると、意外にも英国の映画館では笑いもでる場面もあったとか、なかったとか。日本人的には笑う要素はほとんど見当たらないのですが、劇場ではその辺りも是非チェックしてみて下さいね。
ちなみに私は・・・と申しますと、笑いというよりも、むしろ「あっ!これ上手いな~」っていう感じる描写の方が多かったです。


National Gallery

ロンドンのナショナルギャラリー (C) VisitBritain / Britain on View


死後、自分の作品の扱いまで気にしていたターナー。ターナーはおよそ300点の油絵と2万点近くの水彩画を残しましたが、自分だけの作品を1ヶ所に集めて展示したいという願いから、そのほとんどが国家に寄付されました。

ターナーの遺言には、フランス人画家クロード・ロランの作品と自作画2点を並べて展示することとした条項がありましたが、現在これらの絵画はナショナル・ギャラリーと、1985年にテート・ブリテンに増設されたクロア・ギャラリーに分散して収蔵されています。

どちらのギャラリーも常設展は入場無料。また、ナショナルギャラリーでは、日本語に対応した60分のオーディオガイドも用意されていますので、次の英国旅行の際には是非足を運んでみて下さい。じっくりとターナーの作品と向き合いたいという方は、特にオフシーズンがお勧めです。本作品の中にもターナーの作品がたくさん出てきますので、出発前にはこの映画『ターナー、光に愛を求めて』をご覧になるのもお忘れ無く! 

また、本作品で第67回カンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞した「ハリー・ポッター」シリーズのティモシー・スポールの名演技も必見です。映画は、2015年6月20日から全国で順次公開されます。


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