永遠の魅力ーグルメ天国 中国の郷土料理

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飲茶


 お茶を飲みながらデイムサム(点心)とよばれる中国式スナックを食べるのをヤムチャ(飲茶)という。最近では日本でも食べられるが、何といっても、香港が本場である。飲茶という文字が示す通り、元来はお茶を楽しむことの方がメインで、お茶をゆっくり飲みながら、色々な種類のデイムサムを少しずつつまむのが、本来のスタイルなのである。

だから飲茶を十分楽しむには、お茶も重要な役割を占めることになる。ボーレイ茶が一般的だが、他のお茶、例えばコッフアー(菊花)茶などとブレンドしたものも飲まれる。
いずれにしても、飲茶の場合、たくさんの違った種類のデイムサムを次から次へと口に入れるのであるから、新しく味わう前に、前の味をすっかり流す必要があり、そのためにもお茶をたくさん飲むことになる。

 デイムサムそのものは古くからある広東料理の一つだが、広州で生まれた飲茶なるものがやがて香港にも入ってくる。しかし、香港にそのための『茶楼』ができたのは、19世紀に入ってからのことらしい。1934年に開店した永吉街の『陸羽茶室』は有名である。一般に茶楼の1階は庶民用で、上層階級の人達は2階を占領して、朝から優雅にお茶(飲茶)を楽しんでいたのである。

 しかし、現在の飲茶はお茶を楽しむというより、デイムサムを食べる方がメインになってしまい、お茶はその合間に飲む物となってしまった。今や飲茶は香港のポピュラーな『昼食』として知られており、事実、飲茶といえば香港、香港といえば飲茶、というわけで、飲茶抜きで香港の「食」の楽しみは語れないほどである。
広東料理のレストランの多くは昼時になると、この飲茶を用意するが、その他にも飲茶レストランは無数にある。

 デイムサムはギョウザやシューマイを始めとして、骨付きのバラ肉の蒸したもの、蒸した牛肉団子、鳥肉のブツ切りの蒸したもの、鳥肉や豚肉の蒸し饅頭、ハスの葉に包んで蒸した牛肉団子などなど、蒸した料理が多く、小さなセイロ(蒸篭)に入れて出されるのが普通である。しかし、蒸したものばかりでなく、春巻きのように揚げたもの、野菜炒めのように炒めたものなどもある。

 中国料理の名声の一端を担うだけあって、さすがにその種類は驚くほど多く、バラエティーを楽しめる。しかも、今日なお次々と新しいメニューが生まれているのである。

 デイムサムはみな少量ずつで食べやすく、また、一つ一つが安いから、色々な種類を数多くトライできるというものである。最後は炒飯とか炒麺で締めくくりもできる。

 デイムサムは、駅弁スタイルで売り歩くレストランもあるが、普通は大体種類別に分けたワゴンに入れて、売り子が時に売り声をあげながら、混雑したテーブルとテーブルの間をグルグル廻って売っている。食べたいものが近くに来たら呼び止めればよい。

 しかし、これもあれもと、器が小さいのでいい気になって注文していると食べ切れなくなるから要注意。勿論、人数は多い方がたくさんの種類を楽しめる。
値段は基本的には食べたセイロの数とか皿の数で計算するのだが、普通、値段のランク別の欄が印刷されたカード(伝票)がテーブルに備えてあり、注文の度に売り子が該当する欄に判を押してくれる。レジではそのカードを見れば、いくらのものをいくつ食べたか、一目で分かる仕組みである。

 香港の本部に出張した時など、私は突然、「今日のランチは飲茶にしよう」
などと言い出す。当時近くにあった大会堂(シティホール)のレストランの場合が多いが、そうなるとスタッフは大変である。
飲茶レストランではテーブルの予約がきかない。香港の昼休みは一時からだが、その相当前に、テーブル確保のために先発隊を出さなければならないのである。

 香港では幸いに『お相席をお願いします』などという、がめつく、野暮な、詰め込み式のしきたりはない。何処の誰だか分からない、見ず知らずの人と同じテーブルを分け合うことはないのである。テーブルに一人でも先に座っていれば、そのテーブルはその人のもの、誰も座れないということである。そこに先発隊の意味が出てくる。

 しかし、昼休み前に仕事を途中で放り出して先発させられるスタッフこそ、いい迷惑である。空いたテーブルを探して、うろうろ歩き回る大勢の人の冷たい視線を受けながら、たった一人で我々が到着するまで大きなテーブルを死守しなければならないのである。

 先発を出した後、何時も決まってこんな状況が展開する・・・。先ず、のんびりとやってきた我々は、人で溢れた広大なレストランの中で、先発スタッフが確保しているテーブルを見つけなければない。しかし、すぐ、キョロキョロしている我々に向かって、遠くのテーブルで誰かが飛び上がって手を振っているのが目に入る。その周囲のテーブルは前後左右、みな満席である。

 先発したスタッフは長いイライラから解放されて、ようやくホッと微笑む。久し振りに再会した仲間を迎えたかのようである。それが、かよわい女性スタッフだったりすると、本当に申し訳なく思う。しかし、何時も簡単に、「ごめんね!」「イイエ。ドーイタシマシテ・・・」で、すぐ賑やかな我々の飲茶タイムが始まるというわけである。

 ライブリーな猛烈な熱気に溢れる香港のセントラルのランチタイムは、旺盛な食欲を満たすだけではなく、オフィス街であるだけに、ゴシップ好きの香港の人達にとっての活発な情報交換の時でもある。周囲のテーブルから沸き上がる大きな話し声、楽しそうな笑い声、遅れてきてウロウロする仲間を呼ぶ声、二つ三つのテーブル越しに何やら叫び合う声、それらに織りなす短く鋭い売り子の呼び声。午後の活動のための、エネルギーを騒然とした中で、がつがつと吸収しながら、ゴシップを楽しむ。

 香港の活力は『飲茶』なしでは生まれない。香港といえば飲茶、飲茶抜きでは、香港は香港でなくなるのかもしれない。



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