ショッピングの魅力

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不思議な魔力秘める買い物天国


 外貨が自由化され日本人が観光目的で海外に行けるようになった1964年から今日まで、『ショッピング』は香港観光の大きな魅力になっている。消費者のイメージの中で香港の最大の魅力として30有余年にわたり定着し続けているのである。これから先、中国への返還後も、『ショッピング』は香港観光の金看板として強力な誘致力を発揮して行くように思える。

 香港観光協会発行の統計資料によれば、ホテルへの支払い、ホテル以外のレストランでの食事、娯楽、観光、ショッピングなど、香港を訪れた観光客が香港で落とす全支出額の内、ショッピングが占める割合は1994年度においては51.9%、約52%になっている。半分以上の金はショッピングのために消えることになる。

 その他の資料によれば、香港を訪れる日本人観光客のほとんど100%が香港でのショッピングを意識している。特にショッピングに興味がない人でも、完全には無視しきれないのである。80%以上の人は訪れる前からすでに何を買うか決めているか、又は、香港に来たのだから何かを買って帰ろうと積極的に考えている。

 香港に来ると、特に買いたいお目当ての品がある訳ではないのに、時間があると、誰でも、何となくショッピング街をうろつきたくなる。ショッピング・パラダイスという強いイメージがそうさせるからである。しかも、買うつもりのないぶらぶら歩きの筈が、何時の間にか何かしら買っている。日本では見かけない商品が目にとまったり、値札を見て「安い!」と感じたりして、やがて何かを探しながら店から店へと歩を早めることになるのである。これが香港の「ショッピング」の不思議な魔力なのである。

 ここで、先ず、「安いこと」をショッピングの魅力の第一に挙げねばならない。香港はフリーポートだから一部の商品(酒、タバコ、自動車、ある種の石油商品など)を除き、輸入品は関税が免除されている。小売値はその分安くなるわけである。また、課税対象品であっても関税は比較的低額である。この関税免除の政策は「50年不変」を持ちだすまでもなく、中国への返還後も続くことは間違いない。
しかし、「安さ」の原因は関税免除だけではない。香港では一般的に輸入業者と小売り業者が直結しているので、中間の流通経路でコストがかからない。これも小売値を安くしている。

 さらに、そればかりではない。もう一つの理由がある。それは、商品の供給過多である。溢れる商品が値引き競争を引き起こしているのである。狭い香港に、なんと5万軒以上もの店舗がひしめいている。それも、どんどん増え続けているのである。ショッピング・アーケード、ショッピング・センター、ショッピング・プラザ、ショッピング・モールなどなど名前は変わっても、いわゆる「商場」は足の向くまま、どの方向に歩いても香港の至る所に存在する。

 何とか生きるために最低限度の利益は確保しつつ、他の店より少しでも安くして客をひきつけようと、お互い厳しい低価格競争にしのぎを削っているのである。高くしたら、たちどころに売れなくなる。客は安い店に殺到し、一度高いという評判をとってしまったらリカバリーは容易ではない。下手をするとつぶれる。

 ショッピングの魅力の第二に、品揃えが豊富で、選択の幅が広いことが挙げられる。事実、5万軒もの店舗が供給過多を起こしているのだから、消費者は、世界の一級品から安物まで、目的にあわせて、価額、品質、好みの3点で幅広い選択ができる訳である。

 そればかりではない。もう一つの第三の魅力がある。それは「値切る楽しみ」である。どこまで値切れるか・・・10%や20%の値引きは当たり前だ。びっくりする程安く掘り出し物を手に入れるチャンスも大いにあるといえる。消費者は小売店の弱み、つまり彼等の厳しい生存競争につけこみ(?)、ショッピングのイニシアティブをつかんでいるように見える。

 ショッピング・ストリートは、特に日曜日など、人の流れで埋まってしまう。「ショッピング情報」は「うまいもの情報」と共に、情報好きの香港の人々の間をアッという間にかけめぐり、人々は自分の目で、耳にした情報を確かめようと、右に左に、人波となって動き回る。

 余談だが、観光客は土地の人で混んでいるところを選んで動くべきである。混んでいる所は何か人を引き付ける理由があるのである。逆に、さびれたショッピング・アーケードはそれなりのわけがあるといえる。もっとも、一日に数えるほどしか客の来ない、うらぶれた店に目星をつけて、ゆっくりと時間をかけ、徹底的に値切るのも手かもしれない。現金欲しさに仕入れ値で売ってくれるかも。もっとも気に入った品があっての話だが・・・。 ところで、「消費者がイニシアティブをつかんでいる」といったが、あまりいい気になるとシッペ返しをくって馬鹿を見るから要注意である。

 売り手もさるもの、安く売ったように見せても、その裏で生きんがための手を考える。見えないところで品物の質を落とすか、苦し紛れに、きず物や偽物をつかませる。余りにも大幅な値引きも注意を要する。なんと、ショッピング・パラダイスは下手をすると売り手のパラダイスに転じてしまうこともあるのである。勝ったつもりが実際は負けていることになる。相手は負けたふりして、その実、「してやったり」とほくそ笑む。ここに売り手と買い手のスリルに満ちた駆け引きと目利きの勝負の面白さがあり、これもまた、ショッピングの楽しさではある。



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