ショッピングの魅力

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香港観光とショッピング・パラダイス


 ショッピング・パラダイスという名声を世界の隅々まで広め、かつ、長年にわたりその評判を支えてきたファクターについて前にもいろいろ挙げたが、その中でももっとも本質的なものは、何といっても、『安いこと』と『豊富な品揃え』だと思う。香港では、その双方とも他に抜きんでて勝れているのである。最高のショッピングが楽しめる「パラダイス」だといわれるのも当然であろう。

 しかし、この2つのファクターの内、『安いこと』か『豊富な品揃え』かどちらか一方が、何らかの理由で魅力を喪失するようなことになると、残った片方だけでは「パラダイス」の評判を維持することは難しくなる。2つとも失うようなことにでもなると、それはもう「パラダイス」の崩壊である。

 日本からの観光客の場合、円高が続いている時は、国内の円高不況も何のその、海外に出れば安い商品がさらに一層安く感じられる。観光客の購買欲を刺激する円高の恩恵は香港にとっては計り知れない。ところが逆に円安に転じてきたら、このメリットは消えてしまう。さらに、この時もし香港で物価高が続くとなると、観光客は、いわば円安と物価高のダブルパンチを受けることになる。その程度にもよるが、2つのファクターの内の『安いこと』は、かなりぐらつきダメージを受けることになろう。

 現在、香港には物価高の悩みがある。香港観光促進のためには、我々の国内事情を度外視すれば、それを帳消しにする円高を望みたいところだが、現在は幸か不幸か円安傾向にある。つまり、香港が日本人観光客に対し『安いこと』を強調するには、いささか苦しい状況にある。

 特に不動産の高騰の影響は大きい。1997年の中国への返還を前にして中国その他からの企業進出が目覚しく、オフィス・スペースの供給不足と地価の上昇が深刻な問題になっている。不動産需給のアンバランスによりオフィスの賃貸料はうなぎ上りだし、もちろん、フラット(マンション)の価額も同様で、ごく普通のマンションでも年収の10倍から20倍という物凄い値段で、現在ではもはや一般市民には手が届かなくなっている。そのために大部分の人は借家住まいだが、それも賃上げに常におびやかされっぱなしである。

 問題は商業地域である。小売り店舗の賃貸料の値上がりも凄まじく、これがもろに商品の価額にはね返ってくる。場所によっては1坪あたりの賃貸料が日本円にして約5万円ぐらいの店舗もあるという。好況にわく中国経済とそのインフレ傾向の影響もさることながら、香港中心部における不動産の高騰が、にわかに沈静化するとは思えない。

 長期にわたりこんな状態が続くと、安く手に入ることでショッピングの目玉であった輸入外国ブランド品を始め、すべての商品に影響が及ぶことになる。
このように見てくると、ショッピング・パラダイスを支える柱の『安いこと』には将来にわたり不安がある。もう一方の柱『豊富な品揃え』はどうだろうか?

 確かに「無い物はない」ともいえる豊富なバラエティに加え、観光客に徹底的にアピールする目新しい、珍しい商品が数多く、それらがみな『安いこと』と結びついて強力なマグネットを発生させている。商品の豊富さの側面を見る限り、香港は有名ブランドの超高級品から、街角の安売り屋台のハンパ物まで、それこそ文字どおりピンからキリまでの商品が香港いっぱいにあふれていて、ただ見て回るだけでも飽きさせない。雑貨、化粧品、中国茶、漢方薬、中国酒、乾物の中にも日本では手に入らない物も多い。この魅力あふれる『豊富な品揃え』は、香港が中国に返還されても、約束どうり自由貿易経済が維持されるのであれば、今まで通り香港観光の誘致力の一つであり続けると思われる。

 しかし、ここで、少々気になることがある。「メードイン香港」として流通している衣類、雑貨、電気製品などの商品の多くは、低価額化を狙い香港での生産を中国本土に移しているが、このような「中国製メードイン香港」(?)の一部に熾烈な価額競争による品質無視、もしくは品質管理の不徹底による粗製乱造が見られることである。このまま手をこまねいていると、「メードイン香港」のイメージが悪化しかねない。このことは優秀な頭脳を持つ専門職の人達が数多く移民として香港を離れている問題と共に気にかかることではある。

 もし、物価上昇傾向が衰えず、売り物の『安いこと』が大なり小なり影響をうけ、その上、せっかく頼りにしている『豊富な品揃え』の一部の香港製や中国製の商品がその品質の点で評判を落とすようなことになったら一大事、ショッピング・パラダイスのイメージに陰りがでてくることになる。

 こう考えてくると、香港観光の売り物の『ショッピング・パラダイス』には先行き気掛かりなことが多い。中でも、最大の不安材料は1997年の中国への返還である。西に向かって開いている香港から自由経済を取り上げてしまうことは、決して中国にはプラスにはならず、『50年間不変』を引き合いに出すまでもなく、先ずあり得ないことであろう。

 しかし、私はこんなことを心配する。
それは返還後、中国が本土における政府(官吏)主導の癖(?)がでて、香港でも何時の日か中国政府の主体性をひけらかすため、なにかにつけてじわじわと管理・規制を始めるのではないかということである。万一、そのようなことが始まると、香港に繁栄をもたらした香港の人達の、あのむんむんとした熱気あふれる独特な商売への取り組みは、たちどころに生気を失うことは目に見えている。下手をすると『ショッピング・パラダイス』への影響も深刻となろう。

 香港の今日の繁栄は自由貿易港がもたらした特殊な経済環境が自然に生み出したものではなく、もちろん、英国植民地時代の香港政庁のお役人が企画し成し遂げたものでもない。実は、そこに住む自由な商売に慣れきり束縛を好まず、金銭欲の極めて旺盛で、かつ、自分個人の大成のためにはいかなる苦労もいとはない1人1人の生活エネルギーが、たまたま香港で長年にわたり凝集し、生み出されたものなのである。

 香港観光は約30年もの長い間「ショッピング・パラダイス」という強力な観光誘致力を頼りにしてきたが、香港観光の画一化排除もさることながら、もろもろの不安定要素を考えるにつけ、将来にわたり全面的に「それだけ」に依存し続けることは適当ではないと思われる。


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