水着を持って南極へ行こう!

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 全体が焦げ茶色の溶岩で出来た島に船が近づく。
狭く切り立った断崖の間を静かに、用心深く進入すると内海は湖のようにおだやかな水面が広がる。港は黒っぽい岩で出来た、まるで古代の砦の廃墟のようだ。

 早速、探検のための小型ボートが用意され上陸を開始する。黒い砂浜に立つと防寒靴を通して足の裏に生温かいものを感じびっくりする。
砂浜から立ち上る蒸気が横にたなびく神秘的な光景だ。幽霊でも出て来そうな気味悪ささえ感じる。南極に点在する他の島々にはない黒の世界だ。砂浜のあちこちで噴き出している温水に水温計を入れてみると、華氏83度の目盛りをゆうに超えている。黒い砂浜には一面ピンク色のエビが打ち上げられて散乱する。

 咄嗟に脳裏にひらめいたのは、当地を特別リゾートにするアイディアだった。
宿泊と交通は定員100人以内の船にする。乗客は世界の第一線で活躍している経営者やビジネスマン。氷山のカケラをグラスにオンザロックをつくり、エビ(オキアミ)を肴にセーター姿のカジュアルなスタイルで新しい友人やパートナーとの交歓を楽しむ。

 この私の夢のような話に乗ったのは、日本のある大会社の2代目社長だった。
彼はそれまでただひたすら大砂漠に魅せられて来た好漢だったが、私の大氷原と温泉付き南極リゾート島の話に、すっかりその気になってしまった。未来の経済社会を発展させるには、まず世界の若い経営者達が出会いと友情の場をつくるのが先決だと言うのが彼の考えで、それではぜひ実現を期そうと誓い合ったのは、今から30年前の話だった。
だがその夢の話のスタートを切る前に、彼は星となってしまった。もちろん、その後も島はそのままだ。

 島の名はデセプション島。海底火山の噴火活動が繰り返され、頂上部分が海上に隆起して出来た馬蹄型の島である。私が初めて訪れてからこれまで2回の大爆発があり、それによって島の形も随分と変わってしまった。

 今では南極クルーズの欠かせない観光スポットとなっているので、記念の南極遊泳に水着は必携品である。参加者たちは外気の寒さに震えながらも、温泉と海水のコントラストに奇声を上げながら、南極での海水浴を楽しんでいる。
一面氷に覆われた白い南極大陸でも、地球の一番新しい姿と地下流れる熱い血(マグマ)を体感できる、珍しく貴重なスポットなのだ。

 そのデセプション島を昨年も訪れてみたが、残念ながら3日間にもわたる荒天のため遂に湾の中に船を泊めたままで上陸できず、南極の海水浴を体験することは出来なかったから、必ず温泉気分を満喫できますというと嘘になる。
船から一歩も出られず船酔いはするしの、逆にいえば探検家気分を十分に満喫(?)させてくれた3日間でもあった。

 白い大陸・南極の表情も千変万化する。


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