インターネット時代の旅館経営に挑戦する
「きらくや」主人
村田英男さん
創業50年の老舗旅館をBB旅館「きらくや」に
昼寝姿のネコがマスコットのなんとものんびりとほのぼのとしたホームページである。 百聞は一見にしかず。くどくど説明するより、村田さんが自ら発信する旅館「きらくや」を覗いてもらえば、全てが氷塊する。(インターネットのインタビューはだからやりずらい=インタビュアー告白?!)
兎に角、コンセプトが明快、正にインターネット時代の旅館経営の見本のようなものである。
宿食分離のBBスタイルはもとより、1人7,500円と安く、勝手に客室係が部屋に入るようなこともないから宿泊客のペースでくつろげる。女湯の方が大きい大浴場にはじまりジェットバスありサウナありで温泉三昧。しかも、日帰り客も大歓迎のうえ、インターネットで申し込むと500円の割引になる。特別なキャンペーン価格ではない。「電話でお答えする当方の手間が省けるので安くできるのです」と、その理由を記しての堂々の新サービス宣言である。飾らずそのままズバリの顧客指向である。
ホームページの伝言板に「余り安いものだから大して期待していなかったが、施設の立派さにびっくり。一回で『きらくや』ファンになりました」という宿泊メモが、数多く掲載されているのだ。
それもそのはず、「きらくや」は創業50年の歴史を誇る「紅葉館」が正式名称、政府登録国際観光旅館連盟のひとつということばかりでなく、平成5年から8年まで「プロが選ぶ旅館百選」に毎年入選してきた、老舗旅館なのである。村田英男さんはその3代目である。
何故、平均2万2千円一泊2食付きの老舗旅館をまだ全国でも数少ないBB旅館に方向転換したのか?------。
「多いときは最大100名収容の紅葉館で年間2万2千人のお客様をお泊めし年商5億円になりました。それが今は年間1万2千人で客単価1万円。損益分岐点は1万6千人ですからまだ採算に合いませんが、かつて16人いた社員を6人に絞り、食べたくもない冷めた料理を出して残飯を捨てていた無駄なサービスを止めて、売上げを下げても収益を確保できる経営方針に改めた。私自身、国際ボランティアをやっていて、旧来の非合理性に矛盾を感じた上での方向転換でもあったと思うのですがね」
そんなベンチャー・ビジネスに金は貸せないという銀行を「時代に遅れるよ」と脅し説き伏せ、思い切った増改築を行い、平成8年10月「きらくで、ごくらくな」BB旅館にコンセプトを変更、全国でも先陣を切ってのユニークなサービスが始まった。
その販売チャネルのひとつとして最もぴったりなのが、本格化の兆しを見せ始めたインターネットの活用だ。
「私自身、ベーシックの時代から趣味でパソコンはいじってましたが、ビジネスに本格的な活用をはじめたのは今回がはじめて。旅行業者さんからの団体送客がほぼゼロとなって、プロのコンサルタントから販売チャネルになるものは何でも使えと言われて、地元のパソコン・ベンチャー企業の青年達に頼み、一緒になって開発してきたのが日英両文によるホームページです。コンセプト変更後の年間実績が1万2千人ですから、もう少しの辛抱。平成9年7月に正式にオープンして半年でアクセス総数は約15,000人でそのうち予約を頂いたのが、600人ですからまあまあの手応えです」
特に開設当初の夏場には、夏休みということもあってか10人に1人の予約率になったというから、すごい。現在は月間平均40人がホームページからの予約だというからもうひとがんばりである。
「まだ少数だが、英語ページを見て香港あたりからのヤングカップルが直接予約を入れてくる。私自身、それほど英語が堪能ではないからテンプレートを作っておいて、E-MAILでお答えしている。インターネットをやって分かったことは、ホームページはただ作っただけでは何にもならない。ネットをサーフィンしてこまめに登録したりリンクをお願いしたりして、使い方を徹底的に研究しなければアクセスは上がらず、従って商売にならないということです。印刷業者やコンピューター屋さんにも声をかけた中から、ホームページ作成業者をベンチャー・ビジネスの青年グループにしたのも、そんな理由からでした」
まさに、社長自ら手を染め育ててきた手作りのホームページというわけだ。
いま、日本の旅館経営は大きな曲がり角に立たされている。高度成長期に絶頂を極めた熱海や北陸の老舗大型旅館が次々と倒産、消費者嗜好の変化の中で方向転換が思うに任せず経営難に陥っている旅館が無数にある。磐梯熱海温泉旅館街にある旅館のひとつひとつが個性化を強め総体的にお客を惹きつける力になれば、それが地域全体の利益にもつながるというのが、村田さんの視点だ。
残念ながら本インタビューページがまだ音声発信をしていないためお聞かせできないが、不要な飾り言葉を使わず福島弁丸出しで投げ込んでくる剛速球は、一球一球がずしりと重く説得力に富む。老舗旅館の知名度に奢らず自ら変革に挑む村田さんに、新しい時代の新しい旅館経営の姿を見る思いである。
構成:高梨 洋一郎