次項 INDEX HOME
T  なぜカムチャツカなのか



はじめに

 1994年9月、私たち日本環境教育フォ−ラム・エコツ−リズム研究会を中心とする7名は、カムチャツカの土を踏んだ。

 この中の誰もまだ踏んだことのない地、カムチャツカ。あまりにも、少ない情報。危険を匂わせるような予感。治安、野生の猛獣(ヒグマなど)、火山の噴火……。しかし、好奇心だけは人一倍のメンバーが、このカムチャツカエコツア−の調査に参加してきた。

 私たちがカムチャツカで目にしたもの。それは、自然と呼ぶにはあまりにも違和感のある、つまり「天然」と呼ぶしかないような、無垢な地球の姿であった。私たちの祖先たちは、ずっとこのような光景をまのあたりにしていたに違いない。しかし、私たちは数千年前の日本人ではなく、このカムチャツカに生きる人たちも、古代の民族ではない。

 当初の私たちの予想を裏切って、すばらしいカムチャツカ人(ロシア人)たちと出会うことができた。この体験の日々を報告しよう。


何故カムチャツカなのか


 1991年に、約70年間つづいたソビエト連邦が解体するという、歴史的な大事件が起きた。世界史的な出来事であるこのソビエト連邦の崩壊によって、極東地域という私たち日本人にとっては、極めて結びつきの深い旧ソ連邦地域が、近くて遠い国としてではなく近くて近い国への幕をあけはじめた。

 これは何を意味するのだろうか。かつての、軍事的緊張は無くなったものの、政治・経済・国際協力・民間交流などなどといった、様々な分野での日本との関係が始まろうとしている。

 ボ−ダ−レス時代をむかえている日本にとって、カムチャツカもまた近い将来、日本とのボ−ダ−レス時代をむかえることはさけられない。

カムチャッカ空撮

 日本環境教育フォーラム・エコツ−リズム分科会では、自然型エコツ−リズムの研究を行なってきた。

 現在、大手旅行会社をはじめとして様々な分野で、エコツ−リズムという言葉がきかれている。[エコ]という二文字を頭につけるだけで、社会的認知をおびる時代は既にない。しかし社会の様々な層が、エコツ−リズムという概念を取り入れようとしていることは、おおいに評価したい。私たち自身、エコツア−を考えるにあたって、その社会的な定義をつくろうとは考えていないし、そうした論議に時間を費やすより、自ら拠って立つ視点でものを見たほうがよいと考えている。


 つまり、私たちにできることは、「環境教育」という視点からみたエコツ−リズムを考えることである。そうしたとき、私たちで考えることのできるエコツア−をひとつ、モデルとして組み立ててみよう、という声があがった。

 その対象として意識にあったのは、カムチャツカである。カムチャツカは心理的に極めて遠い。けれど圧倒的な自然については、誰も異論をもたない。まるで、「素材」といってもよいようなカムチャツカを、我々のエコツア−のモデルとして組み立ててみよう、それが同時に我々の研究のひとつの姿を映し出すかもしれない。(広瀬)