スイスのバーゼルから今度はフランスへ入ってみよう。
アルザス地方の南にあるミュルーズ(写真左)は、バーゼルから車で30分ほどの場所にある。
この町にあるユーロ空港は、バーゼル、ミュルーズ、フライブルクの3都市の空港として機能している。このことからもこの3都市が経済的にも密接な関係にある事が伺える。
ミュールーズの人口は11万人ほど。古くは神聖ローマ帝国の町の1つで、独仏国境のアルザス地方とともに、両国の争いの狭間でフランス領になったり、ドイツ領になったりと、波乱の歴史を刻んだ地でもある。
どことなくドイツ語を彷彿とさせる発音のミュルーズ(Mulhouse)という名は、「水車小屋の地」を意味している。昔から工業が盛んで、近代に独仏がこのアルザスに執着し争いを繰り返したのも、この地方が産出する石炭が理由の一つだった。
こうした工業都市らしい見どころが、染色織物博物館、国立自動車博物館、そしてフランス鉄道博物館だ。
特に自動車博物館には、世界でも最大規模となる100台以上のブガッティが収蔵されている。
ブガッティは、20世紀初頭にイタリア人のブガッティが当時ドイツ領だったアルザスに設立した自動車会社で、主にスポーツカーを中心として製造を行っていた。今や伝説のスポーツカーで、特にカーマニア必見の場所だ。
同様にフランス鉄道博物館には、フランス国鉄(SNCF)の歴代車両が集められている。SNCF設立期の第一号蒸気機関車やブガッティ社製の客車などがずらりと並び、こちらも鉄道ファンならぬ鉄男・鉄子には垂涎の地の一つと言えるだろう。
ミュルーズから列車で約30分ほど北へ向かったところには、コルマールという町がある。
「メルヘンの街」と呼ばれるこの町には、ドイツ風の木組み造りの家が建ち並んでいる。フランスの中では一種独特の雰囲気を醸し、かわいらしい雰囲気に満ちている。
欧州の文化は国境へ向かって緩やかに変わると言うが、まさにこの町はドイツとフランスの国境沿いにあって、双方の文化が緩やかにシフトしていく過程にあることを思わせられる。また、ミュルーズはじめ、赤桃色の砂岩の建物が、スイスのバーゼルやドイツのフライブルグとの緩やかなつながりを感じさせる。
工業都市のミュルーズに対し、この町は商業都市としての色合いが濃い。コルマールという名が文献に登場するのは9世紀にまで遡り、13世紀には神聖ローマ帝国の自由都市として栄えた。
アルザスの首都であるストラスブールに比べると町は小ぢんまりとしているが、その小ささが町並みを眺めながらの散策にちょうど良い。小ヴェニス(プティット・ヴェニーズ)と呼ばれる運河や旧市街は趣深く、またラ・メゾン・デ・テット(頭の家)と呼ばれる古い商館(写真左)やプフィスタの家(写真右上)など独特な装飾を持つ建物も多く並び、この地が裕福な商人で賑わったことを偲ばせる。
工業都市ミュルーズと、可愛らしい商業都市コルマール。そして、素朴な歴史都市バーゼルと、清流が美しいドイツの都市フライブルグ。
ライン河の都市巡りは、地理的・風土的な共通点とともに、スイス・ドイツ・フランスのそれぞれの個性が垣間見えてなかなか興味深い。