プラム人形を売る子供 | ドイツ・クリスマスのふるさと ザイフェン |
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ドイツのクリスマスシーンを彩る「くるみ割り人形」や、タワーの上にプロペラが付いた「クリスマス・ピラミッド」。 エルツ山地のフライベルクよりさらに南にあるザイフェンが、これら木のおもちゃの産地だ。 ザイフェン(写真右)はチェコの国境を間近に望む、人口2700人程度の小さな村だ。 「くるみ割り人形のふるさと」や「ドイツ・クリスマス工芸のふるさと」として、最近は日本でもこの町の名を耳にするようになってきた。 このザイフェンもかつてはフライベルク同様、水晶や錫、銀の発掘などを生業としていた鉱山労働者の村だ。 鉱山労働のできない冬期の副収入源として行っていた木のおもちゃ作りが、19世紀中頃の閉山にともない主産業となり、さらには「おもちゃのふるさと」としてクリスマスのみならず、イースターの兎の人形、季節を問わない木の人形の置物なども製作されるようになった。 町には「おもちゃ博物館」や教会に加え、いくつもの工房が点在している。これらの工房では製品の購入はもちろんのこと、工房見学やおもちゃ作り体験ができる。 早速、工房の一つ「ザイフェナーホフ」へ。 やわらかく爽やかな木の香りが漂う工房の中には、ピラミッドの部品や裁断された木材が並んでいる。 ザイフェンの木製品は木材をろくろを使って彫刻し、カットするという技術が特徴だ。 回転が生み出す柔らかで優しい丸みと曲線が、ザイフェンの人形やおもちゃにホッと和む温かさを与えているのだろう。 その手法はどことなく日本の「こけし」と通じるものを感じ、より親しみを覚える。 鮮やかなノミやろくろ捌きで、小さな木片があっという間にかわいらしいモミの木(写真左)に変わる工程は、さすがドイツ「マイスターの国」だと改めて実感する。 この日、工房の2階では小学生たちが人形の色付けに挑戦していた。 すでに出来上がった白木の人形のキットや、商品にできない部品が箱に用意されていて、そこから好きなものを選び色付けをしていく。 キットには鉱夫や兵隊などの色見本が付いているのだが、思い思いに好きな色を塗っているところが子供らしい。 くるみ割り人形にしてもピラミッドにしても、そしてこの着色キットの人形にしても、モチーフは兵隊や鉱夫など、ザイフェンやザクセンを象徴するものが多い。 半円の壁飾「シュヴィープボーゲン」の図柄はことに典型的で、陶磁器のマイセンの紋章、鉱夫、職人とレースを編む女性と、ザクセンの工芸品が集約されている。 この他にも、2〜3人の子供が歌っているモチーフがある。 これは19世紀頃のザイフェンの子供たちで、クリスマスシーズンになると教会へ行き、歌を歌い、家計の助けとしていた姿だという。 マフラーをまいた子供がプラム人形を売っている(写真上)。プラム人形は、干したプラムに針金や糸を通して繋いだクリスマスの人形の一つだ。 こうした子供たちが街中教会前に現れるのも、クリスマスシーズンの“風物詩”だったそうだ。 くるみ割り人形(写真右)の姿が兵隊や役人を象っているのは、厳しい生活にある人々が「せめて固いものでも喰わせてやれ」という洒落心と切実な思いとで作られたとか。 ザイフェンのおもちゃには、これらを作った人々の伝統的な生活や思いが込められているのだ。 厳しい現実から生まれた温かさと優しさ溢れるおもちゃ。 雪深い山の中での生活は厳しく、採掘は過酷で危険な労働だ。 しかし、四季折々の自然は美しく、そして質素でも家族が肩を寄せ合い暮らしてきた。 ささやかながらも、大切な幸せとは何か。 おじいちゃん・おばあちゃんが孫たちに昔話を語るように作り続けられるザイフェンのおもちゃは、そんなことを伝えているように見える。 だからこそ、ザイフェンのおもちゃはドイツのみならず、訪れる観光客をはじめ、世界中の人々に広く愛されるに違いない。 | |
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