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趣味と実益のアダルトスクール

 アダルトスクールというのは各行政区が行っているカルチャースクールである。日本でいう生涯教育施設の成人学校に当たる。コースによるが1学期1コース30〜60ポンド程度とかなり安い金額で通うことができるし(さらに地元、高齢者、失業者などに割引制度有り)、アートや語学などのコースが充実しているのはイギリスならではだろう。だいたいどのコースも20人程度の少人数制なので、講義を聞くというより参加型だ。話しを聞く性質のものでも当然ディスカッションがある。まだ英語力がおぼつかないうちに心理学のコースを取った時は、隣の人との話し合いの時間の度冷や汗をかいたものだ。
 ロンドン市内でもカムデン、チェルシー&ケンジントンなど各行政区に分かれて運営している。中でもシティリットは、市内の行政区域とは関係なく行われているアダルトスクールで、コースの内容もかなり本格的で人気が高い。コースの受け付け開始の日は人気の講座を申し込むため列ができる。
 ここで2年以上にわたり、適当にサボりながらも、発声のコースを取っていた。見学に行った時に聞いた、オペラ歌手の先生の生の歌声に感動し、以後、継続的にではないのだが、2年間にわたって週1回通っていた。発声することが、ストレス発散でもあったし、気晴しというのが一番大きかったかもしれない。また学校ではなかなか会えない社会人の人達に会えるのも成人学生である私には嬉しかった。

ダンスのワークショップのようす。ロンドンでは
アダルトスクール以外にもアートのコースがたくさんある
 それまで私は、西欧人というのは音感が優れていて歌も上手いものと勝手に思い込んでいたのだが、これが誤解だったということがわかった。イギリス人でも音痴はいるし、声の通らない人もいる(発声に当たり西欧人の骨格の方が音を響かせやすいといわれる)。まさに人各々だ。長いことイギリスに住んでいるお勤めの日本人の女性がいた。彼女はミュージカルの歌が大好きで、いつも積極的に前で歌っていた。人前で歌う彼女は表情豊かで本当に楽しそうだった。一方、声も出ているし、オペラも詳しいイギリス人女性がいたが、彼女は対照的に表情がなく、むしろ恐い面持ちで緊張して歌うので見ている方が辛かった。周りの指導にもかかわらず、その歌い方は最後まで変わらなかった。日本人が緊張しやすいとかプレッシャーに弱いとか、白人だからどうの、なんて偏見に過ぎないと実感してしまった。でも、イタリア出身のおじさんは声質も明るくて、上手だったけど。私は歌うというより、何か発声練習と観察にいったようなものだったが、思いがけない発見をし、十分楽しませてもらった。
 日本に戻り、地方自治体の運営する成人学校とやらに行ってみたら、50人以上も入る大教室で、日本の教育を象徴しているな、と感じたのであった。確かに朝カルなどはおもしろそうだし、コースも多彩だ。でも高い。ここの1学期分はイギリスで取ったコースの3倍以上はするのだから。それに趣味のコースはなぜかマニアっぽくて門外漢には入りづらいのがちょっとねえ。

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