世界最初にアジポッドシステムを採用した客船、イレーション
想像を超える乗り心地は感動もの
シックな雰囲気を加味し、新しいカーニバルの楽しさを演出
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イレーション プール |
1996年、客船上初の超10万総トン船「カーニバルデスティニー」(10万1千総トン)を就航させ、世界中の人を驚かせたカーニバルクルーズ。残念ながら1998年、世界一大きい客船の座は、プリンセスクルーズの「グランドプリンセス」(10万9千総トン)に明け渡したものの、それで黙っているようなカーニバルクルーズではなかった。今度は、客船として初めてアジポッド推進システムを搭載した「イレーション」(7万367総トン・問い合わせ先:アンフィトリオンジャパン 03−3832−8411)をデビューさせ、テクノロジーのリーダーとしての力を見せつけた。
推進システムが360度の回転能力を持つアジポッドは、操船性能の向上や、振動、騒音の軽減に役立つと言われ、既にコンテナ船などでは取り入れられていたが、客船としてはイレーションが世界初。パガノ船長によれば「本船の最高速力は22.8ノット。大きな特徴は、舵を使わずに回転できること。最早スターンスラスターは要りません。滑らかなスライドとターンに加え、17ノットでぐんぐん後進することも可能です。全体的な動きもソフトになり、横揺れに対しても効果を発揮しています」。
実は、 このクルーズ中、アジポッドの威力を目の当りにする事態に遭遇した。ハリケーン「アイジス」の影響を受け、海は大時化。5メートルを超える高波が容赦なく襲いかかり、我がキャビンの窓は、2日間、荒天用の蓋で覆われた。念のため、カメラや壊れ物は床に置いてはみたが、こんな状況でさえ、机の上の本も、化粧品も微動だにしなかったのだ。逐一、船内放送で流れる、パガノ船長からの状況報告と、航海計画の説明も、安心感を増してくれた。
カーニバルクルーズのコンセプトは明るく楽しい「ファンシップ」。しかし、ともすれば「賑やかすぎるパーティーシップ」等々の陰口を叩かれたこともあった。ところが、イレーションは、時には陽気に、時にはシックにと使い分けられる多様なパブリックスペースと娯楽プログラムを用意し、クルーズイメージをアップさせるに余りある仕上がりとなっていた。
カーニバルクルーズのメガシップと言えば、電飾を多用したピカピカのグランドアトリウムで乗船客をびっくりさせるのが常だった。しかし、本船の6層吹き抜け構造のグランドアトリウムは、ギリシャ神話のミューズ神を浮き彫りにした銅で飾り、赤銅色の控え目な色調が、落ち着きを増し、大理石の螺旋階段が取り巻くステージで行なわれるクラシック音楽の演奏が、この空間にエレガントな雰囲気を加味する。ブッフェレストラン・ティファニーグリルには、見事な孔雀のステンドグラス。朝食時には、オムレツ係りのコックさんに、チーズ、オニオン、ハム、マッシュルーム等の中から好きな物だけ入れてもらった焼き立てのオムレツが人気。食後のコーヒーをすすっていると窓の外に、イルカを発見したラッキーな朝もあった。