VI エコツーリズムの可能性について

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◆ 今回のツアーをエコツアーとして見てみると

エコツアーが本来のエコツアーであるためには、いくつか満たさなければならない条件が考えられる。今までにガイドラインとして提唱されたものがいくつかあるが、ここでは1994年に日本自然保護協会より発表された「NACSーJエコツーリズムガイドライン 自己診断ガイド」に照らし合わせながら、今回の旅行を評価してみた。自己診断ガイドは大きく四つに分けられており、さらに十前後のイエスノー形式で答える項目よりなっている。単に一つ一つの項目をチェックするだけではなく、大きく先の四つのガイドラインの視点から考えてみた。

1. エコツーリストとして

エコツアーに参加するエコツーリストには、訪れる土地の自然や文化を学ぶことが要求される。そして、できれば出発する前に調べることが望ましい。今回の旅行の最大の難しさは、日本で手に入る情報が極端に少ないという事だっため、事前の情報は十分に得られたとはいいがたいが、簡単な郷土史博物館や野生生物に関する資料を手に入れ参加者に配布することができた。

旅行中、野生生物やそれらを取り巻く環境への影響を最小限に押さえることは、エコツーリストとして最低の条件である。しかしこの点については、いくつか考えるべき点が出てきた。まずはごみの問題で、アバチャ山登山のためにベースキャンプを設営したが、そこから出る残飯は全て潅木の中に捨ててしまった。これは残飯の処理を現地スタッフに任せてしまったこと、また現在キャンプ地の利用者がまだ少ないため、問題としてあまり大きくないと判断したこともあった。現地スタッフには残飯は捨てない方がよいことは説明したが、マーモットが食べるから大丈夫といった認識だった。今回程度の利用ではあまり問題にはなりにくいが、将来この場所の利用が増えること考えると、次回からは残飯を埋める、又は全て持ち帰るなど理由を説明しモデルを示していく必要性はある。

野生生物との関わりでは、保護されている生物の採取やその製品を購入するなどはしていない。他にはキャンプ地に現れたマーモットに多少の餌を与えたこと、アバチャ山の山頂でみた齧歯類に餌を与え手に取ったと言うことがあった。原則としてやはり餌付けをしたり、手に取ってみることは本来の生態系を乱すこととなるので好ましくなかった。

2. 旅行主催者及びガイド、添乗員として

旅行主催者にも、エコツアーの企画段階から目的地に関して、適切な情報源より十分な情報を集めることが要求される。企画段階で訪問地に詳しい研究者や自然保護団体の意見を聞くことがあげられている。
今回は同志社大学の登山隊訪問団の資料を手に入れたり、帯広畜産大学教授らの自然保護区訪問記を読んだにとどまった。参加者に事前にオリエンテーションを行うという点については、エコツーリズム研究会を通じ、収集した資料を配布したりディスカッションを行ってる。このガイドラインでは既にエコツーリズムの受け入れ体制がある程度整った地域を想定しているため、必ずしも今回のような旅行には単純に当てはめにくい。

エコツアーを移動環境教育教室ととらえるならば、添乗員そしてガイドはさしずめ「先生」ともなる重要な橋渡しの役割を果たす。どんな先生に会えるかは、旅行主催者次第である。それだけ旅行主催者は、添乗員とガイドの選任と養成に関し重い責任を持つ。添乗員に関しては、事前に日本の旅行代理店を通じ、今回の旅行の主旨を伝えてもらい、それに見合った現地スタッフを要請した。

結果としては、宿は旧共産圏と言う事情もあり、ほとんどの宿が地元資本と思われる。地域の市民に地域の自然を見直す機会として交流をはかることが望まれるが、カムチャツカ側の旅行代理店の計らいなどもあり、自然体験型の旅行社一社と手配全般を請け負った旅行社一社とエコツーリズムに関して意見を交換することができた。旅行を締めくくるに当たり、参加者と地元からの感想、意見を収集し次の旅行にフィードバックする作業は、一つにはこの報告書の作成がある。地元からの情報収集はこれからの課題となる。

カムチャッカ花 3.宿泊施設として

今回のカムチャツカでの宿泊施設は2カ所だった。市内の宿泊は、ロシアでは平均的なツーリストホテル、登山の時にはテントであった。市内のホテルに関しては、特記すべき事はなかった。テントは、立地としては標高800メートル程度の山腹の扇状地にあった。テントに泊まることにより、必要以上の快適さを求めることを避けた形の宿泊となった。

最も重要な点の一つである周辺環境に与える影響については、課題が多くあった。まずエコツーリストとしての項目であげられた残飯の処理。またキャンプ地にはトイレがなかったため用便は潅木の中でしたが、これから訪問者が増えてくることが予想されるため、適切な屎尿処理を行う施設が必要と思われる。キャンプ地は一般に開放されている様子であり、管理運営は地域により行われていると思われる。自然と文化の解説については、現在解説の需要が少ないため、簡単な地質に関する解説や質問されたときに答える以外には行っていないと思われる。地域の研究、保護、教育施設との交流は、質問した範囲では全くない。

キャンプ地での食事は、ロシア風の料理であったので、地域の産物を中心に利用していると言えよう。エコツーリズムを通じていた情報を地域にフィードバックするのは、これからの課題である。同様に、地域の環境いく行事の企画に協力することも、これから可能性を探ることとなる。

4. 保護地域(国、地方自治体)として

今回の旅行では、カムチャツカ州政府など地域の行政を取材していないため、保護の制度や取り組み情報は不明である。そこで地域の旅行主催者より聞いたエピソードを元に、受けた印象をここでは述べたい。

カムチャツカ州は1991年に外国人の旅行が自由化されて以来、海外からの旅行者するが急激に増えている。州政府は地域の自然が観光資源であり、これから成長が見込まれる産業であることは認識しているようである。しかしまだ観光業自体の規模がそれほど大きくないため、将来環境へのインパクトが許容範囲を超える可能性があること、それを防ぐためには、計画的に観光政策を立てる必要があることは、ほとんど認識されていない様子である。これは今回あった旅行会社のガイドと話していて得られた印象から言える。例えば、ごみをそのまま捨てても大丈夫と言ったり、クマはたくさんいるので狩猟では減らないと言った発言にその一端がうかがえる。

個々のガイドラインについては以下のようであった。
日の出直前のアバチャ山  アバチャ地域への旅行は許可制度になっていないため、現在は過剰利用ではない様子だが、将来は適正規模の利用を行うための管理体制を作る必要がある。現在の利用形態は、キャンプ、登山、茸狩りなどであるため、利用による自然へのインパクトは少ない。
政府の中では自然資源利用研究所が、地域の自然の研究を行っている。
しかし、得られた情報をどの程度提供しているかはわからない。地域の環境教育に関する取材は行っていないので、状況は不明である。現在ビジターセンター、ネイチャートレイル等の整備は行われておらず、指導者もいない。

以上は、日本自然保護協会が提唱したガイドラインに大まかに沿った形で分析してみた結果である。
このガイドラインは、今回の旅行の善し悪しを判断すると言うよりは、これからどんな点に取り組む必要があるのか洗い出すことができたという点で役立った。(東梅)

◆ 観光の現状とエコツア-の可能性

観光客2万人?!

州政府はすでに観光を重要な州経済の基本のひとつに据えている。基幹経済の混乱に際してカムチャツカの外貨獲得の先兵として、観光資源は脚光を浴びている。29の活火山を含め、160以上の火山群、温泉も各所にあり、フィッシング、ハンティング、山スキ-などが盛んに行なわれている。

渡航の自由化により1992年には2千人:�:だ年には1万人と観光客が急増している。そして94年には日本人も含め2万人の観光客が見込まれている(これは州政府の発表であり実数は不明)。観光の土台となるハ-ドはホテル、レストランなどのサ-ビス部門をはじめとして無いに等しい。また、観光的なソフトは観光業に携わる人的な資源を含めて極めて貧弱である。ロシア語しか通じない現地ではこの点が大きなハ-ドルとなっている。

前述したように、経済の悪化によって相対的に観光資源のもつ比重が増大した。現状、カムチャツカの山岳や氷河は、広いロシアのなかでも有数のものである。そのため、青少年の教育をはじめとして大陸からの滞在者が多い。しかし、州政府は、海外からの観光客の増大に大きく期待している。その仕組みとしてエコツア-がしきりに言われているが、現実は、少しでも多くの外貨を稼ぐことに目がいかざるえず、そのためには自然資源の使い捨てが行なわれている。

カムチャッカ空撮  カムチャツカの環境対策

ここでおきてくるのがカムチャツカの環境保全の問題である。私たちが数日ともにした自然体験型事業体のメンバ-は、ゴミを捨てることに、頓着していなかった。
広大なキャンプ場には、一見、ゴミがまったく無いようだがよく見ると、そこかしこに見付けることができる。今のところ、人口の比率と環境破壊の程度がまだ自然に与える影響を小さくしているが、それが逆転するのも時間の問題であろう。

州政府は、環境保護局、地域エコロジ-研究所、火山学研究所などの環境保全を担当する部署をもってはいるが、独立採算が行なわれるようになってからは、これらの機関の運営も極めて厳しい状況にある。事実、火山学研究所の研究員が外国人旅行者のガイドをしていることは当たり前だ。

ユネスコの自然保護区が多いこの地では、巨大な間欠泉で有名なゲイゼル渓谷などのあるクロノツキ-自然保護区などにも、観光会社がヘリツア-を組みはじめている。これらはかつて人跡未踏の地である。
まだ現状では大きな自然破壊は問題とはなっていない。しかし今後、日本をはじめとして海外からの観光客が増えることは充分に予想できる。

カムチャツカ州政府が今のところ環境保全に手を回す余裕が無い状況ではこうした観光客に対して、環境保全を訴えるのは極めて難しい。

この楽園でエコツアーを

この地球上に残った残り少ない自然の楽園はこうして危機をむかえている。隣国の日本にとって、経済援助だけではなく、環境保全も重要な協力要素である。

カムチャツカは、渡り鳥ばかりではなく、植生や動植物の生態においても、極めて日本にとって重要な研究対象となる地域である。このすばらしいカムチャツカの自然をどのように保全し、どのように活用したらいいのだろうか。私たちは、次のように考える。

まず、エコツア-を根付かせることだ。そのために、カムチャツカに自然体験型の環境教育の視点をもった人々や機関を生み出すための協力をしていきたい。国家公務員が大半をしめる社会のなかで、独立採算の私的企業は、極めて困難な状況にある。私たちは、需要を掘り起こすことによってこうした零細ビジネスを側面援護することができるであろう。

また、日本国内でこれからまき起こるであろうカムチャツカへの旅行熱を前に、ひとつの視点を提供しておくことは重要である。カムチャツカは、グアムなどへいく気分で出掛ける場所ではない。ここは人類にとってかけがえのない天然資源をもつ地域だ。そこに旅するものにとって、最低知っておいたほうがよい視点を私たちは提供したい。

それは日本のエコツ-リズムにとって、大きな役割をはたしてくれる可能性をもつ。私たちが、そうした研究の手始めに、カムチャツカを選んだことは正解であった。ここは日本人にとって魅力あふれる大地だ。(広瀬)


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