エコツーリズム第五の視点

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【エコツーを求めているのはいったい誰か】


このところのニュースを見ていると、いったい誰のための制度なのかであるとか、誰のための商品なのかなんてことをよく考えてしまいます。翻って今自分たちがテーマにしているこの「エコツーリズム」というもの、本来主体となるのはなんのか、少し考えてみたいのです。

だいぶ以前のこと、「エコツーリズム」をめぐって「地域」「保護」「経済」「教育」の4つの基盤があるのではないか、と提案したことがあります。「地域」の視点からみれば、地域振興にいかに寄与するのかが大きな主題となり、「地域」と「保護」とを延長していくと、それは「フィールドミュージアム」づくりの話につながります。

ここに「旅行業界」という「経済」が絡んで、商品化に向かうと、エコツーリズムの最も注目されている産業化への道筋が見えてきます。現在、よきにつけ悪しきにつけ問題とされているのがこの部分です。エコツーリズムによっていかに経済化が図れるのか、それは商品化できうるのか、地域にとってまた旅行業界にとってこれほど大きな問題はないでしょう。

一方で「教育」の現場でも、最も大きな注目はやはり経済化です。環境教育の業界でも、事業の1つの形として「エコツアー」を位置付け、そこに大きな可能性を見い出しています。エコツアーでの重要なファクターである現場のガイディングに、インタープリターの能力が求められ、そこでのプログラムや、インタープリテーションがそのエコツアー自体の商品価値に結び付きます。そこでのソフトのクオリティこそ、環境教育業界で最も重視し、ほかとの差別化や自らの商品価値を高めるものとなっているのです。この研究会での話題になるのがこの点です。

現在のところ「エコツーリズム」については、こうした「地域」と「教育」そして「経済」が結びついたところの議論と実践が進んでいます。そして、そこではずせないのが「保護」です。本来、保護するのであれば、そこを人の旅行する場所にはすべきではなく、きっちりと保護するエリアを守ることは非常に重要なことです。エコツーリズムは、本来そうした場所を対象地にするわけにいかないでしょう。人のインパクトやプレッシャーがあり、その上で成り立てる自然でなければツアーは成り立ちません。

そこで全体にある独特の「保護」の意識というものが起こるように思います。「自然へのインパクトをできるだけ少なくするように、自らの行動を制御する」という感覚は、今までの旅行の意識にはなかったことではないでしょうか。エコツーリズムの最もベースにあるものがこの意識でないかと位置付けたいのです。


【ツーリストの視点】


さて、ここで一つ抜けている視点があります。前回の4つの仕分けからもれているのが「ツーリスト」のポジションです。地域や旅行会社、ガイドがあって「エコツーリズム」なるものが展開されているということは疑いませんが、そこにお金を払い、それを体験するツーリストが存在しなければ、エコツーリズム自体がありえません。最初の問に戻れば、誰のためのツアーかの主体には、やはりツーリストは欠かせないと言わざるを得ません。

ところが、エコツーリズムではさらに難しいことに、そこで生きる生物もまた環境も、さきほどから出ている「地域」も「旅行業界」も「ガイド」も全てが同列で重要なのです。どれかが突出してはバランスを崩してしまう、そこに今までにない問題があるわけです。「自然へのインパクトをできるだけ少なくするように、自らの行動を制御する」というのは、実はツーリストに求められる感覚であるのです。

環境を配慮した行動をとり、地域のガイドによる自然体験を求めたり、自らの行動を制御することのできるツーリストが増えることが、エコツーリズムが成立し成熟するためには欠かせないと思うのです。とかく事業をする側の視点でしか見ていないと、いかにそうしたツーリストを増やすかということに走りがちですが、ツーリストとして求めているものはなにかをより深めていくべきでしょう。自らが、そうしたツーリストでもあるわけですから。


【求めているのは「野性」ではないのか】


なぜ人は自然の中を旅することを望むのか、実はエコツーリズムにとっての根源的な性格はここにあるのではないかと思っています。エコツアーの参加者の多くが都市住民であることは見逃せません。自然を求める、と言ってしまえばそれまでですが、そうまでして求める自然とはいったい何なんでしょうか。

クジラやイルカ、見ることのできないあこがれの生き物たち、人の手付かずの場所に強く引かれる人は多いでしょう。ひと昔前までは、そうした地へいくことが冒険であり、自然へのインパクトがどうしたなどとは考えもしなかったでしょう。しかし、そうした時代から人は強い野性をもった地域を目指してきました。

そして現在、人が求める自然とはその地の持つ「野性」なのではないかと森は仮説を立てています。強い野性を体験することが、その人の精神上、肉体上必要なことではないかと。
「野性」を求めて自然に向かう向かい方をエコツアーとしたり、インタープリテーションによってなせれば、そこに商品化がなしえるでしょう。

作り手側の意向だけでエコツーリズムはありえないのです。エコツアーのツーリストが増え、作り手と受け手、現場の担い手、その補助、そしてツーリスト。少なくとも、すべての視点がエコツーリズムには存在します。そして人間以外の「野性」の部分、これとの調和をコーディネートするのが、これからのエコツーリズムを考えるキーになると考えます。

エコツーリズム研究会の連絡先はこちら
(財)自然公園美化管理財団
〒105 東京都港区西新橋 2-11-6 ニュー西新橋ビル8F
TEL.03-3592-1171 FAX.03-3592-1175
NIFTY ID= MXE03266(森 高一)


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