〔コラム〕 東方正教会とイコン
信仰生活において重要な役割を担う聖像画「イコン」
立体的偶像は認められていない東方正教会の礼拝堂には、カトリック教会にあるようなキリストや聖人の彫像は見られないが、その代わり用いられているのが、キリストや聖母などを描いた聖画像「イコン」である。
このイコンは東方正教会の聖堂内はもちろん、信者の家にも置かれるなど、信仰生活において重要な役割を担っている。
長い時の中で迫害や受難の歴史を歩んできたキリスト教徒は、そうした状況下にある時は目立たない場所に身を潜め、壁にキリストや聖人、聖書の中の物語の場面などを描き、苦難に耐えその信仰を貫いてきた。これがキリスト教芸術の祖と考えられている。
そして、これがイコンの前身となり、信仰の媒介として尊ばれるようになった。
イコンはまた、東方正教会の教えを正しく伝えていくための「教材」としてもよく用いられている。余談だが、パソコンなどで私たちが良く耳にする「アイコン」という単語は、“形”を意味するこのイコンに由来している。
イコン画製作は教会への奉仕、また宣教師としての聖なる職として位置づけられている。そのためイコン画家は、教会の聖伝とその教えに基づいて修業を積む。一般的な宗教画とことなり、イコンに画家の名が記されることはないことから、その作者が明らかになることはほとんどない。また、工房で製作されるというのも、作者をわかりにくくしている理由の一つである。
メテオラ観光のゲートウェイとなるカランバカにはイコンの工房があり、そこで製作の様子を見学することができる。
工房の壁に吊された聖人の型紙や、棚にところ狭しと並べられた大小様々なイコンが目を引く。この工房では金紙を額縁に貼り付けて刷毛で拭き取り、すばやく金色の額縁を作る作業も披露された。
イコンは修道院はもちろん、こうした工房や土産物店で買い求めることができる。比較すると確かにその種類は土産物店の方が豊富なのだが、やはり修道院の方が “ありがたみ” があるように感じられるのは筆者だけであろうか?