東洋・西洋 共存の魅力
ついでに、公用語であるが、返還後の香港の憲法ともいえる「基本法」によれば、英語も返還後50年間は公用語の1つとして認められるはずである。これは表向き多少の「西洋」が残ることになるからありがたい。しかし、安心はできないのである。現在、政庁関係はもちろん、法廷にしても、公式文書や一般ビジネスにしても英語があたかもたった1つの公用語であるかのように幅をきかせている。
ところが最近は、広東語・北京語の巻き返しが激しく、英語の影が日に日に薄れてきている。中国語(広東語・北京語)重視、英語軽視の傾向が目に見えて強くなりつつあるのである。
公式文書でも、今まで英語だったものが、もう既に英語と広東語が併記されるように変わってきた。返還後は、そう長くない内に立場は完全に逆転し、公用語としての英語の存在は、ただ名目だけのものになるのではないだろうか。
こうして、また1つの英国、西洋の名残りが消えることになる。
余談だが、公用語の1つである「中国語」は中国のいう『港人治港』(香港人が香港を治める)により、広東語になるのだろうか?それとも中国の国語である北京語になるのだろうか?
もし北京語が公用語になると、一大事である。同じ漢字でも発音が全く違うため、まず、道路標識や地名などの中国語、つまりローマ字で書かれている部分は公式には今までとはまるで似ても似つかないものになる。ガイドブックなども、今までローマ字で綴られた部分が全部書き直されるようなことになると、漢字抜きでは何処が何処やらさっぱり分からなくなってしまう。そのローマ字を片仮名に置き換える場合も全く同じ。また、その漢字すらも、もともと英国の名前だったものを北京語で音訳するような場合、当て字として使われる漢字は、これまた全く違ったものとなる。観光業界や旅行出版業界に大混乱が起ることは間違いない。おまけに、中国で使っている簡略化された簡体字が使用されるとなると最早処置なしである。
だからといって広東語を公用語にすると、中国の国語としての北京語の立場はどうなるのだろうか。しかし、この辺のところは中国に我慢してもらって広東語を香港の公用語にしてもらわねばなるまい。広東語と北京語の両方を公用語として認めると、さらに一層混乱することになる。
少々脇道にそれたが、いずれにしても、英国がつけた英国流の名前や名称は、我慢のできないものは返還と同時に、何とかしばらく我慢できるものは徐々に、中国名に変えられるだろう。
また、英国の植民地時代の歴史的名残り、『英国的香港』の抹殺は、道路の名前や地名のみにとどまらず、他の分野にも及ぶのは当然である。
例えば、1855年に完成した『総督府』という貴重な歴史的建造物がある。返還後中国が植民地時代の遺物であるとして撤去したら一大事と、英国(香港政庁)はこれを急いで『第一級文化財』に指定したが、果たして中国がこの英国の土壌場の指定を認めて、返還後も大切に保存していくだろうか?多分、この文化財の保護は「基本法」にのっとり50年間は守られるとは思うが・・・。
また、こんな問題もある。それは祝日はどうなるかということである。祝日として明らかに残りえないのは「女王誕生日」や、日本敗戦後の英軍による香港再占領を祝う「重光記念日」などである。代わりにメーデーや国慶節などが入ってくるだろう。