活気あふれる生きざまの魅力

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 豊かさに彩られた豪華な、また近代的でハイレベルな生活環境を誇る香港だが、その裏には植民地香港に生きる人達の、自分の事だけで精一杯で、人を助ける余裕もなければ、また、誰も助けてくれない厳しい生存競争がある。

 それは、行動や判断の基準を徹底した個人主義におく、食うか食われるかの生きざまなのである。
みな栄光のゴールを夢見ながら毎日厳しく競り合っているわけだが、自由で、かつ、万事に躍動的な香港には成功のチャンスも多い。運がいい人はアッという間に波に乗って出世する。それを横目で見ながら、「自分も!」とがむしゃらに働く。それは、生きんがための糧を手に入れる闘いであり、無一文から立ち上がり大金持ちに成ろうとするあがきであり、また、勤め人にとっては、いい仕事にありついて、より高い給料をとるための苦闘なのである。

 人より一歩でも先に出てより早く波に乗るためには、常に両方の耳のアンテナを高く張って情報をキャッチしなければならない。勤め人も、徹底した能力主義のもとで、時には見えないところでお互いの足を引っ張り合いながら、鎬を削っている。
別のより良い働き口のホットな情報も、出来るだけ早くキャッチしようと毎日必ず新聞の求人欄に目を通す。また、情報を分析し、将来有利と判断すれば忙しい時間をやりくりして北京語や日本語を習ったり、簿記とかコンピューターの勉強をしたりして、特殊技能や資格獲得のための投資を惜しまない。他に有利な職場がみつかったり、または、現在の職場で出世する見込みなしと見てとったら直ちに転職する。義理とか人情に縛られて転職をあきらめる、などということは絶対にない。

 どこで働くにしろ、競争に勝つためには常に自分の能力をひけらかしながら上司には徹底してゴマをする。また、例え何か失敗をしでかしても、スルリと責任から逃れる術を身につけている。「すみません。私が間違えました。以後気をつけます」などのセリフは出世をするためには間違っても口にしてはならないタブーなのである。

 厳しい競争に勝つためには、それなりの要領が必要だが、しかし、一般的に、仕事に取り組む姿勢は全力投球で、手抜きやごまかしはしないのが普通である。少なくとも、言い逃れのきかない、誰が見ても自分の失敗と烙印が押されそうな不手際は絶対にしない・・ように努める。

 しばしば、「香港では何かにつけ仕事ぶりがいい加減で、ごまかしが多すぎる」という批判を耳にするが、それは大抵、金儲けとか出世に直接関係のない仕事での手抜きの場合で、食うか食われるかの激しい生存競争に明け暮れている時とか、金儲けや出世がからんでいるのに、あえていい加減な仕事をする人は先ずいない。
もっとも、そのいい加減な仕事とか、ごまかしそのものが金儲けのための手段であれば話は別だが・・。

 少々脇道にそれたが、以上は植民地香港での生存競争の話なのだが、猫の額のような狭いところで生活している約600万人もの人々が繰り広げる、なりふり構わぬ死闘の渦中では、しばしば、落胆、歓喜、怒号、叫喚、喧騒、葛藤、混沌などが渦巻き、強烈な摩擦熱を発しながら燃えたぎっており勝ち残るための凄まじい生活エネルギーを感じ取ることができる。こんな活気が平穏な生活を送る観光客にとって一つの魅力になっているのは面白い。

 私の友人で香港にしばしばやってくるが、お目当ては安物市とか流動小販、つまり露店や道路脇の屋台だけという人がいる。
声高の広東語がとびかう、ごちゃごちゃした裏通りに入ると、目を輝かす。日本で人気の高級ブランド品を売る店などには全く興味を示さず、食事も、一流中国料理レストランより道端の屋台で、見知らぬ土地の人と一緒に粥などをすすっていた方が余程性に合っているらしい。とにかく好きなように歩かせると目、耳、鼻のセンサーをフルに稼動させて、屋台とか露店がありそうなところにどんどん入っていく。

 甲高い売り子の声、品物をつかみながら真剣に値切るエネルギッシュな顔、雑踏と騒音、頭の上の無秩序な原色の看板、口に茶碗をつけたまま長めの箸で何やらかき込む食欲旺盛な人々、陽気な笑い声、大型柄杓が鉄鍋をかき回す鋭い金属音・・それらが入り交じる、庶民の生活に密着した活気に接してはじめて「香港」を感じるという。

 屋台や露店は香港の人達にとっては生きるための手段であり、また、生活のシンボルでもある。その飾らない、生活エネルギーむきだしの雰囲気が香港の魅力ともなっているのは確かである。しかし、この屋台や露店は黒社会(やくざ)の資金源になっているものが多い。その資金源を断つためと、外観上ごちゃごちゃして好ましくないとの理由で、1997年の中国への返還までには一掃されるらしい。

見た目をきれいにしてお返ししようということか?とりあえずは無許可の屋台や露店を取り締まるべく「小販管理隊」活躍している。しかし、思うようにはかどらないのが現実のようである。
「小販管理隊」近づくと見張りの合図でアットいう間に手押し車のようになっている屋台に布をかけて逃げ回る。両サイドを広げた屋台も、素早く折り畳んで消えてなくなるから見事である。何処へ逃げたのかと目で探したら少し離れたところを布で覆った屋台を押しながら何食わぬ顔で歩いていたりする。しばらくすると何事もなかったかのように、何処からともなく現れる。合図があればまた逃げる。
全くのいたちごっこだが、こんなところにも生活のためのしたたかな活気が感じられるのである。



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