エコツーリズム・アドバイザーとして活躍
エコツーリズム・アドバイザー
ローリー・ルーベックさん
(Laurie Lubeck)
日本の旅行業界の元締め役であるJATA(日本旅行業協会)の依頼で制作を進めている「エコツーリズム・ハンドブック」の打ち合わせのために急遽来日、その合間をぬってのインタビューを目論んだが、時間の調整がつかず結局、サンフランシスコ郊外の自宅にに帰国してからのE-MAILインタビューとなった。
こんなことが可能になったのも、ほぼリアルタイムに文字による割安な通信が可能となった「インターネット」の面目躍如たるところである。当サイト「旅コム」に掲載していただいている「Ecotourism Forum」の筆者として、既に読者にはお馴染みのローリー・ルーベックさんの登場である。
80年代にタネが蒔かれ90年代になってようやく花が咲き始めたエコツーリズムだが、米国やオーストラリアのようにひとつの形をつけはじめたエコ先進国と比べ、正直いって日本はまだその端緒すら手探り状態というのが現状である。
その日本でエコツーリズムを根付かせようと、立教大学での教鞭を含め旅行業界や環境関係の諸団体を中心に、ネットワークづくりに取り組んだが、残念ながら日本社会の対応はこの面でも遅い。時間切れでやむなく昨年春いったん帰国、当地から主婦業も兼任しながら日本を含めた世界のエコツーリズム推進運動家として活躍することになった。
サンフランシスコの田舎町に住みながら距離感を感じさせずコミュニケーションができるインターネットは、そんなローリーさんにとって格好の武器でありツールだ。何しろ、このインタビュー記事も地球上どこでも瞬時にして同時発行、格安の費用であたかも隣席の人間と話し合うように情報の交換ができる。やはり、インターネットは革命だ。
「もう20年も前のことだけど、インドの野生トラ保護区をジープに乗ってサファリを体験した時、危険な略奪者に怯える猿や孔雀といった小動物達を見て胸がつまった。多くの旅行者は写真をとり騒々しく動き回るだけ。じっと座って動物や鳥、そして植物達が語りかけてくるまで何故じっと待てないのかな。写真を撮るだけではなく、それ以上に何倍もの素晴らしい世界があるのに、ワンショトを納めたらまた次ぎのアトラクションに向かって急ぎ移動して行く。これでは折角の貴重なチャンスをみすみすドブに棄てているようなものじゃないか。そう思ったらそんな旅行者が哀れになった」
「もう一つは、1988年に体験したケニヤのサファリ。毎朝、象やライオン、ワニ、シマウマ、カバ、サイ等を求めて車を走らせていたんだけど、ある時、有史前からだというサイを見て、涙が止まらなくなってしまった。このままでは文字通り絶滅の危機に瀕してしまう。彼らを絶滅から救おう、そう心に誓った。そして、ナイロビに戻ったら東アフリカ野生動物保護協会のスタッフが、絶滅の危機にある種から作ったお土産は買わない、資源の無駄を止める、非営利の自然保護団体への献金をするなどの手段を使うことによって、旅行者も旅行業者も野生保護のために大きな役割を果たすことができる、ということを教えてくれた。と同時に、旅行者は現地の伝統的な生活スタイルを崩さないためにもっともっと気を使うべきだし、地元経済を活性化するためにもっと現地にお金を落とすべきだ、ということも教わった。それから間もなくだったわ。エコツーリズムという言葉を聞いたのは、、、、」
エコツーリズムの世界に入るきっかけを聞いたら、堰をうったようにそんな思い出話を披露してくれた。早速、在籍していたカルフォルニア州立大チコ校の大学院で、エコツーリズムにコースを変更、米国で初めてのエコツーリズム修士号を納めることになった。
「エコツアーが注目されるようになって、以前には考えられなかったような旅を斡旋する旅行会社が次々と湧き上がってきた。アマゾンの奥地をヘッドホンをつけて歩いたり、ヒマラヤからチベットへのトレッキング、そしてガラパゴスへは船で行けるようになり、ザンビアやチリの渓流下りも楽しめるようになった。と同時に一方では、マスツーリズムに関しホテルや土産、レストラン、そして道路や駐車場など受け入れ施設の出来ていないところまで、その対象になり始めてきた。こういったところは、環境の保全にものすごく神経を遣うエコツーリストのみをまず入れるようにすべきなんですね」さすが、持論のエコツーリズム論は明快だ。
「多くの旅行会社は単に自然を訪れるだけのツアーをエコツアーと称して売るなど、まだ少しもエコツアーでないものをエコツアーと称して売っている。エコツアーと言うからには、自然へのインパクトを出来る限り少なくする各種の工夫や、動植物や土地の文化に対する参加者への知識の付与、そして保全保護に関する積極的な貢献などのキーポイントを含んでいなければならない」
日本でも大小を問わずこのところエコツアーへの取り組みが急ピッチで増加して行くことが予想されるが、ローリーさんは「心底からその会社が環境保全のために十分なリサーチをしているかなど、旅行会社に尋ねるべきだ」と強調する。それが、消費者から見た旅行会社選びのチェックポイントでもあると説く。
ツアーは限りなく同じパターンに収斂し価格競争だけが旅行会社の差別化だと言われる日本の業界に果たしてエコツアーは根付いて行くのだろうか。ローリーさんの手掛けた日本での活動はまず、立教大学での英語によるエコツーリズムだった。
「環境問題に関する一般的理解はまだまだ初期レベルと言ってよかったが、既存の参考文献を遣わず環境や野生の動植物、文化の破壊度等を調べることなどになると、学生達が実に熱心に取り組んでくれたのには驚いた。学生たちがホテルなり旅行会社に就職して、それぞれの持ち場で学んだことを実践してくれることを楽しみにしている。エコツーリズムをはじめツーリズムのインパクト、エコロッジの開発、サステーナブルツーリズム(持続可能なツーリズム)などが、日本の全ての観光学関係の大学でとり入れられることが、最終的な希望」でもあるという。
在日中、日本の旅行業者や環境庁関係の人達との交流も深めながら、忙しく飛び回り、「JATAニューズレター」や「ECOTIMES」「トラベルジャーナル」など数多くの媒体にエコツーリズムに関する執筆を手掛けてきた。その成果を近くわが国初の「エコツーリズム・ハンドブック」として発行する。インターネット有効活用のテストケースでもある。
サンフランシスコにあるローリーさんのMACが本格的に稼働を開始、ペンとなり始めたのはまだかれこれ1年にもなっていない。しかし、彼女にとっていま、MACは国際的な仕事をこなす上での必需品である。
「インターネットにひとこと? それはもう、情報を探したり関係者とのコンタクトをとるなど毎日の仕事に欠かせないツールになってしまったわね。エコツーリズムや環境保全に関する会社や団体の殆どは、オンラインで繋がる。カジュアルなところもいい。完璧なスペルや文法はコミュニケーションの上で必ずしも必要ではない。電話のように簡単にしかもぐっと安く使える。インターネットをもっともっと積極的に活用すべきであると思うわ」
サンフランシスコの片田舎で畑を耕したり鶏に餌を与えたりしながら、一方では、21世紀の最も大きなテーマであるエコツーリズムの推進役として情報発信を続ける--文字通りのスマート(賢い)で自然に対する心やさしき人生に脱帽である。
(構成:高梨 洋一郎)