高齢者にとってINETは福音
アスコット・ガーデン代表
ピート・田辺 氏
1935年生まれの61歳。
2-30年代が主力のインターネット・ユーザーにしてはまずは異色の存在である。しかも、単なるインターネット・サーファーではなく、お得意の英語力を駆使してインターネット・マガジン「からくちNET」に毎号ホームページ評を連載するインターネット・ウォッチャーにしてライターであるから恐れ入る。
高齢化社会における模範的な生き方ですね--と持ちかけたら
「でも、そうですよね。居ながらにして世界のどこにでも瞬時にしてアクセスでき、地球上の森羅万象や人間が営々と築きあげてきた膨大な所産を享受でき、しかも生身の人間と僅かな費用で交流できる。退屈している間などない。むしろ高齢者にとって必携のツールですよ」という答えがはね返ってきた。
ホテル評論家という仕事柄、いまでも年に数度の海外取材を含め忙しく地球上を飛び回るが、帰ってきては海外に在住するお子さん達も含め、各国に散らばる友人知人と忙しくE-MAILの交換をする。しかも、愛機のMACには縦書き升目入りの原稿用紙を置いて、キーを走らせる。加えて、自らオーナーを務める幼稚園では幼児達と英語遊びに転げ回り、暇を見つけては愛車をかって奥さん共々、インターネットなどで見つけたペンション巡りを楽しむ。
恐るべき行動力とバイタリティを備えたヤング60′sである。
「米国アイオワ大学のホームページを覗いていたら、ひょいとした調子にあの中年男女の不倫小説で有名になった『マジソン郡の橋』がでてきた。ついでにサーチをかけてみたら、米国にはマジソン郡の橋が3つあることも初めて知ったが、小説のモデルとなった橋の袂にはチョコレート屋さんがあって、ホームページはそのチョレート屋さんが開設しているものなんですね。不倫の相手に密かに気持ちを伝えようというお客さんで、あの小説以来チョコレートが爆発的に売れ出したそうです。もちろん、小説がヒットするより以前からチョコレート屋さんはそこにあった、というのが米国らしいというか、日本らしくなくていいですね。ヨーロッパの歴史を辿り十字軍の話を追っていたら、いつの間にかマルタ島に飛び、そしてギリシャにつながるという具合に、インターネットは知識と知恵の宝庫で、興味が尽きない」
残念ながらまだまだ圧倒的に英語の多いのがインターネットの世界。その言葉のジャングルの中をさして不自由さを感じず泳ぎ回れる日本人ネットサーファーの一人である。
「日本のペンションにも傑出したのが出始めましたね。インターネットで予約を受けている八ヶ岳のあるペンションは、オーナー自らお客さんの求めに応じこまめに旬の情報を集め見易い地図入りで提供していますが、私が4月から見ているだけで実に20回も改訂している素晴らしいHPです。また、那須にある個室付き露天風呂のあるペンションでは、宿泊客の写真をアップ、その中でまたHPを開設しているお客さんが評価を書き込み、それがまた次のネットワーカーにつながってゆくという具合で、次々と人間のネットワークが生まれてゆく仕組みになっている。インターネット活用の嚆矢とすべき実例だ」
「米国のHPなどに比べ一般に日本のHPはハード先行でソフトがない。幼稚園の紹介でも日本はまず園舎を写しだして、どんな教育をするのか中身の方はさっぱりというのが通例だが、インターネットを単なる紙芝居にしてしまってはだめだ。それに何といってもインターネットのキーワードは、人間の温かみが伝わる個人情報にある。仙台市と姉妹都市の関係にある米パサディナ市のある人のHPを見ていたら、彼ら老夫婦の散歩道案内が載っていて、休憩するところまで含めその地に愛着を感じ住んでみないと分からないような細かな情報が丁寧にアップされていた。サーファーしていると、あのことだったらあのページに書いているあの人がその道のモサというか達人だな、ということが段々分かってくる。あのことだったら、『ピート田辺の世界』だな、とそういう感じかな、、、」
居ながらにして世界の外部頭脳を活用できるんだからたまらない、とも言葉を添える。
デジタル社会の到来はどうやら本物だという認識がようやく広がりはじめたというものの、キーボード・アレルギーの中高年を中心に、インターネットは所詮一過性のヤング・オタク族の遊びにしか過ぎない、といった見方の依然根強いことも事実だ。
「何かにこだわろうとしたらそれは、多かれ少なかれオタクなんです。私がよく行く英国では、ざっとみて国民の6割がオタクといってよいほど、自分のアイデンティをきちんと持つことを小さな時から教えられてきている。16歳の女子学生が日本の零戦の資料集めに狂奔しているかと思うと、1世紀前からのビンのコレクターや洗濯機の収集家など、こんなことまでとあきれるようなこだわり人がいる。世界のホテル・マネジャーの主だったキャリアの持ち主は、10歳でその道に入ることを決めキッチンでの修行からフロント業務までたたき上げられて、30歳前後でマネジャーになる。そして、50歳でリタイアしたら自らペンションのオーナーになって、ホスピタリティというこだわりの一級品をサービスしてくれる。何気ない仕草の中にも細やかな神経が行き届いていて、さすがプロの世界と感じ入る。広く浅くから狭く深く--深度を高めてゆくことがインターネットの世界とすれば、むしろオタク文化こそ本物の時代のキーワードかもしれない」
田辺さんとは、「ジャック&ベティ」という中年仲間の会でよく顔を会わせているにもかかわらず、次々と繰り出される話題と新発見の多さに驚いたり感心しているうちに、あっという間に3時間が過ぎてしまった。東京・築地のマンションにある仕事場「アスコット・ガーデン」に終始流れるBGMが、英国の田園風景を思い起こさせたのも、一つの理由かもしれない。
幼児教育の実践の場として自ら経営する幼稚園のHP「PRINCE KINDERGARDEN」を近く英文で発信する。
「孤独が最大の問題である老人にとってインターネットは福音だ」という田辺さんに、次は「老幼稚」(?)でも、発信していただきたいものだ。中高年者のための旅の情報ツールとしてインターネットの離陸は時間の問題か---。
(構成:高梨 洋一郎)