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9つのユネスコ世界遺産を有するオーストリア。近年は東欧諸国へのゲートウェイとして周遊旅行に組み込まれることが多いが、オーストリアは国内だけでも周遊旅行が十分に楽しめる国であるということを忘れてはならない。そこで、ここからはウィーンを起点にして楽める世界遺産の旅を紹介しよう。
◆ オーストリア・バロックの至宝、メルク修道院
ニーダーエスターライヒ州の西部、メルクからクレムスまでの約30キロに渡る一帯はヴァッハウ渓谷と呼ばれ、ドナウ・クルーズの中でも特に風光明媚な場所として知られている。そのヴァッハウ渓谷の町メルクに、オーストリア・バロックの至宝と呼ばれる建造物がある。
それが小高い丘の上にそびえるメルク修道院だ。その壮大な姿から“横にのびた摩天楼”、あるいは“信仰の要塞”などと呼ばれている。
 町の名前になっているこのメルクとは、スラブ語で「ゆるやかな川」を意味している。
ドナウ川分流の静かな川の畔にあるこのベネディクト派の修道院の起源は、はるか石器時代にまで遡る。その後、ローマ人が現在の修道院と旧ドナウ街付近に港を伴う砦を建設し、この修道院の基礎となった。
修道院としての歴史が始まったのは、バーベンベルク家のレオポルト1世が城を兼ねたベネディクト派の修道院を建立した10世紀のことだ。
メルクは当時、バーンベルク家の埋葬場であったが、1014年にレオポルト1世の後を継いだハインリッヒ1世が、ウィーン近くで殉教したアイルランド王の息子で、この国最初の聖人コロマンの遺体をメルクへと運ばせ修道院教会に祀った。以来、この修道院は聖コロマンの墓所にもなっている。
1040年頃には、メルクにキリストが磔にされた聖十字架の破片を含む十字架がもたらされ、これによりバーンベルク王朝の主軸となる要塞となった。
 この十字架は「メルクの十字架」と呼ばれ、特別な場合にのみ一般に公開されている。
17世紀には教会、回廊と一部の部屋を除いて修道院は初期バロック様式に改築された。
さらに18世紀になってディートマイヤによる大改築が行われ、オーストリア・バロックの至宝と言われる現在のような華麗な姿にへと生まれ変わった。
1770年にマリー・アントワネットが輿入れする際には、ここに立ち寄り1泊したという記録が残されている。
このメルク修道院の一部は現在、博物館として一般に公開されているが、冬はガイドツアーでのみ見学が可能となっている。
（写真右上：修道院の横を流れるドナウの分流／写真左下：メルク修道院の門）
◆ メルクから中世の面影が残る町クレムスへ
ドナウ川クルーズの中で、最も風光明媚な場所として知られているヴァッハウ渓谷。この流域では、城や宮殿が次々に目に飛び込んでくる。
夏にはメルクからクレムスまでは観光船が運航されているが、冬は鉄道で移動して中世の面影が残るクレムス散策も楽しむこともできる。そこで、ここで少しクレムスについてお話しておこう。
クレムス・アン・デア・ドナウは、ウィーンの西70キロの場所にあるニーダーエスターライヒ州で5番目に大きい町である。ドナウ川とクレムス川の合流点に位置し、行政的には郡に属さない憲章都市となっている。
 この町が文献に登場するのは995年のことだが、それよりもずっと遙か昔にオーストリア最古の子供の墓などが発見されていることから、その当時すでにここに部落が存在していたことになる。また、11世紀から12世紀にかけては、ウィーンとほぼ同じ規模であったという。
クレムスはワインの町として、またオーストリア後期のバロック画家マーティン・ヨハン・シュミッドを輩出した町としても知られている。
クレムスには、ゴッツォの都市宮殿や15世紀に造られたシュタイナー門など、大小取り混ぜ47の史跡があり、その中にはスウェーデン人の足跡も残されている。また、遊覧船乗り場のあるシュタインには、バロック画家シュミッドの住居を含む45の史跡が残されている。
メルクからクレムスまではバスと鉄道を乗り継ぎ約1時間、鉄道のみを利用する場合はザンクト・ペルテンでの乗り換えも含め1時間15〜30分かかる。
冬は日没が早いため、メルク修道院とクレムスをセットにして訪れるのであれば、あらかじめ時刻表のチェックをお勧めする。
また、ウィーンのフランツ・ヨーゼフ駅からクレムスまでは鉄道で約1時間なので、日程に余裕があれば日を改めてクレムスを訪れてみるのも良いだろう。
（写真：クレムスにあるシュタイナー門）
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