◆ 世界初の山岳鉄道、ゼメリング
世界遺産に登録されているゼメリング鉄道は、グログニッツとミュルツツーシュラークの約40キロを結ぶ世界初の山岳鉄道だ。
この鉄道が完成したのは1854年のこと。重機やダイナマイトもなかった時代に、わずか6年という異例の早さで完成した。現在もアルプス越えの重要な路線となっている。
鉄道の開通から世紀末にかけてリゾートして発展したゼメリングの町には、パンハンスやジュードバーンといった伝統的なホテルが次々と建てられ、貴族や上流階級の市民が集うサロンとなった。
現在も“ウィーンっ子の軽井沢”として親しまれ、夏にはハイキング、音楽や演劇サマーフェスティバルで、また冬には訪れる多くのウインタースポーツ・ファンで賑わいっている。また、小説家アルトゥール・シュニッツラーの『闇への逃走』の舞台としても有名だ。
さて、ゼメリング鉄道には周囲の景観に配慮して造られた16のトンネルと16の高架橋がある。これらの高架橋の一部は二層構造になっていて、この路線の大きな見どころとなっている。こうした高架橋が見られるポイントはいくつかあり、その景観が楽しめるハイキングコースも整備されている。
そこで、今回はその中の一つ、三方に高架橋が眺められるポイントをご紹介しよう。
ゼメリング駅からそのポイントまでは数センチの積雪であればスニーカーでも歩くことができるが、できればハイキングシューズなどを用意しておくのが望ましい。また、積雪の状態や天候によっては無理をせずに、あくまでも自己の判断と責任において楽しんで頂きたい。
まず駅舎をでたら緩やかな坂を上って右(ウィーン方面)へと進み、隣のヴォルフスベルクコーゲル駅を目指す。
距離は約1.5キロ。線路沿い少しあるくと左側に小さな公園がある。その先で突き当たったら高架下をくぐり、道標に従って道なりに進んでゆく。
この道を下ってゆく途中に、足場の悪い場所があるので足元にはくれぐれも注意したい。また、途中には高架橋が間近に見られる場所も通過する。
ヴォルフスベルクコーゲル駅に出たら、そのまま線路に沿って緩やかな坂道を上り「ドッペルライターヴァルテ」を目指す。
駅から少し歩いたところで道は二手に分かれているので、旧20シリング札の写真が貼ってある道標を目印に右に折れる細い道へと進む。
その小道の先は左右に分かれているが、そこで右側へと進む。この道の入口には、ゲートが張られているが進入は可能。但し、ここからの道は自己責任において行動したい。
この道の左側には廃墟と見られる大きなホテルらしき建物がある。その先で再び道が二本に分かれるが、左へは下らずにそのまま真っ直ぐ前へと進む。するとその先に木組みで造られた見晴台がある。
(写真右上:ゼメリング駅舎/写真左上:ハイキングコースの途中にある高架橋/写真右下:見晴台)
(写真:左からインフォメーション/道標/ドッペルライターヴァルテのポイントへはこの案内に従って進む)
この見晴台からは、ヴァインツェテルヴァントの岩壁に貼りつくように造られた三つのトンネルが三方に広がり、弧を描くように走り抜けるゼメリング鉄道が見られる。これらトンネルは、岩石の崩落から守られるよう、互いに柱廊で結ばれているという。
旧20シリング札に描かれた景色は、ここから少し離れた場所に別のポイントからのものであるが、この見晴台からも見ることはできる。
道はこの先にも続いているが、積雪時の山道は非常に危険なので散策はここまでで止めておきたい。
ゼメリング駅からこの見晴台までは1時間ほどだが、余裕をもって1時間半〜2時間程度を見込んでおくと良いだろう。また、冬場は昼過ぎには駅、もしくは町中に戻れるように日程を組み、不測の事態にも備えて複数で行動するなどの心がけも忘れないようにしたい。
パイヤーバッハ・レイシェナウから各駅停車を利用する場合は、一つ手前のヴォルフスベルクコーゲル駅で下車し、この見晴台までの散策を楽しむこともできる。なお、ゼメリングの駅舎には、ハイキングコースの案内や資料なども展示されている。
(写真:旧20シリング札にも描かれた風景)
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