鉄道で巡るドナウ世界遺産の旅



ウィーンを起点に楽しむ世界遺産
〜 グラーツ旧市街 1 〜


写真:シュロスベルクから眺むグラーツ市街地
 


 ◆ オーストリアの奥座敷、グラーツ

 ウィーンからゼメリングを越えさらに南下すると、シュタイヤマルクの州都グラーツに到着する。
人口は約24万人、ウィーンに次ぐオーストリア第二の都市だ。オーストリアの奥座敷とも言えるこの町には、ハプスブルク帝国時代の面影が色濃く残されている。
グラーツの旧市街と郊外のエッゲンベルク城が、ユネスコの世界遺産に登録されたのは1999年のこと。2003年には欧州文化首都にも選ばれた。

 町の歴史は、古代ローマ帝国時代に砦が築かれたことに遡り、グラーツという名前はスラブ語で「砦」を意味する「グラデツ」に由来している。
13世紀には都市特権を取得。中世後期からハプスブルクの支配下におかれ、フェルディナント2世など皇帝がグラーツで誕生した。また、ゴシック、ルネサンス、バロックといった中世建築から現代建築に至るまで、実に様々な建築物が混在することから、「建築の宝石箱」とも呼ばれている。

 グラーツは、天文学者のケプラーが数学教師をしていたことでも知られている。州庁舎の近くにはケプラーが住んでいた家が残されていて、現在は「ケプラーケラー」という名のワインレストランとして営業している。
また、かつてシューベルトも住んでいたこの町には、偉大な指揮者であるカール・ベームの生家と墓地もある。身近なところでは、米カリフォルニア州知事であるアーノルド・シュワルツェネッガー氏の故郷としても有名だ。

 オーストリア第二の都市のグラーツだが、この町の見どころは実にコンパクトにまとまっている。
日程に余裕があれば1泊したいところだが、旧市街の散策だけであれば半日もあれば楽しめる。なので、少し早起きして朝7時頃にウィーン発の列車に乗り、9時半頃グラーツ入りすれば日帰り旅行も十分可能となる。また、周遊する場合はリンツからウィーンへ直接移動するのではなく、グラーツを経由してからウィーンへ移動するというルートやその逆のルートもありだ。

 リンツやウィーンからグラーツへの列車の旅は、鉄道マニアにはたまらないルートでもある。
ウィーンからは保存鉄道となっているゼメリング鉄道を通過するというのはもちろんのこと、山間部を通過するため高速列車が運行できないこの区間には、旧型の車両がよく使われている。
ガタンゴトンというやさしい列車の走行音、コンパーメントをシェアした人との会話など、古き良き欧州鉄道を思い起こさせる情緒豊かな列車の旅が満喫できる。
(写真右上:ケプラーが住んでいた家「ケプラーケラー」/写真左下:大勢の人で賑わう中央広場付近)
 


 ◆ サンタクロースが悪魔を連れてやってくる!?

 ギリシア南部の港町、パトラスの裕福な家庭に生まれ育った聖ニコラウス(271〜342)は、リュキュア地方のミュラ(現在のトルコのイズミール)の司教となった聖人で、後にサンタクロースのモデルとなった人物とも言われている。
6世紀に聖人に列せられ、命日である12月6日が聖ニコラウスの祝日となった。この「聖ニコラウス祭」には、聖ニコラウスが良い子にプレゼントを持ってきてくれる日として、ヨーロッパ各地で親しまれている。

 12月5日の晩、この聖ニコラウスが悪魔と一緒にグラーツの町にもやって来た。「クランプス」と呼ばれるこの悪魔たちは、棒や箒を手にした西洋版のナマハゲのようなもの。全身が毛むくじゃらで、腰には大きな鐘をぶら下げている。そして、聖ニコラウス祭の前夜に町に出没しては、夜遅くまで遊び歩いている悪い子供や大人に襲いかかり、プレゼントがもらえるような良い子になれるよう諫める。

 このクランプス、その風貌から不気味な感じがするが、実は心優しい聖ニコラウスの従者。それを知ってか、町中で出会っても怖がる子供も少ない。むしろ、近寄って一緒に記念撮影なんていうシーンも良く見受けられる。

 また、クリスマスマーケットでも悪魔をモチーフにしたグッズがたくさん売られている。この聖ニコラウス祭の日には、聖ニコラウスとクランプスを模ったパンを食べる習慣があるが、悪魔に捕まる前に食べてしまえと言わんばかりなのか、見ていると悪魔の方が売れ行きが良さそうだ。

 この聖ニコラウスとクランプスは、グラーツではクリスマスマーケットが開かれている中央広場とフランツィスカーナ地区に出没している。時折、疲れて座り込んでしまっている悪魔もいるが、声をかけると手を振りかえしてくれる。その辺りからしても、やはり優しいサンタクロースの付添人のようだ。 (写真左上:悪魔を従えやって来た聖ニコラウス)
 

(写真:左から“悪魔”のクリスマスグッズ/中央広場のクリスマスマーケット/悪魔と記念撮影する人)
 


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