鉄道で巡るドナウ世界遺産の旅



「オルフェウスの窓」の舞台、トゥルン・ウント・タクシス城


写真:トゥルン・ウント・タクシス城
 

◆ トゥルン・ウント・タクシス城

 レーゲンスブルクの町を歩いていると時折、コミック本を片手に町を歩く日本人女性の姿を目にする。
彼女たちが手にしているのは、池田理代子さん作の漫画「オルフェウスの窓」だ。
一昔前のうら若き乙女達にとって“バイブル”とも言えるこの作品。ストーリーに夢中になったという女性も少なくないだろう。その「オルフェウスの窓」の舞台となった城が、レーゲンスブルクにあることをご存じだろうか。

 中央駅と公園を挟んだ場所にあるパルクホテル・マキシミリアンの前は、並木道になっている。それに沿って歩いて行くと広大な森へでる。
その森の中にひっそりと佇んでいるのが、「オルフェウスの窓」の舞台になったトゥルン・ウント・タクシス城だ。

 この城を建てたのは、郵便事業で財をなした侯爵家。1748年から1806年まで永続的帝国議会の皇帝代理となったことから、それまで拠点としていたフランクフルトから移住してレーゲンスブルクに城を築いた。その昔、ベネデクト会の修道院であったザンクト・エメラムを所有していたことから、ザンクト・エメラム城とも呼ばれている。

 この城には華麗な装飾が施されたサロンや居間、社交室など500にもおよぶバロック、ロココ、古典様式の部屋があり、あのロンドンのバッキンガム宮殿より広いと言われている。城の内部は、1998年よりガイドツアーでのみ一般に公開されている。

 城を所有するトゥルン・ウント・タクシス家は、オーストリア帝国のハプスブルグ家ともゆかりがある。
姉の見合いに付き添いとして同行したバイエルンの公女エリザベートが、皇帝フランツ・ヨーゼフに見初められてハプスブルク家に嫁いだという話は有名だが、そのお見合いの当人であった皇妃の姉ヘレーネが嫁いだのが、この城を所有するトゥルン・ウント・タクシス家のマクシミリアン・アントン侯爵だった。そのためエリザベート皇妃は、姉ヘレーネに会うためレーゲンスブルクを訪ねている。

 現在の城主は、8代目となる侯爵アルベルト2世。だが、侯爵が若年であることから、城の全般的な管理は母であるグロリア侯爵夫人が行っている。
実はこのグロリア侯爵夫人は、年の離れた侯爵の元に嫁ぎ、若くして未亡人となってしまった。その波瀾万丈な半生を過ごしてきた公爵夫人への市民の関心は深く、いつも地元紙やメディアを賑わせているのだという。

 エリザベート皇妃の姉であるヘレーネは、4人の子供を儲けるものの夫に先立たれ、その後は苦労しながらも女一人で立派に家の切り盛りをしたというが、グロリア侯爵夫人の半生はそのヘレーネの人生とどこか重なって見える。

 気さくな公爵夫人は敷地の一部を市民に提供し、城内ではコンサートやガーデンショー、そして冬にはクリスマス・マーケットなどのイベントが行われている。また、グロリア侯爵夫人は前回紹介したドイツ最古の帽子店「フート・ケーニッヒ」の大切なお得意様であることも書き添えておこう。 (写真左上:漫画の舞台となった「オルフェウスの窓」/写真右下:トゥルン・ウント・タクシス城の庭園で開催されるクリスマスマーケット)
 

◆ ザンクト・エメラム教会

 トゥルン・ウント・タクシス城には、ザンクト・エメラム修道院が付属している。かつてヨーロッパ修道院の学問と文化の中心となっていた修道院だ。だが、教会財産の国有化により1810年に修道院は閉鎖されてしまう。

 神聖ローマ帝国が終焉を迎えたことで郵便事業を失ったカール・アレキサンダー・フォン・トゥルン・ウント・タクシスは、当時バイエルン王であったマクシミリアンからその賠償としてその修道院の所有権が与えられた。その後、城は大規模な拡張工事と改築が行われ、修道院は城の一部となり現在に至っている。城のガイドツアーには霊廟のある地下チャペルや、質素な修道僧たちの生活が垣間見えてくるネオゴシック様式の回廊までが含まれている。

 聖人ザンクト・エメラムの墓の上に建てられたこの修道院には、付属教会であるザンクト・エメラムがある。
教会の歴史は8世紀にまで遡る。当初はバジリカ様式で教会が造られたが、11世紀にロマネスク様式に拡張された。地下チャペルが造られたのも、ちょうどこの頃とされている。
また、入口にあるキリスト、ザンクト・エメラム、デイオニュソスの彫刻も11世紀のもので、ドイツ最古の彫刻と言われている。
その後、教会は幾度となく火災に見舞われるが、18世紀にアザム兄弟によってバロック様式に改築され、目にも鮮やかな教会へと姿を変えた。

 回廊で城内ガイドツアーが終了すると、見学者はザンクト・エメラム教会へと案内される。
教会内に一歩足を踏み込むと、その煌びやかさに驚くことだろう。ツアー参加者であれば見学は自由にできるようになっているので、時間に余裕のある人は時間をかけてゆっくりと見てみたい。

 教会というとどうしても祭壇や左右の装飾に目が行ってしまうが、ここでは左後方の2階側廊にも目を向けてみて欲しい。
窓際に誰かいる事に気付かれることだろう。彼はザンクト・エメラム修道院にいた修道士。
教会の改装が行われた際、彼はお務めを抜け出してはこの場所から工事の様子をよく覗いていたのだと言う。そして、その罰として彼は永遠にこの場所に立たたされる事になったそうだ。

 この町で長年ガイドの仕事に携わっている中村さんは、レーゲンスブルク観光局に所属する気さくで経験豊富な日本人ガイドさんだ。中村さんは立たされているこの修道士の名前をご存じなので、レーゲンスブルクで中村さんにお会いする機会があれば気軽に尋ねてみてはいかがだろうか。 (写真右上:城とつながるザンクト・エメラム教会/写真左上:豪華な装飾が施された教会内部/写真右下:罰として永遠に立たされている窓際の修道士)
 

◆ 富豪商人の家、パトリツィア・ハウス

 レーゲンスブルクには、トゥルン・ウント・タクシス城の他にも富豪商人やイタリア商人の館が残されている。こうした富豪商人はかつてパトリツィア(中世都市貴族)組織族と呼ばれ、町にはイタリアに習い塔のあるパトリツィア・ブルク(ハウス)と言われる屋敷が多く建てられた。
こうした建物はアルプスを境にしてイタリアとレーゲンスブルクだけに見られることから、レーゲンスブルクは“最北のイタリア”と呼ばれている。

 中でも代表的なのが、ヴァーレン通りにあるパトリツィア・ブルクだ。50メートルの高さを持つこの建物は“黄金の塔”と呼ばれ, 現存する塔の中で最も高い中世高層建築の傑作と言われている。
それでは、町にあるその他の代表的なパトリツィア・ハウスを紹介することにしよう。

 まずはドーム広場まで戻って、ドーム正門に面したハウス・ホイポートへ。
このハウス・ホイポートは、13世紀に建造されたゴシック様式の富豪商人の館で、開放式の階段や2階にある大広間からは、当時のレーゲンスブルクの商人の生活が垣間見ることができる。現在カフェとして営業しているので、富豪商人になった気分で食事やお茶を楽しんでみるのも良いだろう。階段下には、乙女に貞節を説く像が残されている。

 また、ドナウ川に平行したケプラー通りには、レーゲンスブルク一の富豪商人であったルーティンガーの邸宅がある。このゴシック様式の建物は12世紀に建てられもので、1400年には祝祭用のホールが造られた。

 次はゴリアテ通りへ足を進めてみよう。ここにあるのが有名なトンゴルファー家ゴリアテハウスだ。壁面に大きな絵が描かれているので一目でわかる。
16世紀に描かれたこの壁画は、旧約聖書のサムエル記にある巨人ゴリアテとダビデの戦いがモチーフになっている。
ゴリアテ通りの左側にあるのが、1260年に建てられたバーンブルガー・トルム。高さは28メートルで、1階にはボールト様式の立派な天井が残されている。

 より多くの資材を使用するバルコニー付きの建物は、その富の象徴として富豪商人たちによって挙って建てられた。町の通りには、こうしたバルコニー付きの建物が所どころに残されているので、町歩きの途中で見つけたら足を止めて見てみよう。
(写真左上:ヴァーレン通りの黄金の塔/写真右下:トンゴルファー家ゴリアテハウス)
 


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Useful Links

レイルヨーロッパ
www.raileurope.jp
 
ドイツ国鉄
www.bahn.de
 
ドイツ観光局
www.visit-germany.jp
 
バイエルン州観光局
www.bavaria.by
 
レーゲンスブルク観光局
www.regensburg.de
/tourismus

 
トゥルン・ウント
・タクシス城
Thurn und Taxis
in Schloss St. Emmeram
www.thurnundtaxis.de
 
ザンクト・エメラム教会
Basilika St. Emmeram
www.bistum-regensburg.de
 
ハウス・ホイポート
Haus Heuport
www.heuport.de
 

 
Access

鉄道:ミュンヘン中央駅からREもしくはALXで約1時間30分、ニュルンベルクからはREを利用して約1時間で到着する。ICE/IC/EC/IRにも接続。
 

 
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ドイツ国鉄が無料しているアプリ。時刻表チェックに大変便利だ。iPhone/iPod touch/iPadに対応。独語と英語版がある。

 
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