ロバート・バーンズはエジンバラ時代、一人の女性と恋に落ちた。彼女の名はクラリンダ。
バーンズが唯一肉体関係をもたず、詩などを交換しあうプラトニックな関係を守った女性だ。それは、クラリンダがグラス・ウィドー(配偶者と別居中)だったためだ。
メアリー王女がフランスでカトリックの教育を受けていたことから、スコットランドではカトリック的な司教制と、ジョン・ノックスを中心に行われた宗教改革により議会で採択され、信仰されるようになっていたプロテスタントの一派、長老派が混在していた。
一般的に離婚、再婚ともに認められているプロテスタントと聞くと、カトリックより戒律が厳しくないように想像しがちだが、高度な神学が特徴的なスコットランド長老教会は実に質素で禁欲的だったという。そのため、いくら別居中のとはいえクラリンダも離婚はもちろんのこと、バーンズと肉体関係を結ぶことはなかったという。
「スコッチ・ウイスキー・ヘリテージセンター」を出て坂を下って行くと、小さな広場の先に王冠を載せたようなゴシック様式の建物が見えてくる。これが「セント・ジャイルズ大聖堂」(写真左)。スコットランド長老派の教会だ。
実はこの「カテドラル(大聖堂)」という名称は、17世紀にチャールズ1世がイングランドで崇拝されていたローマン・カトリックをスコットランドに押し付けた時代に定着したもので、正式な名称は「ハイ・カーク・オブ・エディンバラ」という。直訳すると「エジンバラ高等教会」という意味になる。
イングランドではヘンリー8世の離婚問題をきっかけに宗教革命が起こり、ローマ法王を中心とするカトリックから断絶。そして、新たに「ローマ法王とは関わり合いのないカトリック」という独特の立場を取る、国王を頂点とした英国国教会が設立された。
そのためイングランドの英国国教会では、現在でも「大聖堂」という名称が使用されている。それがセント・ジャイルズにもあてがわれ、以来この名称が使用され定着した。
だが、スコットランドではカトリックに真っ向から反対するマルティン・ルッター、およびカルビンの教えを尊重する宗教である長老派が正式な国教となっているので、この教会は「スコットランド国教会」という名称でも呼ばれている。
このセント・ジャイルズ大聖堂が創建されたのは1120年のこと。1385年の火災でその大部分が焼失したが、その後急ピッチで再建された。(だが、その再建についての詳細を示す資料は残されていない。)
教会の内部(写真右上)に足を踏み込むと、一般的な教会と少し異なった印象を持つ。
そう、祭壇が建物の中心部にあり、その祭壇を丸く囲むように椅子がセッティングされているのだ。現在、教会の内部は改修工事が進められており、所々に足場が組まれていた。スコットランド国教会としての本来の姿を取り戻すべく、この工事が進められているのだという。
教会の右手奥には、20世紀に増築されたネオゴシック様式のシスル礼拝堂がある。美しいステンドグラスや、壮麗なパイプオルガンなどと共に堪能してほしい。なお、教会内の撮影は可能だが有料。建物内のショップで料金を支払うと撮影許可のシールがもらえる。