バンノックバーンの古戦場にあるスコットランド王、ロバート・ザ・ブルース騎馬像

 
スコットランドが世界に誇るもの、その一つに豊かな自然が挙げられる。そして、その代表的な場所といえば、スコットランド北部に広がる山岳地方のハイランドやスカイ島、そしてアイラ島といった島々だ。


こうした場所へはエジンバラから複数のツアーが催行されているが、中でもエキサイティングな体験を提供してくれるのがワイルド・グリーン・トラベル社。そこで、同社が年間を通じて催行している人気のツアー「ハイランド&スカイ島 3日間」を紹介しよう!



スコットランド民族の聖地「スターリン」を訪れる

 ツアーは、ロイヤルマイルにあるワイルド・グリーン・トラベル前からスタートする。出発は朝8時30分。参加者はその15分前までに同社のオフィスに集まり、受付を済ます。
参加者が揃った。全員の荷物を車に積み込み、いざハイランドに向けて出発する。オフシーズンにもかかわらず世界各国から多くの若者が集まり、用意されたワゴンは満席になるほどの盛況ぶりだ。

 この日のツアーのドライバー兼ガイドを務めてくれたのは、ダンディー出身のブルース。細身で、見上げるほど背が高かった。精悍な面持ちをした壮年で、かぶっていたスコットランド国旗があしらわれたニット帽からは、その愛国心の強さが感じられた。
車は最初の目的地を目指し、ひたすら北上。出発直後のせいかまだ硬さの残る車内で、ブルースはその場を空気を盛り上げようと積極的に声を出してくれていた。

 エジンバラを出発してから50分程で、ようやく最初の目的地に到着した。
1314年にスコットランド軍が、イングランド軍に勝利を挙げたスターリンにある「バンノックバーンの戦い」の古戦場だ。スコットランドの人々が最も誇りにしているのが、そのスコットランド軍を率いた王「ロバート・ザ・ブルース」と、この戦いでの勝利なのだという。 確かにブルースも目も輝やながらせ、熱く、そして誇らしげにこの合戦の模様を語っていたのが印象的だった。
古戦場を見下ろす高台にはその勝利を称え、スコットランド王ロバート・ザ・ブルースの騎馬像が立っている。



愛嬌たっぷりの「ハイランド牛」

 スターリングの北西、美しいトロサックスへの玄関口として知られるカランダーでランチ休憩をとった後、「トロサック・ウーレン・ミルズ」へ。

 ここに立ち寄ったら是非会いに行ってもらいたのが、カランダーの人気者ハーミッシュ君(写真左)。モップで被ったように毛むくじゃらだが羊ではない。ハイランド種という、れっきとした牛だ。

 この長い毛と横に大きく張った角が特徴的なハイランド牛は、ハイランド地方や西海岸の島々で繁殖されてきたスコットランドの特産の牛で、多雨で寒さの厳しい風土に適応できるよう、他の牛のような皮下脂肪ではなく厚い皮と長い毛で覆われている。そのため「毛むくじゃらの牛(Hairy Coo)」と呼ばれることもある。

 食料が乏しい山岳地帯で暮らすハイランド牛は牧草以外にも植物などを餌にしているが、ハーミッシュは健康維持のため野菜と一部の果物しか食べない。それ以外の物をあげると病気になってしまうそうだ。
ハーミッシュに差し入れがしたい、という人は売店で購入した餌をあげて欲しい。但し、餌をあげる際には、“角”とデロデロの“よだれ”にご注意を!


スコットランドが世界に誇る大自然「ハイランド地方」

 カランダーを後にし、その昔悲劇の舞台となったグレンコー渓谷を目指す。その途中で立ち寄ったのがキリンという村だ。

 この村には、テイ湖から流れ出るドハ−ルトの滝がある。滝の落差はさほどでもないが、その水量の多さに驚かされた。ブルースの後に続いて岩場へと下りてみる。近くで見る滝は迫力満点。澄んだ滝の水は、氷のように冷たかった。

 このキリンには「ザ・ウィー(The Wee)」というベイクショップがある。店にしては何ともお粗末な外観をしているが、ここはスコットランド名物「ハギス」のパイで人気のお店だ。場所は滝の先にある駐車場の近く。運良く開いていたら、試してみてはいかがだろうか。

 さて、キリンを出てしばらくすると、雪を頂いた山々が見えてきた。ハイランドだ。
このエリアには、スコットランド最高峰であるベンネビス山(標高1343メートル)がある。
ハイランドはウォーキングのメッカだが、本格的な登山や冬にはスキー・リゾートとしても人気がある。
アルプスなどの山々に比べると標高も低く、見た目も比較的なだらかなことから危険なイメージはさほど湧かないが、実は登山による死亡事故も発生しているというから油断は大敵だ。また、この付近は麓でも強い風が吹くので、車から降りる際には飛ばされないように用心したい。

 車はハイランドの拠点の町、フォートウィリアムの北東にあるスピーン・ブリッジに停車。ここは第二次世界大戦の時に特殊部隊(コマンドー)の訓練が行われた場所で、その記念碑が立てられている。
ここからは美しいベンネビス山を眺めることもできる。夕日に照らされたベンネビス山は格別だ。
 

キリン村にある
ドハ−ルトの滝
スコットランド最高峰
ベンネビス山
ストロームフェリーの家
ここに2日宿泊する


今夜のメニューは何?

 このツアーが他社のツアーと大きく異なるのは、滞在先での過ごし方にある。
その一つが夕食だ。参加者は買い物、調理、後片付けを担当する3つのグループに別れ、夕食と翌日の朝食の買い物から食後の後片付けまでを自分達で行う。もちろん、誰が何を担当するか、夕食のメニューは何にするかなどについても、すべて自分達で話し合って決める。

 フォートウィリアムスのスーパーに到着し、そこでブルースから買い物などについての説明があった。予算は2日間で130ポンド、これで16名分の食事をまかなう。
まずは夕食の献立だ。国籍も文化も異なる参加者たちが合意できるメニューを考えなければならない。
とは言うものの、この日のツアーの参加者はロンドン、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、イングランド在住のポーランド人など英国文化の流れを汲む人ばかりで、いわばアウェーは私だけ。自身は食べ物の好き嫌いもなかったため、何の支障もなかった。

 結局、この日のメニューはタコスに決定。ロンドンのレストランで働いた経験のある、ポーランド人のモニカを中心に準備することになった。予算は65ポンド。皆でスーパーへ行き、必要な食材とビールなどのドリンク類をショッピングカートにポンポンと入れてゆく。
レジで金額を見てギョッとした。なんと22ポンドオーバーの87ポンド。翌日の食事がとても質素になりそうだと心配していたのは、恐らく日本人の私だけだっただろう。
 


笑顔が溢れるストロームフェリーの夜

 夕方、宿のあるストロームフェリーに到着した。宿といっても泊まるのは一般的なホテルやゲストハウスではなく、カロン湾に面した家。もちろん、フロントでチェックインなんてしない。家族や友人と週末を過ごしに別荘へやってきた感覚だ。

 案内された部屋に荷物を置き、早々にリビングへと下りる。
まずは夕食の準備に取りかかる。私は調理のアシスタントにまわる事にし、自然とキッチンに集まってきた他のメンバーと一緒にモニカの指示に従って調理を開始した。(写真右:調理風景)

 タコスの具には、スパイシーチキンときのこのソテーを用意。それを台に並べ、各々の好みに応じて食べられるようにした。
順番に皿にとりテーブルへ。皆で囲むダイニングテーブルは笑顔と笑い声が溢れていて、国籍や言葉、文化の違いによる違和感や孤独感といったものは一切感じられなかった。

 調理を担当しなかったメンバーによる後片付けが終わる頃、別荘の管理をしているゴードンが暖炉の前のテーブルに何やら並べ始めた。それに気づいたメンバーが、一体何事かと集まってくる。
並べられたのは、剣、斧、槍や盾といった中世以前の戦争に使われた武器や防具の数々だった。
ゴードンは、これらの品々が実際戦争でどの様に使われていたのかを一つ一つ丁寧に説明してくれた。

 暖炉脇には防具が一式飾られていた。ゴードンの了承を得て、その防具を試着させてもらうことに。すると名乗りをあげたのが、オーストラリアから一人でツアーに参加していたフィオナだった。

 まずは襦袢を着て、髪が絡まないように頭巾を被る。その上から胴体部分を保護する鎖帷子(チェーン・メイル)、そして頭に鎖頭巾(メイルコイフ)の順で身にまとう。日本の鎧兜より少しは軽そうな気もするが、これが結構重い。着せるのに二人掛かりだ。
胴衣を纏ったら、盾と剣を手に持つ。ようやく「フィオナ戦士」が完成した。
これには皆大喜び。特に女性陣のはしゃぎようったら無かった。リビングはいつしか女戦士たちによる賑やかな「戦場」と化していた。
 

皆で作ったタコスを
お好みの具材でラップ
皆に防具について説明する
管理人のゴードン
「女戦士 フィオナ」の誕生
 

 

 女性陣による戦闘も静まりリビングに数人だけが残った頃、ダイニング・テーブルのカバーが外れ、下からビリヤードテーブルが登場した。

「ビリヤードか〜、久しぶりだな〜」

などとのん気に構えていたら、ゴードンが私にキューを差し出す。
どうやら知らないうちに、私もチームに入れられていたらしい。

少々腰が引けたが、皆に追い立てられるままキューを手にとり球を狙う。
十数年ぶりに握るキューの感触。持つ手が少し震えた。

1球、2球・・・。確実に的球を沈める。

しまった!と思った時には、時すでに遅し。
もう誰も「ビリヤードは苦手」なんて私の言葉を信じてはくれなくなってしまった。

結局、誘われるがままにプレーを続け、ストロームフェリーでの夜が更けていった。

(つづく)


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