キュウリン山地登山の起点になっている「スリガハン」

 

ワイルド・スコットランドへようこそ!

 ツアー2日目。朝シャワーを浴びて身支度を整え、少し早めにリビングへ降りる。
朝食は自由。キッチンに置いてあるものはすべて自由に使え、また何を食べても構わない。
大きな袋の中からパンを1枚取り出し、トースターに放り込む。その間に熱々のミルクティーを入れる。
焼きあがったパンには、大好物のヌテラ(ヘーゼルナッツ風味のチョコレートスプレッド)をたっぷり塗って食べた。

 テーブルが混んできたので朝食を早々に済ませ、外へ出る。この地方は英国でも特に雨が多いと聞いていたが、この日は朝から快晴。何とも清々しい、雲一つない青空が広がっていた。
今日はまる一日かけてスカイ島を巡る。サンサンと輝く太陽に照らされたスカイ島との出会いに胸が膨らむ。

 朝9時、いよいよスカイ島に向けて出発だ。メンバーもすっかり打ち解け、車内は朝から大賑わい。まるで遠足や修学旅行といったノリだ。

 今日の最初の目的地は、スカイ島への橋を渡ってすぐのところにあるカイルアキン村だ。
駐車場に車を止め、10世紀にこの島へ嫁いできたノルウェー王女、メアリーが築いた「モイル城」(写真左)まで歩くことになった。

 城跡へは海沿いの道を歩いて行くのだが、道が整地されているのは途中まで。そこから先は歩道から下りて、薄やぶ道を歩いていく。 一見草で覆われ乾いたように見えるたこの道だが、実は湿地。足を置く時間が長いほど体の重さで草が沈み、すぐに海水が上がってきてしまう。

 朝、宿をでる前に私の靴をみて心配したブルースが長靴を貸してくれようとしたのだが、どれも大きく歩行もままならなかったため、この日のツアーには履いていたスニーカーのまま参加していた。

 しばらくの間は極力水が上がってこない道を探して歩いていたのだが、だんだん足の置き場に困るようになってきた。気づけばスニーカーに水が入り、靴の中はグショグショになっていた。おまけに指先は冷たい海水にされされジンジンする。

 靴はすでに濡れてしまっているのだから、気にしないでついて行けば良かったのかも知れないが、その後の行動も考えそこで離脱。先に城跡に到着したメンバー達に手を振って合図を送り、皆がその場所まで戻ってくるのを待つことにした。

 程なく皆が戻ってきた。冷えた足をモゾモゾさせながら、顔を歪ませている私。
そして、その何とも情けない私の姿を見て、ブルースが笑ってこう言う。

「Welcome to Wild Scotland!」
 

永遠の若さを与えてくれる神秘の川

 カイルアキン村を後にし、キュウリン山地登山の基点となっている「スリガハン」へと移動する。
ここには一本の古い橋が掛けられていて、その下をスリガハン川が流れている。
何の変哲もないような川だが、地元では“神秘の川”として知られている。
何でもこの川の水に顔を沈めた人は、“永遠の若さ”が得られるそうだ。

 まずはブルースが手本を示す。1秒、2秒、3秒・・・。
川の水はそうとう冷たいのだろう。水から上がったブルースの顔は真っ赤になっていた。
「皆もやってみたら?」ブルースに軽く背中を押され、数名が後に続く。

 如何ほどの効果があるのかは不明だが、興味があるなら試してみる価値はあるかも知れない。
でも、コンタクトレンズの紛失を恐れてやらなかった私は、数十年後にはシワクチャになってしまうのだろう・・・。
 

神秘のスリガハン川にかかる
オールド・ブリッジ
永遠の若さを与えてくれる
スリガハン川
スカイ島で一番にぎわう
ポートリーの町並み

 
神秘なる大自然に乾杯!

 スカイ島で一番賑わう町、ポートリーでランチ休憩を挿み、島の北部にあるトロタニッシュ半島へと移動大昔に火山地帯だったこの一帯には、現在でも巨岩や奇岩が多く見られる。美しい海岸線と巨岩の散在するこの半島で午後を過ごす。

 まずは壮大な風景が広がる「オールド・マン・オブ・ストー」(写真右下)へ立ち寄り、「キルトロック」へ。

ミンチ海峡に面したこの絶壁は、スコットランドの民族衣装であるキルトのような模様になっていることから、こう呼ばれるようになったのだという。

“クリフ”と言えばお隣の国、アイルランド西部に広がるモハーの断崖が有名だが、このキルトロックもなかなかの物だ。
モハーの断崖のような荒々しさはなく、むしろ優しい印象だ。なだらかな曲線を描いた壁と、その前に広がる真っ青な海が何とも美しい。

 キルトロックを出発する頃、少し太陽が傾き始めた。次の目的地「フェアリー・グレン」へと急ぐ。
 車を降りて、ショートウォークに出る。
最初はなだらかだった道が、徐々に険しくなってくる。勾配が微妙にきつくなってきて、運動不足の体に少し堪える。

 「一体、どこまで歩くんだろう・・・?」

 ふと、足を止めて先を見て思わずギョッとした。
そこにあったのは、巨岩へと続く細い道。
歩くには十分な幅だったが、左右とも急斜面になっていて、万が一バランスを崩したりしたら転げ落ちてしまう。
転げ落ちても生命の危険があるような高さではないが、やっぱり痛い思いをするのはイヤだ。躓かないように、一歩一歩慎重に足を運ぶ。

 ようやく岩場に到着したが、そこで最後の関門が待っていた。
皆がいるのは岩の上。そこへ上がるためには、岩の合間にできた穴からよじ登るのだが、なんとその穴に体がスッポリとはまってしまったのだ!
足を掛けるためにも少し後ろに下がりたいが、岩が邪魔して下がれない。かといってその状態で足を掛けるにしても、情けなくも足の長さが足りないといった具合だ。

「誰か助けて〜!!!」
 

キルトのような模様をしている
キルトロック
「妖精の谷」と呼ばれる
フェアリー・グレンの風景
フェアリー・グレン
に残る巨岩


と、心の中で叫ぶ声が届いたのか。穴の中で一人途方に暮れて固まっている、その様子に数名が気づいてくれた。

 皆親切にアドバイスをしてくれるのだが、まるで私のために特注されたようにサイズがぴったりで、どうにも身体が動かない。寒さ対策の厚着が災いしたようだ。
そこで、肩にかけていたポーチを先に外して預ってもらい、ちょっぴり“痩身”。その状態で引き上げてもらう。

 ようやく登頂に成功だ!
そこは足がすくむような高さだったが、もし月に緑があったらこんな感じなのか、と思わせるような風景が眼下に広がっていた。 「妖精の谷」と呼ばれるようになったのかは定かではないが、辺りには何ともミステリアスな雰囲気が漂っている。

 それにしても何という爽快感だろう。
心の奥底に眠っていた冒険心が目を覚ましたみたいだ。知らず知らずのうちに、自分がどんどんワイルドになって、自然に溶け込んでいくのが良く分かる。こんな感覚は本当に久しぶりだ。
いや、ひょっとしたらこれほどの開放感を感じるのは、初めての経験かも知れない。

 
 太陽が完全に沈む前に山を下りる。
夕食にはゴードンの好意で、ハギス用の肉が用意されていた。
付け合せに必要な食材とドリンク類を買うためスーパーへと立ち寄る。

今晩はハギスとスコッチで「神秘なるスコットランドの大自然に乾杯!」だ。
 
 

(つづく)


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