ワイマール市街の少しはずれ、イルム川ほとりに森が茂り、崩れ城跡や塔などが佇むイルム公園がある。
一見放置された森だか史跡のようにも見える公園には散策路があり、管理人小屋や狩場の休憩所も建つ。また、小高い丘から川の向こうには、ゲーテがワイマール到着後に住居兼仕事場としてたガーデンハウスが望める。一転のどかな田園風景という様相を呈し、「歩いてみたい」という気持ちにさせられる空間だ。
公園で目を引くのは、森を背後にしてたたずむ城壁や塔だ。
ところどころツタの絡まった煉瓦の壁は、騎士の城跡にも館の跡にも見え、よく見ると壁には思わせぶりな紋章が掲げられている。
建物跡上部には鐘が釣り下がっていたような形跡があり、ここは修道院か、はたまた教会か、だとすれば何世紀くらいの物なのか、もしかしたら由緒ある教会だったものが共産主義の時代に破壊されて、その時代の記憶を留めるために残したものなのだろうか・・・などと、とにかく想像を掻き立てさせられる。
実は、この史跡らしき城壁を含む公園を設計したのはゲーテなのだという。
「訪れる人が散歩を楽しみながら自由な創作に想いをめぐらせ、思索できるように」というのがそのテーマで、こうした城壁や森、小道の風景は、人々がインスピレーションを生み出すための手助けをするために公園の一部として敢えて造られた、名もない物ばかりなのだ。
「してやられた」という感じだが、この知的エスプリといおうか、公園のところどころにあるハッとさせられる遊び心がいかにも「創造/想像の町」ワイマールらしい。
公園や壁の風景は角度を変えてみたり、遠くから見たり、また近くによって見るとそれぞれ違うものに感じられる。「伝統にとどまらず、さらに進化させ新しいものを生み出すのがワイマール流」の、その柔軟な思考の一端がこの公園にはある。
ゲーテは、1782年にフラウエンプランの家に住居を移してからも園内のガーデンハウスで夏を過ごし、イルム川沿いを散策しては思索をめぐらせ、また詩作したという。
このイルム公園は、世界的詩人・ゲーテ先生からの贈り物。天気の良い日はことさら美しいこの公園を、ワイマール流に自然や町と会話をしながら散歩を楽しんでみてほしい。