ドイツを代表する画家、ルーカス・クラナッハ(父)は、1472年にチューリンゲン州のクローナハ村で生まれたと言われている。
彼は、チューリンゲン州をはじめ、隣のドレスデンでザクセン選帝侯の宮廷画家としても活躍した人物だ。宗教改革で有名なマルティン・ルターとは親友で、ルターの肖像画を何枚も残している。それらの肖像画を通して、知らず知らずのうちにクラナッハの絵を目にしている人も多いのではないだろうか。
クラナッハの終焉の地であるワイマールには、彼の作品やゆかりの地を見ることができる場所がいくつかある。
まずはエレファントホテルの並びにあるクラナッハ・ハウスだが、彼はここで晩年を過ごしその生涯を終えた。現在は小劇場となっていて、入口付近には小さいながらもクラナッハの生涯や、この建物の由来する品々が展示されている。
作品でぜひ見ておきたいのは、聖ペーターとパウル市教会(通称、ヘルダー教会)にあるクラナッハが息子とともに完成させた祭壇画だ。
これはキリストの磔刑図だが、脇腹を刺されたキリストの血がこれから宗教改革に挑もうとするルターの頭上に降りかかるという、当時の時代背景を考える上でも意味の深い作品だ。ルターの隣には、白いひげを蓄えたクラナッハの自画像も描かれている。
また、「レジデンツシュロス」と呼ばれるワイマール公の居城は現在美術館となっており、ここにもクラナッハの絵画が数点展示されている。
この美術館に所蔵されているクラナッハの有名な作品と言えば、「ザクセン選帝侯ヨハン・フリードリヒ婦人、シビレー・フォン・クレーベ姫の肖像」だ。
切れ長で射るような魅惑的な「目力」を持つクラナッハの女性像は、一度見入ると忘れることのできないインパクトを与えてくれる。
クラナッハはデューラーやホルバインと同時期の画家であるが、イタリアなどに修行には出ず、ひたすらドイツ国内で画力を磨いたと言う。風俗や描かれる背景はドイツ、チューリンゲンやザクセンの風景だ。「そういう意味では、クラナッハは生粋のドイツ画家と言える」と城の学芸員が語ってくれた。
城美術館には、クラナッハの絵画の他に中世のドイツの木彫も展示されている。色白で丸顔、切れ長の目にバラ色の頬をした独特な木彫は、そのままクラナッハの美しい女性像に通じる魅力を称えている。それはクラナッハの作品に受け継がれているドイツの伝統美、ドイツらしい造詣と言えるだろう。