ワイマールに行って驚くのは、その地が放つ磁力というか地力というか“オーラ”なのである。
冒頭からオカルトっぽいような、なにやら胡散臭い言い方になってしまったが、これ以外にあまり言葉が見つからない。
小さな町ながらも木や森や、石畳の歩道が、古い家々や館が、小川や丘、古い市場などすべてが、思わず手を触れたくなるようなぬくもりを持って何かを語りかけてくる。町全体が、またそこにあるそれぞれのものすべてが、あたかも呼吸をし、「ワイマール」という生きたもののような雰囲気をもって、来訪者を迎えてくれるのだ。
それは人を惹き付ける力、人の心に想像/創造力を喚起させるような不思議な空気で、一般的な観光はもとより、多かれ少なかれクリエイター系の職、あるいは趣味を持っている人なら絶対に一度は訪れるべき町だとさえ思えてくる。
過去にワイマールに住んだ、あるいは訪れた著名人は、文学や音楽、絵画などそのジャンルは幅広い。特に、世界各地から多くの著名人が集まったのは、ゲーテやシラー以降のことだ。
アンナ・アマリア公爵夫人の文化保護や、ゲーテやシラーの名を聞きつけ多くの人々が集まるようになったのだろうが、15世紀末から16世紀のルネサンスの時代にはクラナッハがここで生涯を終え、17世紀のバロックの時代には楽聖バッハがこの地に住み、数々の曲を創作した。
そう考えると、やはりこの地には昔から創作者の意欲を掻き立てるような空気があったのではないか、と改めて感じさせられる。
1〜2時間程度で一周してしまう程、ワイマールは小さな町ではあるが、町の壁のあちこちにこの地を訪れた著名人の名が刻まれている。
バッハの家の近くにはデンマークの童話作家であり詩人であるアンデルセンのプレートが掲げられ、アンナ・アマリア図書館近くにはバッハの像とともにロシアの国民詩人・プーシキンの像が建っているから驚く。
また、フランスやドイツで活躍したハンガリー出身のロマン派を代表する音楽家・リストの家もある。ここはリストが死ぬまで住んだ家で、夏期はリスト博物館として公開されている。その近くにはバウハウス大学があり、創始者ヴェルデや校長のグロピウスの名を見ることもできる。
大公家の墓所には、ゲーテやシラーの家族の墓もあるので詣でてみるのも良いだろう。そして、バウハウス博物館では、カンディンスキーやパウル・クレーといった20世紀にワイマールで創造力を磨きあげた画家たちの足跡を垣間見ることもできる。
「皆、ワイマールを訪れ、インスピレーションを得て作品を創り出した」
とはワイマール観光局長のブラウン氏の弁。
その言葉を思い出しながら、場面は再びイルム公園に戻る。
「想像し、創造せよ」
そう言わんばかりの、ゲーテが作り出したオブジェが並ぶ公園だ。
「自分らしさ」が求められる昨今、個人の体験、感覚、インスピレーションこそが「自分らしさ」を発見する手段と言えるだろう。ワイマールはそんな「個」を発見するきっかけをくれる町である。
行けば、きっと分る。
その時は素通りの観光ではなく、自らの足で散策を楽しみや過去の芸術家や文豪の面影に触れ、彼らのインスピレーションを感じながら歩いてみて欲しい。