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 私の友人で香港にしばしばやってくるが、お目当ては安物市とか流動小販、つまり露店や道路脇の屋台だけという人がいる。
 声高の広東語がとびかう、ごちゃごちゃした裏通りに入ると、目を輝かす。日本で人気の高級ブランド品を売る店などには全く興味を示さず、食事も、一流中国料理レストランより道端の屋台で、見知らぬ土地の人と一緒に粥などをすすっていた方が余程性に合っているらしい。
 とにかく好きなように歩かせると目、耳、鼻のセンサーをフルに稼動させて、屋台とか露店がありそうなところにどんどん入っていく。

 甲高い売り子の声、品物をつかみながら真剣に値切るエネルギッシュな顔、雑踏と騒音、頭の上の無秩序な原色の看板、口に茶碗をつけたまま長めの箸で何やらかき込む食欲旺盛な人々、陽気な笑い声、大型柄杓が鉄鍋をかき回す鋭い金属音・・それらが入り交じる、庶民の生活に密着した活気に接してはじめて「香港」を感じるという。

 屋台や露店は香港の人達にとっては生きるための手段であり、また、生活のシンボルでもある。その飾らない、生活エネルギーむきだしの雰囲気が香港の魅力ともなっているのは確かである。

 しかし、この屋台や露店は黒社会(やくざ)の資金源になっているものが多い。その資金源を断つためと、外観上ごちゃごちゃして好ましくないとの理由で、1997年の中国への返還までには一掃されるらしい。

 見た目をきれいにしてお返ししようということか?とりあえずは無許可の屋台や露店を取り締まるべく「小販管理隊」活躍している。しかし、思うようにはかどらないのが現実のようである。

 「小販管理隊」近づくと見張りの合図でアットいう間に手押し車のようになっている屋台に布をかけて逃げ回る。両サイドを広げた屋台も、素早く折り畳んで消えてなくなるから見事である。何処へ逃げたのかと目で探したら少し離れたところを布で覆った屋台を押しながら何食わぬ顔で歩いていたりする。しばらくすると何事もなかったかのように、何処からともなく現れる。合図があればまた逃げる。

 全くのいたちごっこだが、こんなところにも生活のためのしたたかな活気が感じられるのである。


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