ゲーテがシラーと出会った町、イエナ
知と緑のパラダイスへようこそ! カール・ツァイスとショットグラス発祥の地
だが、このパラディース(Paradies)という単語を辞書で調べてみると、古代・中世には教会などの建築の「玄関」という意味もあるので、ひょっとしたらその辺りも関係があるのだろうか。何にせよ「イエナの楽園」だなんて、なんだか心がくすぐられる駅名だ。
このイエナ・パラディース駅に到着した時の驚きは、何と言ってもその緑の多さ。まるで時が止まったような、不思議な空気に包まれている。文豪ゲーテはワイマールからこのイエナにやって来て、植物の研究に勤しんだというのがうなずける。
イエナのそうした豊かな自然にインスピレーションを受け、ゲーテが書き上げた 物語詩がある。それが、1815年にシューベルトが作曲した『魔王』の基となった。歴史や教科書に登場する偉大な人物が、色々な場所で、様々な形でリンクしているのが、このゲーテ街道の面白さでもある。
イエナ・フリードリッヒ・シラー大学(イエナ大学)哲学部の敷地内には、ゲーテの時代から佇む一本の樹木がある。この木の下でゲーテやシラー、そして錚々たるドイツの哲学者たちが語り合っている場面を想像しただけで興奮して、鳥肌がたってくる。
1846年、イエナに顕微鏡製造工房を創業したカール・ツァイスは、レンズ発展の歴史を語る上で欠かすことができない人物。後に会社はレンズや望遠鏡、プラネタリウムの投影機などを製造する光学機器製造会社として成長した。
そうしたカール・ツァイスの発展に貢献した人物が、物理学者であり数学者でもあるエルンスト・アッベである。アッベの「顕微鏡内光学結像理論」と「正弦条件」は、精密光学機器の基礎となっている。
カール・ツァイス社は戦後、ドイツの東西分断によって同社も2つに分かれることになったが、1990年のドイツ再統一をきっかけにこちらも再統一した。
もう一つ、イエナのテクノロジー産業で忘れてはならないのが、スタイリッシュで繊細な風合いで人気のクリスタルガラスメーカーの「ショット」。1884年、イエナにガラス技術研究所「ショット&ゲノッセン」を設立したオットー・ショットは、「近代ガラス技術の創始者」と呼ばれるガラスの科学と技術に革命を起こした人物である。同社のイエナのガラス工場は、1891/1919年にカール・ツァイス財団所有の企業となり、さらなる発展を遂げた。
カール・ツァイス、エルンスト・アッベ、そしてオットー・ショット、ドイツのハイテク産業発展に大きな足跡を残したこの3名の人物。
イエナには、5世紀にわたる光学機器の発展の歴史を紹介した「光学博物館」やその技術に触れられる「ツァイス・プラネタリウム」、ショットの波乱に富んだ生涯を紹介する「ショットグラス博物館」がある。
その一つ、ツァイス・プラネタリウムは、 レーザー・オールドーム投影システムを持つ1926年にオープンした世界最古のプラネタリウムだ。2006年10月にはレーザー全天周投影機が設置され、ドーム全体に天体ショーが投影できるようになった。ここでは天文学や一般的な教養プログラムから、ミュージカル、スペクタクルなマルチメディア・レーザーショーまで、大人から子供まで楽しめる。また、ゲーテ・ガレーリエにもプラネタリウムの投影機が展示され、ツァイスの歴史や技術が紹介されている。