永遠の魅力ーグルメ天国 中国の郷土料理
香港観光協会の日本局長として14年間在任した間に経験した楽しかった思い出は、仕事関係のこと、観光の穴場探しのこと、などを含めて枚挙にいとまがない。
ところが、その楽しかった思い出のなかで一番多いのはなんといっても「食べること」に関係したもので、いまだにそれら忘れ得ぬ味覚の数々が思い出される。
とはいっても、私はいわゆる美食家ではない。つまり、積極的に香港中の「旨いもの」をあさり回って、その美味しかった味を記憶に残していったのではないのである。ただ、香港に行ったら「旨いものを食べること」が全てに優先するため、色々な楽しい思い出の中で、どうしても「食」が占める割合が高くなってしまうということであろう。
香港の素晴らしい「食」の楽しみを代表するものは、もちろん中国料理である。しかし、そればかりではない。本場のシェフが腕を競う本格的なフランス料理、典型的なイギリス料理、味では中国料理にひけをとらないベトナム料理、お馴染みの韓国料理、真性インド料理、タイ料理などなど、それに、脂っこい食事から放れて、たまに食べる本物の日本食のなんと素晴らしいことか。香港は中国料理を始めとする世界の「食」の極致が楽しめるところである。まさに「グルメ天国」なのである。
こんな「グルメ天国」も1980年代に入るまでは一部の日本人観光客にとっては全く有名無実なものであった。観光客の1人1人が楽しみにしていた中国料理も、例の泥沼の安値競争の渦中で、一部の安売り団体旅行では品質はこれ以上下げられない最低限度にまで落とされ、しばしば次のような苦情すら耳にした程である。
「わざわざ香港まで行くことはない。札幌ラーメンの方がまだましだ!」
「札幌ラーメン」中国料理の範疇に入るものとしての話であろうが、無限ともいえる多彩なメニューをもつ世界最高の料理として世のグルメ達が感嘆する中国料理と、いかに優れものであっても、ローカライズされたどんぶり一杯の麺とは比べようもないが、事実、その頃、冷め切った粗末な「団体用中国料理」に失望落胆した観光客は少なくなかったのである。
安値至上主義に凝り固まった品質無視の傾向は市場から遠ざかり、消費者も自分自身の足で動き回り、自分の旅行目的を満たそうとしている現在、このような苦情は二度と聞くことはないであろう。中国料理本来の魅力はその後十分に堪能され、今や香港を目指す観光客の殆どすべてが中国料理に代表される香港の「食」の魅力を大いに楽しみにしているのである。