欧州文化首都「ケムニッツ2025」開幕 本誌独占インタビュー
「欧州文化首都」とは、欧州連合が1985年から開催している文化事業。毎年、ヨーロッパ域内の2~3都市を選定し、それぞれの肥沃で多様な文化にスポットライトが当てられる。
2025年の「欧州文化首都」に選定されたのが、ドイツ東部の都市ケムニッツ。「ケムニッツ 2025」と銘打ち、周辺地域を含む同市の歴史や文化を反映した様々なプログラムが、年間を通じて展開される。
では、ケムニッツとはどんな町なのか、どんなプログラムが予定されているのか、「欧州文化首都」を経てケムニッツは何を目指すのか、来日したフリッツィ・ゼルトマン広報官に話を伺った。
ケムニッツについて簡単にご紹介いただけますか?
ケムニッツはドイツ東部ザクセン州、チェコと国境を接するエルツ山地の麓にある先進工業都市です。現在も自動車製造、機械工業が盛んですが、中世から織物業で栄え、ドイツ民主共和国(以下、旧東ドイツ)時代には、同国最大級の工業都市に数えられていました。
ケムニッツは、ほんの35年前まで「カール=マルクス=シュタット」と呼ばれていました。これは1953年5月に旧東ドイツ政府が、共産主義思想の創始者カール=マルクスの名を冠した市名に改称したためで、「カール=マルクスの町」という意味になります。
その後、1989年にベルリンの壁が崩壊。東西ドイツの統一に向け再編が進められた際、1990年4月に住民投票が実施され、ケムニッツという市名に戻されました。私は旧東ドイツ時代のケムニッツで生まれましたが、実は私の身分証明書にある出生地は今でも「カール=マルクス=シュタット」と、当時の名称で記載されています。
町中に残る産業建築や印象的な古い建物、グリュンダーツァイト(19世紀後半の創業者時代)など、混乱と激動を経験した都市景観に、興味を持たれる方は多いと思います。
ザクセン州の都市はドレスデンやライプツィヒが日本でも人気がありますが、州内でケムニッツはどのような立ち位置なんでしょう?
ライプツィヒは「取引」の町、州都ドレスデンは「消費」する町、<ザクセン州のマンチェスター>とも呼ばれる労働者の町ケムニッツは、その「工場」といったところですね。
ライプツィヒやドレスデンのような華やかさとは対照的に、ケムニッツは技術や物を生み出す力に長けた、多くのエッジを備えた「未研磨のダイヤモンド」のような存在であると、と私たちは自負しています。
近年、旧東ドイツ時代のイデオロギーを前面に打ち出したアートなどが注目されていますが、人々の目に現代のケムニッツはどう映っているのでしょうか?
ケムニッツで生まれ育った私には正直、ケムニッツがどう見えているのかは分かりませんが、今回ドイツフェスティバルでパフォーマンスを披露している「Blond」はケムニッツ出身で、ドイツ国内でも結構知れ渡っています。
「工業都市ケムニッツにも魅惑的なものがある」ということを、彼女たちの独特の定義と感性で表現しているのですが、その人気ぶりを見ていると、そうした関心の目がケムニッツにも向けられるようになっているのかも知れません。あくまでも個人的な見解に過ぎませんが…
では、ここからは欧州文化首都のお話を中心に、お話しをお願いできますか?
ケムニッツは2025年、ザクセン州中部、エルツ山地、ツヴィッカウ地方の38の自治体とともに「欧州文化首都」に選ばれましたが、ケムニッツとその周辺地域をつなぐ共通項が、豊かな「文化遺産」と「産業遺産」です。
「ケムニッツ2025」では<挑戦とプログラム>をテーマに、これまで見たことのないもの、発見されていないものの可視化を目指します。それを表現しているのが「C the Unseen」というスローガンで、これは『ケムニッツ – 目に見えない〈都市〉』とも読み取ることができます。
「欧州文化首都」という肩書は、バラエティに富む「ケムニッツ発見の旅」への招待状です。欧州文化首都として今年ケムニッツに焦点が当てられることで、ヨーロッパ全土において目に見えるようになります。
ケムニッツは今年、特にメディアから好意的な注目を集めることでしょう。
ゼルトマンさんのおすすめプログラムがありましたらご紹介ください。
「ケムニッツ2025」ではフェスティバル、展示会、演劇、パフォーマンスをはじめ、スポーツ、グルメ、ワークショップなど、とにかく数多くのイベントが催されます。もちろん、体験型のプログラムもたくさんあります。
中でもご注目いただきたいのは、地元の市民団体の関係者が幅広く参加できるように設けられた、文化と民主主義のためのプロジェクト「欧州ワークショップ」。これはドイツとチェコ、ポーランドとの協力も重点のひとつになっていて、若者と高齢者との取り組み、および世代間の交流に焦点が当てられています。
その他のおすすめは、
- 鉱業についての展示会(2025年6月29日まで)
- エドヴァルト・ムンク、不安(2025年8月10日~11月2日)
- 欧州の現実、欧州における1920年代1930年代のレアリズム運動(2025年4月27日~8月10日)
- テイルズ・オブ・トランスフォーメーション(2025年4月25日~9月16日)
- 東ドイツ時代のアート紹介 (2025年4月10日~8月10日)
- Begehungen芸術祭(2025年7月18日~8月17日)
- Hallenkunst(2025年10月24日~11月8日)
- フライ・オットー x 隈研吾 ~ 幾何学を超えて (2025年4月2日~6月)
- Schauplatz Eisenbahn(2025年3月~11月)
- ダンス | モダン | ダンス(2025年6月18日~29日)
- 玩具メーカー・フェスティバル(2025年8月29日~31日/ザイフェン)
- Light our Vision(2025年9月24日~27日)
ですね。あと、日本からもパフォーマンス集団「contact Gonzo」が、プロジェクトに参加します。
繰り返しになりますが、地元の関係者はもとより、国内外のアーチストが多数参加するプログラムも目白押しで、この町に暮らす人々の歴史と現在を伝える。積極的に参加体験することで、様々な出会いが生まれます。
また、ケムニッツは工業都市のイメージとは裏腹に、とにかく自然が豊かなんです。シュロスタイヒの池と隣接するキュッフヴァルトの森は、<ケムニッツの緑の肺>と呼ばれるほど。散歩におすすめです。
ケムニッツの人々は日本からの旅行者を歓迎してくださるでしょうか?
もちろんです! 今日もこの会場で、本当にたくさんの方にパンフレットをお渡ししました。
もし、日本の方をケムニッツの街中で見かけたら、「私がパンフレットを渡した人かな?」って思ってしまうかも知れません(笑)
最後に、欧州文化首都のその先へ向けての目標や、成果として期待されることはありますか?
ドレスデンやライプツィヒとは異なり、ケムニッツはまだ日本人にとって有名な旅行先ではない、そうでなかったのは確かですが、ケムニッツは2019年に世界遺産に登録された「エルツ山地」への玄関口でもありますので、今年は「欧州文化首都」と「世界遺産」の2つを全面に押し出し、イメージの刷新、今後の観光客の誘致につなげたいと考えています。
過去に「欧州文化首都」のタイトルを獲得した都市では、訪問者数が20%増加したという例もありましたので、2025年以降、もしケムニッツとその地域への訪問者でも同様の結果が得られたら、それは私たちにとって素晴らしい成果となるでしょう。
Chemnitz 2025: Kulturhauptstadt Europas
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