イタリア大使館が「珊瑚とカメオ・ジュエリー」のワークショップを開催
去る1月30日、東京都港区にある駐日イタリア大使館にて、ジョルジョ・スタラーチェ大使主催の「珊瑚とカメオ・ジュエリー」を紹介するワークショップが開催された。会場には、メディアや旅行業界、および装飾品関係者およそ50名の姿があった。
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駐日イタリア大使館で行われた「珊瑚とカメオ・ジュエリー」のワークショップ
このワークショップでは、南イタリアのトッレ・デル・グレーコにあるカメオの老舗「デリア社」の社長であるアルフォンソ・ヴィティエッロ氏が「トッレ・デル・グレーコと神戸間の文化交流・歴史」とナポリ湾に浮かぶ「イスキア島」を、岩田依子氏が「ローマおよびフィレンツェのマイクロモザイク」についての説明を行った。
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今回のイベントを主催したジョルジョ・スタラーチェ駐日イタリア大使閣下
ジョルジョ・スタラーチェ大使は、デリア社やプレゼンテーションを行う社長のアルフォンソ・ヴィティエッロ氏を紹介するとともに、「イスキアは、温泉が湧き出る風光明媚な島。日本の方にも訪れて欲しい。」と挨拶の中で述べた。
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ワークショップに続いて行われた大使公邸での懇親会の様子
トッレ・デル・グレーコと神戸
ナポリ県にあるトッレ・デル・グレーコは、「地中海に滴り落ちたメドゥーサの血から生まれた」とする珊瑚伝説が息づく町。「デリア社」は、そのトッレ・デル・グレーコから初めてニューヨークに支店を構えたカメオの老舗で、同社が上質な珊瑚から生み出す装飾品はどれも独創的で、唯一無二の存在感を放っている。
昭和天皇が皇太子時代にイタリアを訪問した際、デリア社に立ち寄られたという輝かしい歴史を持つ。
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デリア社を訪問された皇太子時代の昭和天皇
デリア社の顧客には、グレース・ケリー公妃やベルギー王室メンバーからソフィア・ローレンやマリア・カーラス、ナオミ・キャンベル、ミシェル・オバマ元米大統領夫人など、錚々たる世界のセレブリティが名を連ね、また映画『ティファニーで朝食を』のオードリー・ヘップバーンが身に付けていた宝石も同社が提供したのだという。
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ケネディ元米大統領もジャクリーン夫人にデリア社のカメオを贈った
長い歴史や豊かな文化があることは知りつつも、ヨーロッパにとってまだまだ日本が「未知なる国」であった19世紀。その時代にデリア家が、「第2の故郷」として選んだのが日本だった。
彼らが求めたのは日本の良質な「珊瑚」や「真珠」。まだまだアジアとヨーロッパの旅が困難を極めた時代で、その過酷さから旅の途中で命を落とした職人も少なくなかったという。プレゼンテーションの中でヴィティエッロ氏は、「祖父に聞かされた当時の旅の苦労話を思い出す」と語った。
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長崎には150年以上前からトッレ・デル・グレーコ出身者が住んでいた
その後、デリア社はすでに真珠の養殖で財を成していた「MIKIMOTO」でお馴染みの御木本幸吉と協力し、真珠の販売開発を推進。神戸に支店を開設し、日本からヨーロッパやインド、さらにアメリカへと拡大し、珊瑚や真珠、貝殻販売の先駆者となった。
2011年に建国150周年を迎えた現在のイタリア共和国だが、それ以前から日本の長崎にトッレ・デル・グレーコ出身のイタリア人が住んでいたというのは驚きである。この日、駐日イタリア大使公邸には、ため息がこぼれるような同社精鋭の逸品が並べられていた。
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駐日イタリア大使公邸に展示された美しい装飾品の数々
繊細なる「マイクロモザイク」の世界
「マイクロモザイク」は、テッセラと呼ばれる1ミリ以下の極小細工が美しいイタリアの伝統技術。18世紀末、ローマのサンピエトロ寺院で当時劣化の激しかった絵画の複製に、それ以前からイタリアに存在したモザイク壁画の技術を取り入れることにより誕生した。
ヨーロッパの名家の子弟たちが、学業の集大成としてフランスやイタリアを旅した17世紀から18世紀にかけての「グランドツアー」の時代には、絵画のように仕立てられたマイクロモザイク・ジュエリーを購入し、それを身に着けることが流行。英国を中心とする上流社会での一つのステータスとなっていたと言う。
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まるで風景画のようなマイクロモザイク
この時代のモザイク・ジュエリーは、コロッセやフォロロマーノといった古代ローマの遺跡や動植物、また宗教をモチーフにした古典的なものが主流であったが、一部の富裕層は自分のお気に入りの場所をモチーフにマイクロモザイクを注文した旅行客もいたという。
最も小さなテッセラが使われたのがこの時期で、19世紀後半になると小さなモザイクを貴金属の枠にはめ込んだブローチやネックレスやブレスレット、指輪などの宝飾品へと変化していった。また、修復されたコロッセオなどは、そこに描かれた形状を見ると製作されたおおよその年代が判るというのも興味深い。
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宗教画をモチーフにした伝統的なマイクロモザイク
イスキア島は一度行ったら忘れられない島?!
ナポリ近郊の美しい島というとカプリを訪れる日本人観光客が多いが、ナポリから約29キロ、ティレニア海に浮かぶ「イスキア島」は古い歴史を持つ、東西10キロ南北7キロの風光明媚な島である。
カラフルな可愛らしい港で人気のプロチーダ島にも近い大きな島で、人口は64.028人ほど。シチリア島、サルデーニャ島に次ぎ、イタリアの島としては3番目の人口規模を誇る。
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訪れるものを魅了するイスキア島の美しいビーチ (画像提供:イタリア政府観光局 - ENIT)
古代ギリシャ時代には、ギリシャ語で「壺の島」を意味する「ピュテクーサイ」という呼び名で知られ、その後別の解釈を経て「松の多い緑の島」として知られるようになった。
そんなイスキア島の最高峰が「エポメオ火山」。15万年におよぶ噴火を経て形成されたこの島には、蛮族西ゴート族の略奪から536年頃のビザンツ軍による征服。9~10世紀にはサラセン海賊の侵攻にもさらされた歴史がある。
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イスキア島の最高峰「エポメオ火山」 (画像提供:イタリア政府観光局 - ENIT)
英雄も癒されたイスキア島の温泉
イスキア島の温泉水は古代から知られ、当時からずっと活用されてきた。その火山性自然からヨーロッパ屈指の温泉地として知られ、ミネラルの多い温泉浴は治療の一環として、また泥療法も肌を美しく整えると有名である。
イタリアの英雄もイスキアのお湯で癒された (画像提供:イタリア政府観光局 - ENIT)
古代ローマ人も好んで治療や休息を目的にイスキア島訪れ、無数の公衆温泉浴場を島内に造った。17世紀から20世紀かけては源泉を引いた施設も登場し、イタリア統一運動を率いた英雄ジュゼッペ・ガリバルディも、「アスプロモンテの戦い」の後に島の温泉で疲れを癒したとされている。
イスキア島は、上質なワインも島の経済を支える重要な産業で、また山の空洞地で自然飼育されたウサギを使ったイスキア風ウサギ料理は絶品と言われている。
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島の経済を支えるワイン (画像提供:イタリア政府観光局 - ENIT)
「一度行ったら忘れられない」ほど魅力的だというイスキア島。トッレ・デル・グレーコで美しい珊瑚や真珠に細工を施した装飾品に魅せられた後は、イスキア島の温泉とグルメに癒されてみてはいかがだろうか。
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