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はてなブックマーク - ヨーロッパ最大級の野外博物館でラトビアの民族文化に出会う
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リガ郊外のユグラ湖畔にある「ラトビア野外民族博物館」は、1924年に設立されたヨーロッパ最古、かつ最大級の野外博物館だ。敷地面積はおよそ87.66ヘクタール。森の中にある広大な民族博物館で、ラトビアの4つの地方「クルゼメ」「ヴィゼメ」「ゼムガレ」「ラトガレ」から17世紀末から1930年代後半に建築された118の古民家が移築されている。また、定期的にイベントを開催し、ラトビア民族文化の学びや体験の場を提供している。



森に再現されたラトビアの原風景


旅を計画している国を理解するには、その国の歴史や文化は外せない。そうした基本的な情報は、出発前にガイドブックなどでも得られるが、より深いところで捉えられるようになるのは、やはり現地を訪れてからとなる。
首都リガには、そうしたラトビアの民族文化を垣間見るのに打ってつけの場所がある。それが町の中心部からバスやトラムで簡単にアクセスできる「ラトビア野外民族博物館」である。



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ラトビア各地の伝統家屋が集まる「ラトビア野外民族博物館」



最寄りのバス停から一本道の松林を抜けた先で出迎えてくれるのは、森に暮らすおしゃべりな鳥たち。豊かな自然に囲まれた「ラトビア野外民族博物館」は、国内外から年間135,000もの人々が訪れるリガの人気スポットで、観光客はもとより、ラトビアの人々にとっても自国の民族文化を継承していく上で重要な、楽しみながら学べる〈訪れるべき野外博物館〉となっている。



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日本人にとっても懐かしい茅葺屋根の伝統家屋



およそ87.66ヘクタールの敷地に集まるのは、ラトビアの4つの地方 – スウェーデンと国境を接する西部の「クルゼメ」、エストニアと国境を接する北東部の「ヴィゼメ」、肥沃な大地が広がる南部の「ゼムガレ」、そしてロシアと国境を接する東部の「ラトガレ」から移築された古民家の数々。ラトビアの原風景の中に点在する茅葺屋根が日本の伝統的な家屋を思い起こさせ、日本人にもどこか懐かしい温かな情景が広がっている。


自然の中で磨かれたデザインセンス

若い女性を中心に、人々の心を鷲づかみにする北欧デザイン。北欧の国々で洗練されたデザインが生まれる背景には、長く厳しい〈冬〉の存在がある。
冬場を室内で過ごす時間が長くなる北欧では〈生活空間の質〉へのこだわる人が多い。その中で周囲を取り囲む豊かな自然の造形にインスピレーションを受け、そのセンスが磨かれてきた。これは古来から自然とともにあった、ラトビアにも共通して言えることである。



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自然の形状を活かしたダイニングチェア



そんなことを考えながら移築された家屋に足を踏み入れると、また違った楽しみができる。そこにあるのは、日本の枯山水にも通ずる「引き算の美学」や「曲線美」。ダイニングテーブルにある自然の形状を活かした椅子は、森の中で探し当てたものだろうか?


エネルギーの有効活用を考えて配置された竈や暖炉。視線を上げた先にあるのは、白樺の木をくり抜いて作った花瓶。無駄のない、環境に優しいエコロジカルな工夫が室内の各所に見られる。
さり気ない遊び心が目を楽しませ、まるで呼吸しているような室内に癒される。どれも素朴だが、貧しさや粗末な印象はない。むしろ贅沢で、豊かな田園ライフが見てとれる。それは「Rural」の奥深さでもある。



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白樺の木で作った花瓶



生活スペースの母屋、その外に納屋があり、家畜小屋あり、お風呂あり、トイレありと、ラトビアの伝統家屋には日本との共通点が多いのも興味深い。まるで日本にいるような錯覚すら覚える。

19世紀後半には、ラトビアではほぼすべての農場の片隅に「ピルツ」と呼ばれるサウナがあり、そこで身体を芯から温め、清潔にし、同時に魂をも清めた。ピルツは、ラトビアの人々にとってスピリチュアルな場所で、出産にも利用されていた。野外民族博物館では、地域や年代の異なる様々なピルツが見られる。



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「ピルツ」と呼ばれるラトビアの伝統サウナ



自然信仰が息づくラトビアの民族文化

ラトビアの祭事で欠かせないのは、歌や踊りとともに継承されている民族衣装。その民族衣装に欠かせない織物や刺繍、編み物などは、ラトビアの伝統的な手工芸品で、特産品にもなっている。
野外博物館の中を散策していたところ、その途中で「本日は機織りのデモンストレーション中」と書かれた案内を見つけ、迷わず標識が指し示す家屋に足を向けた。


小さな窓から光が差し込む静寂な室内に、機を折るカタンコトンという音が心地良く響く。ラトビアのハンディクラフトは工場で大量生産されたものではなく、こうした小さな工房で一つ一つ丁寧に手作りされたものが多い。
その温かみのある風合いや特徴的なパターンは、知る人ぞ知る人気アイテム。今や日本でもラトビア雑貨の人気はうなぎ上りである。


この野外博物館では、テキスタイルに限らず、様々な手工芸品が実演販売されていたりするので、他所とはまた違う楽しみ方ができる。年に一度、初夏に開催されるラトビア最大の「民芸市」は、博物館の目玉となっている。



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古民家に静かに響く機織りの音



ラトビアはキリスト教(ルター派、カトリック、ロシア正教)の国だが、それ以前はカトリックのような自然信仰が根付いていた。自然信仰とは「自然」と「宇宙」と「自己」を一体化する思想。英語では時に差別的な意味合いも含め「ペイガン」と訳されるが、八百万の神を崇拝する日本の神道と共通点が多いことから、日本人に対してはより理解が深まるよう「ラトビア神道」と訳して紹介されている。


そうしたラトビアの自然信仰が反映された工芸品が、ラトビアの重要文化財にもなっている「リエルワールデ帯」だ。これは太陽、星、雷、蛇など、ラトビアで信仰されている自然から図案化された神々を文様にして織り込んだ神具の一つで、その神様(文様)はおよそ16ある。



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自然から図案化された神々を文様にして織り込んだ「リエルワールデ帯」



ラトビアでは、赤い毛糸と白の麻糸で緻密に織り込まれたリエルワールデ帯を使い、3人1組で自分の「守り神」を探すという「儀」が風習として残されているというのも、スピリチュアル女子にはたまらない。


リエルワールデ帯に限らず、そうしたラトビアの自然信仰は民族衣装やミトンなどにも映し出されている。また、地方によって使用されるモチーフや色などが異なり、パターンを見ただけで出身地まで分かることから、ラトビア人のアイデンティティの象徴するアイテムともなっている。



次は「ラトビアのカントリーサイドに癒される」

 



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