このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - エストニアの領主の館に泊まる
Share on Facebook
Post to Google Buzz
Bookmark this on Yahoo Bookmark
Bookmark this on Livedoor Clip
Share on FriendFeed


Banner-Alatskivi


ドイツやスウェーデン統治の歴史を持つエストニアには、荘園の領主たちが住まいとしていた「マナーハウス」と呼ばれる美しい城館が点在している。近年、それらの多くが修復され、ラグジュリーな宿泊施設として生まれ変わっている。エストニア南東部のペイプシ湖近くにある「アラツキヴィ城」も、一度は宿泊してみたいマナーハウスの一つである。


バルト諸国で最も美しいネオゴシック様式の城館「アラツキヴィ」


ペイプシ湖を離れ、近くのアラツキヴィへという小さな町へとやって来た。目の前に現れたのは、グリム童話の『白雪姫』にでも出てきそうなネオゴシック様式の壮麗な建物。この城館がこの日の宿だ。

客室はわずかに4室。オフシーズンの平日ということもあってか、他に宿泊客はおらず、意外なところで1日城主気分を味わうこととなった。



アラツキヴィ城

スコットランドのバルモラル城を模した「アラツキヴィ城」



「アラツキヴィ城」が建造されたのは17世紀のこと。その後、1876年から1886年にかけて当時の領主であったアールヴェト・ゲオルグ・フォン・ノルケン男爵が、スコットランドにある「バルモラル城」を模した優美なネオゴシック様式の城館に建て替えた。


1919年以降、この城館は様々な目的に利用され、社会主義体制の時代を経てボロボロになっていたが、2011年に地元住民たちが協力して修復。2011年にかつての美しい姿を取り戻し、「バルト諸国で最も美しいネオゴシック様式の城館」と呼ばれるようになった。



アラツキヴィ城ミュージアム

当時の領主たちの暮らしが垣間見られるミュージアム



現在は宿泊施設としてだけでなく、建物の歴史やかつての領主の暮らしぶりが垣間見られるミュージアムとして、またイベントや体験型のワークショップを提供する場として、一般に公開されている。


また、ミュージアムの一角では、エストニアの作曲家エドゥアルド・トゥビン(1905 – 1982)に関する展示も行われており、入館料を支払えば宿泊でなくとも見学ができる(10月~6月は月曜休館)。



アラツキヴィ城イベントホール

コンサートなどが行われるホール



「アラツキヴィ城」にはレストランもある。森と荘園に囲まれたこのマナーハウスでは、敷地内の湖で捕れた魚や旬の食材を使った料理を提供しており、エストニア料理はもちろん、ドイツやスコットランド料理が堪能できる。

重厚感あるインテリアに囲まれた静かなダイニングルームで、広い庭を眺めながらいただく食事は、単に贅沢や貴族気分が味わえるだけでなく、まるで<時間旅行>へと手招きされているような不思議な気分である。



Alatskivi_06

ディナーにはマナーの湖で獲れた魚料理も提供している




アラツキヴィで「田園ライフ」を体験


アラツキヴィでは、先述の城内でも陶磁器作りのワークショップや19世紀の衣装の貸し出し、領主夫人の名を冠したフラワーパーティー(5月)などが行われているが、その周辺にもローカルの伝統文化を垣間見たり、ツーリストでも気軽に体験できる場所がある。それが「オニオンルート」のメンバーになっている施設や店舗である。



Alatskivi_20

森の中に佇む「アラツキヴィ城」の散歩道



「マナーフレーバーズ」でエストニア産クラフトワインを味わう

森の中にひっそりと佇むマナーハウス「アラツキヴィ城」。外に出て湖畔を散策していると、城を囲む石造りの庭の裏に白壁と木の扉が可愛らしい建物が見えてきた。

「あれ? ここって…」と思った瞬間、扉から出てきて、こちらに向かって手を振っている女性の姿が…。そう、前日に立ち寄った「マナーフレーバーズ」のクリー・モスさんだ。クリーさんとその家族は、城の古い氷室(アイスセラー)で、エストニア産の果実を使ったクラフトワインを造っている。



mõisamaitsed

ローカルワインを造っている「アラツキヴィ・マナー・フレーバー」



エストニアで地産地消のムーブメントが進む昨今、家でもレストランでもテーブル並ぶ料理の食材は国産なのに、ワインだけは輸入された他国のもの。「それを、すべてエストニア産にできないものか? その方が料理との相性も良いはず!」と思ったのが、クラフトワイン造りに取り組むきっかけだったそうだ。

「マナーフレーバーズ」で現在、造られているワインは5種類。ブラックチョークベリー、シーバックソーン、チコリー、デラウエアといった地元で栽培されている果実が使用されている。



Alatskivi_13b

アラツキヴィ生まれのクラフトワイン



「エストニアでも上質なブドウが育ちつつある」と語るクリーさん。日本人の多くが「ワイン」と認知しているカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーといった黒ブドウ品種ではないため、慣れないと酸味が強く感じられ、一般的なワイン愛好家が好む味とは異なるものの、タンニンなどが少ないためお酒が苦手な人でも口に入れやすい。
当然のことながら郷土料理との相性も良く、これらのワインを扱う地元のレストランでの評判も上々なのだと、ケリーさんは胸を張った。

「マナーフレーバーズ」では、ビジター向けにテイスティングなども行っている(要事前予約)。英語もよく通じるので、おしゃべりを楽しみながら、アラツキヴィ生まれのクラフトワインを味わってみて欲しい。



ローカル感たっぷりの「キヴィ・タヴァーン」

「マナーフレーバーズ」から歩いて数分のところに、ショップを併設した「キヴィ・タヴァーン」がある。2004年5月にオープンした、テラス席のある地元密着型のカジュアルなカフェ・レストランだ。
主に地元の農家で作られた旬の食材を使ったオーセンティックな郷土料理が、リーズナブルな価格で堪能できる。



Alatskivi_10

ローカルの味と雰囲気が楽しめる「キヴィ・タヴァーン」



壁に鳥や魚が描かれたポップな外観と対照的に、内部は温もりを感じさせてくれるリビングのような快適な空間が広がっている。

奥に案内をされると、予約してあったテーブルの上いっぱに大皿料理が並べられ、そこに次から次への温かい料理が運ばれてくる。ホテルのビュッフェとは若干感じが異なるが、スウェーデンが発祥の「スモーガスボード」、いわゆるバイキング料理を連想させるその食のスタイルは、かつてこの国がスウェーデンの支配に置かれていた時代の名残や伝統を見てとれる。



レストラン

ローカルの味と雰囲気が楽しめる「キヴィ・タヴァーン」



と同時に、テーブルを横付けして大家族が一緒に食事する、日本の田舎の食卓のようにも見てとれ、肩の凝らないリラックスした雰囲気に不思議と親近感が湧いてきて、自分が遠い異国の地にいることを忘れさせてくれる。

エストニアも核家族化が進み、昔ほどではないようだが、今でも家族や友人たちが集うと、こうして大皿に入った料理を分け合いながら、食事を楽しむのだそうだ。



Alatskivi_12b

名産の玉ねぎを使ったパイは絶品!



北に位置している割には塩分が控えめで、ナチュラルな優しい味わいのものが多いエストニアの伝統料理。この「キヴィ・タヴァーン」の自慢は、ホームメイドの焼き立てパンだ。「レイブ」と呼ばれるライ麦を主原料にしたエストニアの黒パンは悶絶の美味しさ。加えて絶品「オニオンパイ」も筆者の一押しである。



伝統工芸品のお店は町の郵便屋さん

「キヴィ・タヴァーン」の目と鼻の先にあるのが、町の郵便屋さんを兼ねたローカルの伝統工芸品が集まるハンディクラフトショップ。可愛らしい石造りの建物の内部には、カーペットや陶器、籐のカゴ、手織り物、リサイクル家具からジュエリー、そしてお土産品まで、エストニアのありとあらゆるハンディクラフト製品が、ところ狭しと並べられている。



ギフトショップ

伝統工芸品が集まる「ハンディクラフトショップ」



あれもこれもと目移りしてしまうほどで、雑貨好きな女子には堪らない、一度中に足を踏み入れたら、なかなか出てこれない魅惑の空間である。



ハンディクラフト・ファームで伝統の機織りとルーラルを体験する

「エストニアの伝統的な家は、1本の大きな木を中心に構成されているんですよ」と教えてくれるのは、ペイプシ湖のほど近くにある「トゥルギ・タル」のエルゴ・ハート・ヴァストリクさんだ。

「トゥルギ・タル」は、エストニアの伝統的なログコテージがあるハンディクラフトファーム。エルゴさんの奥さん、ヴェイニカ・ヴァストリクさんは、何冊もの本を出版しているエストニアで有名な織り物の先生で、工房を兼ねた自宅で伝統的な機織りを指導や、国内外のツーリストにルーラル体験の場を提供している。



トゥルギ・タル

ハンディクラフトファーム「トゥルギ・タル」



「オニオンルート」のプロモーションを担当するリースさんに連れられてファームを訪れたこの日は、あいにくヴェイニカさんはタルトゥ大学へ行っていて不在。代わりに「僕はあまり上手ではないんだけど…」と謙遜しながら、エルゴさんが機織り機の使い方を丁寧に指導してくれた。

大きなフィンランド製の機織り機が置かれた工房には、太い紐がたくさん転がっていた。一つの機織り機の上には、エストニアの伝統的なパターンで織られたマットが並べられていた。



機織り体験

機織りのワークショップ



「あ~ キミは飲み込みが早いね。機織り機の動きをもう理解している」と、褒め上手なエルゴさん。床に敷くようなマットは折り目をキツく、身につけるものは力を抜いて、一列一列丁寧に織り上げていく。コツを掴むにつれて、楽しさが増していく。

筆者は、簡単なレクチャーと体験する程度にとどまったが、初心者は民族衣装のベルトやスカーフなどお土産用の小物の作り方を、上級者は特殊な織り方を教えてもらえる。さらに宿泊して指導を受けると、地産の家庭料理やエストニアの伝統的なサウナも体験できる。



Alatskivi_24c

季節の野花で作った自家製のハーブティーとハチミツ



体験が終わると、エルゴさんが慣れた手つきでハーブティーを入れてくれた。エストニアではお茶も手作りだ。「良かったら自家製のハチミツも一緒に味わってみて」とエルゴさん。ハチミツを先に含んでからハーブティーを流し込む。そのいただき方はロシア風だ。

鳥のさえずりをバックミュージックに、オーガニックのハーブティー片手に続く、尽きることのないおしゃべり。そこにあったのは、奥深い伝統文化と豊かな時間が流れるエストニアの<ルーラル>だった。



次は「ローカル気分でシティブレイクを満喫」

 



このページの先頭へ