タリンで大人なシティブレイクを演出
中世が薫るその街並みは「リアル ドラクエ」と、日本人観光客の間で今大ブレイクしているデスティネーションの一つが、エストニアの首都タリン。バルト海を挟んだお隣の国フィンランドのヘルシンキによく似たこの街を存分に楽しむなら、観光客の多いスポットを避け、暮すような旅「シティブレイク」を楽しむのがイチバン!
そこで、ここではタリンで<大人なシティブレイク>を満喫したいという方のために、当編集部お勧めのテーマやスポットをご紹介しよう。
バラエティー豊かな「フード・ライフ・バランス」を楽しむ
街はのどかで、平和そのもの。ユネスコ世界遺産に登録されているタリン旧市街の路地を歩いていると、自由で押しつけのない、スローな時の流れを感じる。人や文化に寛容な北欧社会。それは人々の「食生活」にもよく表れている。
タリンの街中を歩いて真っ先に気づいたこと。それは「Vegan」という文字が、やたらと目に止まることだ。
ヴィーガン(Vegan)とは、今世界中に急速に広まっている動物性食品をいっさい口にしない「完全菜食主義」のこと。エストニアでも多くの人々が環境や健康へ関心を寄せており、食事もそれらを考えて選ぶ。それは何ら特別なことではなく、エストニアの人々にとって身近なフードカルチャーとして根付いているようだ。
ラエコヤ広場から歩いて3分ほどの場所にある「Vegan Restoran V」は、数ある中でもタリンで特に人気のヴィーガン料理レストランだ。目印は、鮮やかなオレンジ色の壁と目玉焼きがのったフライパン。この店では、乳製品を使わない完全なヴィーガン料理に加え、それにグルテンフリーをプラスした料理を提供している。
洞窟をイメージした店内はいつも満席で、「予約必須」という噂も本当らしい。夏にオープンする小ぢんまりとしたテラス席までいっぱいだ。ここは環境や身体だけでなくお財布にも優しいレストランで、スープは5ユーロ前後から、メインコースも9~13ユーロという、北欧とは思えないリーズナブルな価格設定も人気の秘密のようだ。
環境に優しいヘルシーライフは安全な食材から!
ヴィーガン・レストラン店に象徴されるようにエストニアはまた、オーガニック先進国でもある。エストニア国内で完全にオーガニック化された農地占有率は、バルト三国で最も多い12.8%(出典:EKOCONNECT/2010年)。そのうちの2/3を牧草地が占め、とりわけ加工品を含む牛肉や羊肉などのオーガニック食肉生産においては、リトアニアやラトビアを一歩リードする形となっている。
そうした背景には、オーガニックを推進するEUからの助成の差などもあるが、歴史を遡るとエストニアに限らず社会主義時代を経験した国では、農薬が高値でほとんど普及せず、農地が薬品で汚染されずに守られてきたという点もあるようだ。これは余談だが、エストニアの豊かな森で育ったベリーは、実は日本でもかなり早くから輸入されていて、主に医療食やサプリメントなどに姿を変えて市場に出回っている。
オーガニック先進国エストニアの特徴は、国内外の製品を問わずスーパーマーケットなどでたくさんのオーガニック製品が入手できること。国内にはオーガニック製品を取り扱うブランドも多く、食品に限らず、お土産にしたら喜ばれそうなオーガニックコスメなどもある。
タリンの再開発エリアにある「バルティ駅市場」には、2004年にタリンで生まれたオーガニックブランド「BIOMARKET」のストアーが入っている。穀物からバルクフーズ、さらにデリまで、オーガニック食品が豊富に揃う同ブランド最新かつ最大級の店舗で、焼き立てのパンと淹れたてのコーヒーの香りがそそるエコベーカリーも併設されている。
環境に優しく、身体の中からキレイになりたい、そしてオーガニックのトレンドリーダーを目指したいナチュラル派の人にとって、エストニアのオーガニック事情は見逃せないテーマである。
マニア垂涎⁈ 社会主義時代のアンティーク探し
鉄道駅に隣接する「バルティ駅市場」は、1階部分には上でご紹介した「BIOMARKET」の他にも、ファーマーズマーケットや肉や魚のマーケット、ショップ、国際色豊かなカフェやレストランが集まる、3層構造の複合施設になっている。地下にはエストニアの大手スーパーマーケットチェーンの「SELVER」もあるが、せっかくなら覗いてみていただきたいのが2階だ。
このフロアーは衣料品を中心に家具や雑貨を扱う店が集まっているが、その一角にアンティークショップがあり、マニア垂涎の社会主義時代のグッズもたくさんある。
1991年にエストニアが、旧ソ連からの独立回復を宣言してからまもなく30年。当時は見たくもなかったであろう「海の波」と呼ばれる深緑色の軍服も、当時を知らない若者にとっては興味が尽きないアイテムのようで、ここで知らない時代を垣間見たり、お宝探しをするのも楽しそうだ。
ヒップスターなカフェでビアタイム
「バルティ駅市場」のすぐ近くに、もう一つ社会主義時代を感じさせてくれる面白い場所がある。それが「PEATUS」だ。
ここは旧ソ連型の食堂車を再活用したカジュアルなレストラン。二つの車両が留め置かれ、一つはレストランとして、もう一つはキッチンとして利用されている。その二つの車両の間と前に、カフェとして利用できるテラス席が設けられている。トイレもほぼ当時のままで、鉄ちゃんにもたまらないスポットでもある。
英語で「STOP」を意味するこのお店。一体、何をストップなのか。エストニアには同じ名前のバス会社や交通ネットワーク検索システム(時刻表)があるが、単に車両基地や停車駅という意味合いでのストップなのか、はたまた旧ソ連への支配はもうゴメンという意味のストップなのかと想像していたら、朝食であったり、友人と過ごす時間であったり、リフレッシュのためであったり、日常の中の「時間を止める」という意味らしい。何にせよ妙にくすぐられる店構えである。
良く晴れたこの日、訪れた時にはすでに多くの利用客の姿があったが、運良く空いているテーブルを見つけ、私もここで少し時間を止めてみることにした。
すでにランチを済ませた後だったので、タリンの醸造所「Koch」のインペリアル・スタウトとIPAを味比べに1本ずつオーダーしてみることに。どちらも捨てがたいが、IPAはとにかく香りが素晴らしい。ドイツ文化の影響を受けているエストニアのビールは、ドイツに負けず劣らずの美味しさだ。
頬をなでる爽やかな春の風と、どこかノスタルジーを感じさせる景色。そして、バックに流れる音楽がリアルな今のエストニアの姿を浮き彫りにしている。なんという心地良さだろう。
話しが反れるが、筆者がエストニアに強く興味を持つきっかけとなったのが、タリン生まれのピアニスト、トヌー・ナイソー率いるJAZZトリオのアルバム「Tõnu Naissoo Trio」だった。
このトヌー・ナイソーは2017年にアルバム『1967』を日本でリリースしているが、この1967年は社会主義体制の中にあったエストニアで社会や芸術に大きな影響を与えたヒッピー・ムーヴメントが沸き起こった年。トヌー・ナイソーの音楽の原点にもなっているという。
それから半世紀。彼の世代には未だその時代をノスタルジーと呼べない思いがあるというが、それでも話しを聞いていると「単なる記憶ではなく、未来へとつながる道の基点」と捉えている人は多い。この「PEATUS」で時間を止め、そうした時代に思いを馳せていると、さらに一歩、エストニアの人々に近づけたような気がしてくる。
大きな屋外テントで映画鑑賞
日が長くなると、短い夏の日差しを大いに楽しもうと屋外イベントが増えるヨーロッパの国々。映画もその一つで、イタリアなどでも初夏になると映画館がクローズし、屋外で上映会が行われる。とはいえ、上映が始まるのは日没後。ヨーロッパの北に位置し、日没が遅いエストニアではどうなんだろうか、と思っていたら、意外な方法で屋外上映を楽しんでいた。
自由広場に現れた大きなテントは、特設映画館。前方に大きなスクリーンが設置され、テントの後ろの方に観客席が設けられている。この日は、目当ての映画を楽しもうと、朝から行列ができるほどの盛況ぶり。その日の上映プログラムは、テント横の大きなモニターでチェックできるようになっている。
とはいえ、やはりヨーロッパ。上映作品はハリウッド映画のような娯楽性が高いものというよりも、ドキュメンタリーや名画と呼ばれるクラシカルな作品が多い印象だ。エストニア語が基本となるため、ツーリストには少し難しいかも知れないが、日本では観られない作品も多いので、エストニアの歴史や大衆文化に興味のある人、ローカル気分を味わいたい人には貴重な体験となるに違いない。
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