フィンランド南岸部に春がやって来た。
ヘルシンキの西、およそ50キロメートルの距離にあるロホヤは、古くから石灰鉱山や交易で栄えた町。シンボルはウーシマー県最大の氷河湖で、2000メートルから4000メートルもあった氷河が溶けて隆起したこの大地には、フィンランドで最も早く春が訪れる。まだ5月中旬だというのに、水着を着て湖で遊ぶ子どもたちの姿。
さぁ、このロホヤでフィンランドの春と田園ライフを満喫してみよう!
「シベリウスの世界」へようこそ
太古の昔から存在する森は、動植物を育み、守り、知恵を授け、癒やし、そして時に自ら盾になって人間を守ってきた。森は、フィンランドの人々にとっての一つのアイデンティティであると同時に、大切なパートナー。人々は森との共存を何より優先して暮らし、またその森から多くの癒しやインスピレーションを得てきた。
ヘルシンキの西に位置するロホヤは、「フィンランド第2の国歌」とも呼ばれる交響詩《フィンランディア》を作曲した国民的作曲家、ジャン・シベリウスゆかりの地。イタリアから帰国後、作曲の手を止めたシベリウスが活力を得て作曲活動を再開し、《交響曲第二番》を完成させた地でもある。
シベリウスに多くのインスピレーションを与えたロホヤの森と湖には「シベリウスの世界」が広がっている。
湖畔にある「ファール・レッド」と呼ばれる赤い壁が印象的なユーゲント・シュティール様式の建物は、シベリウスなどの文化人が集ったサマーハウス。往時は2階が宿になっていたというが、現在はカフェ&バー「ヤルヴィ」として営業している。
かつて文化人が集ったこの場所は、今もローカルにとっての憩いの場。このカフェにはテラスから伸びた湖を臨む気持ちの良い東屋があり、そこでライブミュージックを楽しんだり、夏至の日に踊り明かしたりするのだという。
森が教えてくれる幸福の価値観
「世界一幸せな国」の称号を不動のものとした国フィンランドの文化やその価値観は、古くから森とともに育まれてきた。
フィンランドと言えば「ゆりかごから墓場まで」を社会福祉政策のスローガンに掲げる優れた福祉国家の一つ。特に近年は「ジェンダー平等の先進国」や「子育て支援が充実した女性に優しい国」として、日本をはじめ世界各国の注目を集めているが、個の利益を欲することなく、何においても「平等であること」を大切にするこの国では、日本なら健康保険が適用されても高額な治療費が避けられない癌でさえ、少額で治療が受けられるのだという。
フィンランドの森は、そうした分け隔てのない「平等な社会」の象徴。その森を歩くと「なぜフィンランドが『世界一幸せな国』と言われるのか」という、その理由も感じ取れる。フィンランドの森には、そんな不思議な力までもが潜んでいる。
国土の75%以上が森林で占められているフィンランドには「自然享受権」というものがある。フィンランドにある森林のおよそ60%は国民が個人もしくは家族で所有しているが、この国では国有・私有にかかわらず森や沼地に自由に人が入って、自生するベリー摘みやキノコ狩りをしたり、レクレーションが楽しんでも良い、という権利が平等に与えられているのだ。
「持続可能性」を全面に押し出した観光プログラム
「幸福は自然との共存によってもたらされるもの」と考えられているフィンランドで2019年10月、「サステナブル・トラベル・フィンランド プログラム」が発表された。
これは手付かずの自然環境とともに、純粋でありのままの文化やライフスタイルを育み、それらの保護や保全を目的とした、人と環境の双方に優しい「持続可能性」を全面に押し出したプログラムのことで、フィンランドでは2015年に国連加盟国が発表した持続可能な開発目標「SDGs」をベースに、企業はビジネスとサステナビリティの両方の観点から事業を評価するよう求められている。
では、フィンランドの人々は森とどのようにかかわり、そこにツーリズムはどんな形で表現されているのだろう。
ロホヤ観光局の協力を得て、地元で「HomeVisit プログラム」を提供する公式ネイチャーガイドのリータ・ライネさんと、森へ出かけてみることにした。
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