森を案内してくれた公式ネイチャーガイドのリータ・ライネさんは、2017年にバルト海に面したラトビア、エストニア、フィンランド南岸部が協力して発足した「CAITOプロジェクト」に関連し、ロホヤにある自宅に外国人観光客を迎え入れる「HomeVisit プログラム」を提供している。
都市観光と真のカントリーサイドでのルーラル体験とのバランスを促す「CAITO プロジェクト」は、2019年秋に Visit Finland が発表した「サステナブル・トラベル・フィンランド プログラム」にも共通する事業モデルの一つでもある。
心を豊かにする「世界一幸せな国」の田園ライフ
「HomeVisit プログラム」を提供するリータさんは、ご主人と2人の息子さんと暮す4人家族。自宅は、ロホヤ中心部からおよそ1キロメートルの場所にある。今から100年ほど前、ロホヤの美しい風景をモチーフに作品を描いたフィンランドを代表する女性アーティストのエレン・ファヴォリンさんが暮らしていたお宅だという。
ロホヤ湖を一望する広々としたこのリータさんお宅で、「世界一幸せな国」と呼ばれるフィンランドの人々が普段どんな暮らしをしているのか、実際の生活目線で体験できる。
リータさんのお宅でまず最初にチャレンジしたのが、フィンランドの伝統的なキノコスープ作り。ロホヤの周辺では初夏にはベリー摘み、秋にはキノコ狩りが楽しめる。なんでもリータさんの上の息子さんはキノコ狩りの達人、そしてご主人が作る特製キノコスープは絶品なのだ。
フィンランドに限ったことではないが、欧米では男子といえども厨房に立つ。ライネ家秘伝(?)のキノコスープは、リータさんのご主人の直伝だ。
サウナとソーセージはセットで楽しむべし?!
最近、日本でも人気のサウナ。フィンランドで生まれた本場のサウナは、私たちが一般的に知っている情報よりも実は奥が深い。ここではサウナについての細かな話は割愛するが、フィンランドの家庭には必ずと言って良いほど自宅にサウナがある。ちょっとした立ち話の中でも「もうサウナは体験した?」と聞かれることも珍しくはない。
フィンランドの人々でサウナは、肉体だけでなく精神にも「浄化の場」。そして、サウナは心を割って人と話をする場で、フィンランドでは「重要な決断は、会議室ではなくてサウナで」されてしまうほど大切な場所。フィンランドやこの国に暮す人々のことを理解したければ、<サウナを知る>のがイチバンなのだ。
リータさんのお宅にも、地下に立派な家庭用サウナがあって体験させてもらえる。
フィンランド式サウナを知っている人にとっては公衆サウナや、湖畔のサウナ小屋で汗をかいて、身体が十分に温まったところで裸のまま外に飛び出し、湖や雪の中にドボーン!というイメージかも知れない。実際、そうした体験をさせてもらえる場所もあっても、家庭のサウナを体験させてもらえる機会は、友だちや知人でもいない限り、そんなチャンスは滅多にない。
高台にあるリータさんのお宅のサウナから湖にダイビングは危険過ぎるが、身体が温まっては外にでてベランダでロホヤ湖を眺めながらクールダウン。そして、再び熱いサウナの中へと戻る。気分はやはり爽快だ。
サウナを終えて出てきたら、夕食に焼きソーセージはどうかと尋ねられた。
なんでもフィンランドでは、昔からサウナと焼きソーセージ「マッカラ」はセットで楽しむものらしい。サウナの後のビールとソーセージは確かに格別である。
本来は、サウナで熱したサウナストーンが冷めないうちにソーセージを石の上に載せて焼くのが一般的のようで、そのための筒のような焼き器まで売られているようだが、ライネ家ではもっとワイルドに。
焼き器に入れたり、網に載せて焼くのではなく、まるでバイキングのように持ち手の長い、銛のような棒の先に刺して、暖炉に起こした炎にかざして焼く。
これが実際にやってみると、重さもあって炎からの同じ距離をキープするのが意外と難しい。「このソーセージ焼きには、コツがあって難しいんだー」と言いながら見せつける、どこか優位な表情に悔しさを覚える(笑)
そうこうしているうちに、待ちに待ったディナータイムの時間だ。ここで登場したのが、先に仕込んであったキノコスープ。そして、リータさんが用意してくれたサラダ、焼き立てのソーセージ、そこにロホヤ湖の絶景と楽しいおしゃべりが加わり、何ともにぎやかで贅沢な食卓となった。
デザートには、こちらもリータさんお手製のブルーベリータルトと、デザートワインの「Juhani CiderberG」。後者は地元ロホヤのワイナリーで造られているブルーベリーのリキュールで、なかなか日本ではお目にかかれないデザートワイン。どちらも酸味とのバランスが良いブルーベリーの味がギュッと凝縮されていて、ほっぺたが落ちてしまいそうな美味しさ。肉厚の果肉が入ったブルーベリータルトには、生クリームをたっぷり添えるのがフィンランドスタイルだ。ローカル感満載だ。
実はこの日、ライネ家のご厚意で限られた時間でのプログラムに、もう一つ楽しいオプションが付いた。
それは湖でのモーターボート。ライネ家の男性陣は釣りも好きなようで、ボートには魚群探知機も付いていた。お風呂上がりにモーターボートで夕涼みは、初めての体験だ。
とはいえ、何も彼らにとっては特別なことではない。これが手付かずの自然環境とともに暮らす、フィンランドの純粋な、ありのままのライフスタイルで、そこには単なる物質的な豊かさだけでない、それ以上にもっともっと大切な「持続可能な日常」がある。
ほんの1日、彼らと時間を共にしただけだったが、フィンランドがなぜ「世界で最も幸福な国」と言われるのか、理屈抜きのその理由が筆者にも伝わってきた。
バルト海沿岸の田園を旅しよう!
今、世界では観光のあり方が変化しつつある。その中でも特に注目が集まるのが、従来の都市観光の中心にある「アーバン」から飛び出した場所にある「ルーラル」、つまり農部での体験を通じた「田園ツーリズム」だ。
相対する意味で用いられるこの2つの言葉は、 <アーバン化の理想はルーラル化> ともされる現代においては「共生」する存在で、また「持続可能な観光」という観点からも今後はそのバランスがより重要となっている。EUのサポートを受け、田園ツーリズムを促進するために発足した「CAITOプロジェクト」の狙いも、まさにそこにある。
従来の都市型観光も確かに魅力的だが、手付かずの自然環境の中で育まれた、純粋でありのままの文化やライフスタイルが根付く田園地方での体験は何にも代えがたい。その体験こそが一般的なエコツーリズムやネイチャーツーリズム、アグリツーリズムなどとは一味違う、田園ツーリズムのおもしろさでもある。
ラトビア、エストニア、フィンランド南岸部の田園を、次はあなたが旅してみるのはいかがだろう。
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