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はてなブックマーク - オニオンルートで出会うロシア文化
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ラトビアから国境を越え、エストニアにやって来た。5月も中頃だというのに、湖面をなでた風は頬に突き刺さるように冷たい。目の前に広がるのはロシアとの国境線が敷かれたペイプシ湖。ここはエストニア、ロシア、そしてバルト系ドイツ(バルティック・ジャーマン)の文化が混在する、エストニアでも類まれな民族文化が育まれたエリアである。まずはこの地で体験できるロシア文化のご紹介から始めよう。



オニオンルートの旅


「オニオンルート」は、エストニア第2の都市タルトゥから北東へおよそ40キロ、ロシアとの国境線があるペイプシ湖までを結ぶ観光ルートのこと。ここはその昔、ロシア正教の主流派から分離した古儀式派が移り住んだ土地で、ここで美しい玉ねぎを栽培して販売していたことから「オニオン」の名が冠せられた。



ペイプシ湖

ショウドウツバメが生息するペイプシ湖西岸のカラステ



ペイプシ湖は、エストニア最大の湖。面積は琵琶湖の5倍ほどで、ロシアとの国境線はこの湖の中央にある。最大の島はピーリッサール島(エストニア領)。13世紀半ばの「氷上の戦い」で、アレクサンドル=ネフスキー率いるノブゴロド公国軍が勝利を収めた、リボニア騎士団との決戦の地としても知られている。

様々な民族の伝統文化が根付くこのペイプシでは、伝統食やライフスタイルが雄大な自然とともに楽しめる。湖の西岸の岩肌に巣を作っているのはショウドウツバメ。この岸壁の上にロシア正教古儀式派の信者たちが眠る墓地がある。



ビジターセンターでロシア文化を垣間見る

このペイプシを訪れたら、まず足を運びたいのがコルチャにある「ペイプシ・ビジターセンター」だ。19世紀の終わりに建てられた木造家屋で、ロシア正教古儀式派の伝統的な手工芸品を紹介するとともに、それらの販売や木版染めのワークショップも実施している。



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ビジターセンターで販売されている手工芸品



日本の藍染めを思い起こさせる青地の染め物は、この地域に暮らすロシア系住民の伝統的な染め物で、染料はチコリ。そこに図柄を描いた型を用意し、模様を付けていく。日本にも同様の木版染めの文化があるが、日本からおよそ8千キロメートルも離れたエストニアの地に、日本と酷似した伝統文化が根付いていることに不思議な繋がりを感じる。



模様付け型

文様が描かれた木版染めの型



染料となるチコリの使い道は、それだけではない。エストニアではコーヒーの代りに飲まれたり、キャロットケーキのつや出しにも使われたりする。

チコリコーヒーは、乾燥させたキク科キクニガナ属の多年草「チコリ」の根を焙煎してから抽出した、コーヒーのようなハーブティー。カフェインを含まず、エストニアはもとより、ヨーロッパ各地でも「デカフェ」として広く愛飲されている。コーヒーのようなこのハーブティーは、美肌効果も抜群なのだという。



チコリのコーヒーとケーキ

チコリコーヒーと、チコリのクリームを塗ったキャロットケーキ




ビジターセンターでは、キャロットケーキにチコリのクリームを塗ったケーキをご馳走になった。
この地域の人々は、砂糖も手作りしている。見た目は固形の黒砂糖で、大きさも様々。それをチコリコーヒーに溶かすのではなく、1かけら口に入れてからコーヒーを味わう。それがロシアンスタイルなのだという。

ほのかな甘みと、苦みの効いたチコリコーヒー。そこにナッツがたくさん載せた甘さ控えめのケーキを頬張る。そのほんわかとした口いっぱいに広がる優しい甘さと楽しいおしゃべりに、心まるごととろける感覚だ。



ロシア感満載のゲストハウスに泊まってルーラル体験

黄土色などトーンの低い色をした壁が多いエストニアの伝統的な家屋。一方、同じエストニアでもロシア系住民が集まるペイプシ湖周辺は、イエローやピンクなどカラフルな家屋が多いのが特徴だ。
案内されたグリーンの家「Mesi Tare」もそのひとつ。エストニアの言葉で「ハチの巣箱」を意味するこの建物は、観光客向けにユニークな体験と滞在を提供するゲストハウスだ。



旧ソ連型車両

マニアにはたまらない旧ソ連型の車両



このゲストハウスがあるのは、ペイプシ湖畔のヴァルニャ村。鮮やかなグリーンの建物の周辺には、日本の農村部でも見られる「畝(うね)」や畦道が広がり、ここがロシアを隔てた遠い異国の地であるということ忘れさせてくれる。ただひとつ、ゲストハウスの横に留められた旧ソ連型の車両を除けば・・・の話ではある。

狂気の政権が生み出した時代のものも、当時を知る人にとっては懐かしさを感じさせる、まったく知らない世代にとっても新たな観光素材として再び活路を得ていることに、時の流れを感じる。



Mesi Tare Home Accommodation

寒い中、サモワールを沸かして待っていてくれたホストファミリー



とはいえ、それは「モノ」の話。1988年の「歌の革命」を機に、エストニアがソビエト連邦からの独立回復を宣言したののは1991年8月20日のこと。民主化からまもなく30年が経とうとする今、人々の表情に優しさがあふれている。「バルト三国の中で最もおっとりとした国民性」というのも頷ける。

日本同様、「茶で人をもてなす」という習慣があるロシア文化。春とは思えないほど冷たい雨が降る中、真っ赤なスカーフを頭に巻いたホストファミリーの女性が、サモワールを沸かしながら出迎えてくれた。彼女の顔に浮かんでいたのは、寒さをも一気に吹き飛ばしてしまうかのような、春の陽だまりのように温かい笑み。そこにロシア系エストニア人のおもてなしが感じられる。



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強力な暖炉で温められたゲストハウスの居間



2階建てのこのゲストハウスは、左右に大きく2つに分けられている。左にキッチンとバスが付いたリビングと寝室が、右は1階部分に居間とサウナ、2階に寝室があり、1フロア、もしくは家全体をレンタルできる。シンプルではあるが、ロシアの伝統的なかつエコロジカルな居心地の良い空間が広がっている。


日本でもサウナが人気だが、この「Mesi Tare」には <キング・オブ・サウナ>と呼ばれるエストニアのユネスコ無形文化遺産(2014年登録)の「スモークサウナ」をはじめ、「フィンランド式サウナ」、エキゾチックな「フィルムサウナ」や「テントサウナ」があり、ここに宿泊すると好きなサウナを選んで利用できるのだという。



ゲストハウスの中にあるフィンランド式サウナ

ゲストハウスの中にあるフィンランド式サウナ



「Mesi Tare」では、キャンプや凍結した湖でのサファリなど、滞在中の様々なアトラクションも提供している。かなりのディープ感はあるが、非日常やペイプシ湖畔のルーラル、ロシア文化を体験するには理想的な環境となっている。


次は「領主の館に泊まる」

 



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